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騎士姫と姫騎士の違いについて力説された

「来たかユキ」

「ハッ。火急の要件と聞き参じました」


 メルディア王国のハインツ王子の執務室。

 窓辺で佇んでいる王子に対し、騎士モードのオネエが片膝をついて応えています。


「突然すまない。しかし事は急を要する。その上おいそれと漏らすこともできない問題でね」

「そんな問題を私などに?」

「フッ。相変わらずユキは謙虚だね。力と人格を備えた理想の騎士と誉れ高い君の影響力は、その忠誠がなければ危険因子として排除されかねないほどだというのに」

「恐縮です。しかしそれは私を見出してくださったハインツ殿下の慧眼あってのこと。私はただその恩をお返しするのみ」


 そう言って改めて忠誠を言葉に誓うオネエ。

 その姿は実にイケメンです。


「では、問題というのは?」

「ああ。実は……」


 オネエの問いに、しばし沈黙を挟んで答えるハインツ王子。


「……いい加減代わりの妃候補を決めろとせっつかれているのだけど、どうしよう」

「しらないわよ」


 執務机に両手をつき項垂れていうハインツ王子を、それまでの騎士モードを捨てたオネエがオネエ口調で切り捨てました。


「冷たいじゃないか! ユキだって私がことあるたびに香水臭い必死な令嬢軍団に囲まれてるのは知ってるだろう!?」

「ああ。あれは美しくないわね。まるで女の悪い部分を凝縮したような集団だわ」


 ハインツ王子が自分の苦労を察しろと言ったのに、むしろそのハインツ王子に群がってる令嬢たちを酷評するオネエ。

 そもそもオネエに相談するのが間違っていると思う人も居るかもしれませんが、オネエは一応既婚者で生物学的には男なので案外間違ってません。


「大体グレイスはどうしたのよ?」

「君がそれを言うのか?」


 グレイスの名前を出したオネエを恨みがましく見るハインツ王子。

 しかし当のオネエはどこ吹く風です。


「グレイスの私への恋なんて風邪みたいなものでしょう。なんだかんだ言って殿下のことを憎からず思ってるんですもの。押せ押せで行けばあっさり倒れるわよ」

「しかしだなあ……」

「殿下。私のことをとやかく言う前に、そのヘタレっぷりを何とかしなさい」

「グハッ!?」


 オネエに急所を一突きにされて崩れ落ちるハインツ王子。

 しかし男は本命の相手には臆病になると言われているので、ハインツ王子がヘタレているのも仕方ないのかもしれません。


「まあこのまま有耶無耶にするのもありだとは思うわよ。そしてもう誰でもいいから選んでくださいと、周りが妥協するしかないタイミングでグレイスを選べば完璧ね」

「なるほど!」

「ただしその時までグレイスが売れ残ってるとは限らないけれど」

「売れるに決まってるじゃないか!」


 オネエの言葉に執務机を叩きながら絶望してんだか惚気てんだか分かんない叫びをあげるハインツ王子。

 しかし団長やオネエに続く団内ナンバー3のグレイスを口説こうとする勇者などそう居ません。

 ポジション的には完全に騎士団のオカンです。


「政敵は楽しそうに追い詰めるのに、何でグレイス相手にはこうなのかしらね。一度告白はしたんでしょう?」

「あ、ああ。しかしそれ以来妙に避けられているというか、目が合ってもそらされたりしてね。……私は嫌われてしまったのだろうか」

「……」


 いつの間にそんなに面白いことになってたんだという言葉を飲み込み、生温かい視線をハインツ王子に向けるオネエ。

 これはもうグレイスの方をたきつけたほうが上手くいくかもしれません。


「まあでもグレイスに王妃様なんて向いてるとも思えないのよねえ」


 個人的には応援したい二人の恋ですが、公人としてのオネエはあまり積極的に動く気はありません。

 正室にするにしろ側室にするにしろ、グレイスを王妃にするということは彼女から騎士の位を、一人で生きる力を奪うということです。

 そしてグレイスが王妃として過不足なくやれるかと言われると疑問が残ります。


 案外アサヒさんみたいに勢いでなんとかするかもしれませんが、あれは極めて特殊な事例なので参考にしてはいけません。

 というかグレイスがアサヒさんみたいにフリーダムになったら、間違いなくメルディア王国は収拾がつかないカオス国家になります。

 もうなってるだろとか言ってはいけません。


「まあ頑張ってる人は幸せになるべきだと思うし、二人にその気があるなら私も手伝おうかしらね」


 そう呟いてどうしたものかと苦悩しているハインツ王子を見守るオネエ。

 今日も異世界は平和です。


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