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ダブル炭水化物

「何でお好み焼き屋なんだよ」


 のっけから頬杖ついてそんな愚痴を漏らしているのは、江戸っ子外務大臣な柳楽くんです。

 目の前にはジュウジュウと音を立てて焼けている豚玉。

 文句言いつつもかなりの大玉です。


「最近は自分で焼けるお好み焼き屋さんは減ってきましたからね。この店を見つけて是非とも柳楽さんにもお教えしないとと思いまして」

「ああそりゃありがたい。ありがたいんだがな」


 食堂楽な柳楽くんにとって美味くて安い店を紹介されるのは実に喜ばしいことです。

 では何故乗り気に見えないのかというと……。


「むう。こうして焼けるのを待つというのも中々忍耐がいるな」

「グライオス陛下はせっかちですからね」

「あらあら。でもこうして自分で調理する店というのも面白いですね」


 柳楽くんや安達くんとは対面に座ってお好み焼きやいてるグライオスさんとローマンさんとシーナさん。

 つまりはいつもの異世界会議のメンバーです。


「何で真面目な話する時いっつも飯屋に呼び出すかね安達さんは」

「その方が気安く話せるでしょう。ああ、シーナさん。裏返すのなら私がやりましょうか?」

「い、いえ。自分でやってみます!」


 そう言って両手でヘラを構え、プルプルと震えながら慎重にお好み焼きをひっくり返すシーナさん。

 無事成功し周囲から拍手が集まります。


「あの……。この場が異世界に関する話をするためのだということは分かったのですが」


 無事お好み焼きもひっくり返りさてもう少し待つかとなったところで、柳楽くんや安達くんと同じ側に座っていた最後の一人が恐る恐ると手をあげて言います。


「……何故私がここに?」

「月込くんの冷静なつっこみは大変ためになりますからね」

「そうだな。議長も褒めてたぞ月込」

「鳴海です。というか本当にやめてくださいよそのあだ名! 最近私の住所宛に『月込』名義で手紙来るんですよ!」


 そうつっこむ月込くんこと鳴海くんですが、実は一番多い名義は『つっこみのお兄さん』なのは内緒です。

 そして住所が書かれていなかったり間違ってても鳴海くんちに届けるあたり、郵便屋さんも実によく分かっています。


「さて。今回集まっていただいたのは、異世界で大きな動きがあったからです」

「大きな動き? あ、シーナさん青のりとってくれ」

「はいどうぞ」

「え? 本当にこの空気のまま話し始めるんですか?」


 本題を話し始める安達くんと、話しながらもお好み焼きを着々と自分好みに完成させていく面々とつっこむ鳴海くん。

 そしてつっこみながらもソース塗ってる鳴海くんも中々に毒されてきています。


「実は異世界側からこちらへと門を開ける可能性が出てきまして」

「ふほぉお!?」


 いきなりの衝撃発言に鳴海くんがお好み焼きを吹きました。

 でも吹き出したのは空気だけでものはちゃんと口の中で暴発させてるあたり、中々の紳士です。


「おお。いい反応ではないか月込とやら」

「これがリアクション芸というやつなのですね」

「違います!? あと私の名前は鳴海です!」


 フィッツガルドコンビからの称賛につっこむ鳴海くん。

 つっこみだけでなくボケもこなすとは将来が楽しみな人材です。


「というか何故皆さんはそんなに落ち着いてるんですか?」

「何故と言われても、召喚返しはアマテラス様の仕業だが、その前の召喚は人の手によるものだしなあ」

「その内あちらの魔術研究者がそういったものを完成させるのではとは思っていましたから」


 寝耳に水だった鳴海くんとは異なり、異世界人の面々はいつかこういったことになると予想していたようです。


「それで向こうの日本人が滞在している各国が集まり、いざ門を開いてどういった対応をするかと会議しているそうです」

「それで、あちらさんはどんな要求をしてくるかアンタ方に聞きたいわけだ」

「要求ですか」

「すまんがそこの給仕。豚で一品追加だ」

「おお。俺もイカ玉頼むわ」


 さてと考えるシーナさんとローマンさん。あとあんま考える気がないらしく追加注文してるグライオスさんと乗っかる柳楽くん。

 人が食べてるの見ると自分も食べたくなるからね。仕方ないね。


「あちらが冷静ならば最初はせいぜい数人の人材交流ではないでしょうか?」

「やはりそうですか。こちらとしてもいきなり門戸を広げるのは避けたいですしね」

「あまり欲をかいても、双方のコントロール下から離れると何が起きるか分かりませんしね」


 シーナさんの意見に納得する安達くんと追従するローマンさん。


「技術は魔術と科学の方向性が違いすぎるので、その前提を両者が認識するまでは下手に混ぜない方がいいでしょう。人材交流を密にするにしても、こちらもそれぞれの文化の違いなどを両者が認識しないといらぬ騒ぎを引き起こしかねない。

 慎重すぎると反対意見もでるでしょうが、やはり初めは直接的な接触は減らし、知識などの交流を深めるべきでしょう」


 そう締めくくるローマンさん。

 流石侯爵子息。色恋沙汰が絡んでいなければ意外に普通に優秀です。


「ふむ。ではこちらの文化や歴史などの本を準備しておきましょうか」

「あの……思ったんですが」

「はい?」


 結論が出たところで、再び恐る恐ると手を上げる鳴海くん。


「あちらに召喚された日本人や、こちらに来ている異世界の方々はともかく。それ以外の異世界間の人間では言葉が翻訳されず、まともに会話もできないし字も読めないのでは?」

『……』


 鳴海くんの指摘に沈黙する他の面々。


「……そういえば言葉違うんでしたっけ」

「普通に話せて読めたから忘れておったな」

「私も。学校で歴史や地理の授業ばかりに苦戦して言葉の壁を忘れていました」

「そこに気付くとは。やはり天才か」

「やはり鳴海くんはできる男ですね」

「……」


 称賛されたものの、なんか納得いかないとともに大丈夫かこいつらと思う鳴海くん。

 今日も日本は平和です。


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