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カレーを食べたいと友人に漏らしたら何故かカレー鍋を囲んで宴会になっていた

 鍋料理。

 かまどや囲炉裏といったものがある日本では古くから鍋を囲んでそれを取り分けるという料理は一般的ではあったのですが、現在のような鍋を大勢でつつくというスタイルは文明開化後の牛鍋によって一般化したと言われています。


 でも文明開化で囲炉裏とか一般家庭になくなっちゃったので、カセットコンロが登場するまでは逆に家庭では鍋料理が食べられなくなるという謎現象が起きています。

 火の取り扱いは難しいからね。仕方ないね。

 でもガスコンロも油断すると爆発して火柱上がったりするので気をつけましょう。


 ……私はやってませんよ?


「む! オグニル! 肉を一度に何枚もとるのではない!」

「なんじゃと!? 一枚ずつとってもおまえさんみたいに皿にてんこ盛りにするなら一緒じゃろうが!」


 そしてそんな鍋を囲んで何やら言い合っているのは、元皇帝なグライオスさんとドワーフなオグニルさんです。

 流石の皇帝陛下も異国の料理を前にしてはお奉行様にもなれないらしく、お互いの意地汚さをあげつらい醜い言い争いをしています。


「二人とも。肉はまだあるのだから喧嘩するな」

「まったくだ。育ちが知れるぞ」


 一方冷静に鍋に肉を投入するマカミさんと、白菜やネギを中心に野菜もバランスよくとっているグラウゼさん。

 一見優雅に食ってるグラウゼさんですが、吸血鬼風貴族メンが鍋をつついてる姿は違和感バリバリです。


「……そういえばおまえは犬なのにネギは平気なのか?」

「俺は犬ではなく狼だ」


 グラウゼさんの疑問にいつもの定型文を返すマカミさんですが、問題はそこではありません。


「あちらは盛り上がってるでござるな」

「あれはどちらかというと騒然としてるんだと思いますけど」


 一方少し離れて別の鍋をつついているヤヨイさんとエルテさん。

 こちらの鍋の具材は魚介中心となっており、他にも魚大好きなフェリータさんや、ヤヨイさん大好きなローマンさんが居ます


「むうぅ、煮込んだだけで魚がこんなに美味しくなるなんて……」


 まだ慣れてない箸をぎこちなく使いながら、鱈の切り身を味わい唸るフェリータさん。

 どうやらディレットさんに続いて、こっちの人魚も陸の味に魅了され始めているようです。

 海の幸なのに陸の味って意味分かりませんね。


「ふっ。やはりあの集団の中では食べるどころではないと肉を諦めた私の判断は間違っていなかった」


 一方隣の肉鍋の惨状を横目に鮭や豆腐などを小皿に入れていくローマンさん。

 どうやら単にヤヨイさんにつられただけではなく、隣のおっさん集団相手では取り分がなくなると思って避難してきたようです。

 ヘタレと言われそうですが、実際現在の安達家の中で一番戦闘力が低いのはローマンさんだから仕方ありません。


「そういえばフェリータさんが魚食べるのって共食いにならないんですか?」

「種類が違うから大丈夫」


 唐突にえぐい質問をするエルテさんと、冷静に返すフェリータさん。

 比較的常識的で大人しいと思われているエルテさんですが、たまに悪気なしで急所狙いの一撃が飛んでくるので案外曲者です。


「しかし一見ただの煮込み料理だというのに、これほどうまみのあるというのも奥が深いのう」

「食材を入れる順番にもこつがあるんですよ」


 そして最後の一鍋は、肉や魚介はなしの野菜中心の鍋。

 リィンベルさんが椎茸を食べて一息つきながら言い、シーナさんも追加の食材をタイミングよく入れるとしらたきを自分の小皿によそっています。


「ううむ。やはり茸は煮込み料理にあいますな。他にもどんな料理があるか調べておくとしましょうか」

「ひ、ひたが……」


 対面に座るナタンさんはえのきを中心としたキノコが気に入ったようで、他にどんな料理に使えるかと考えているようです。

 そしてその隣で豆腐を勢いで口の中に放り込んで火傷してるイネルティアさん。涙目になってますが、ある意味いつも通りなので放っておいても多分大丈夫です。


「ただいま戻りました。おや。今日はお鍋ですか」


 各々の鍋で各人が舌鼓を打つ中帰宅した家主の安達くん。

 どうやら外も冷え込んできているらしく、鼻の頭が赤くなっています。


「おかえりなさいアダチさん。すいません先に食べ始めてしまって」

「いえいえ、構いませんよ。私一人のために皆さんを待たせるわけにもいきませんしね」


 いつの間にか安達くんの横に移動して上着を受け取るシーナさん。

 良妻っぷりが板についています。こんな光景を見られたら本当にガルディアのリチャード陛下と安達くんの一騎打ち待ったなしです。


「おお、帰ったかアダチ! ほれ、アダチの分の肉を入れんか!」

「おかえりでござる。まだ蟹が残ってるでござるよ蟹」

「帰ったか。食べるならこちらの鍋に来い。清酒も用意してあるぞ」

「そんなに一度に言われても困りますよ」


 そして家主の帰宅に気付くなり、一斉に声をかける異世界人の面々と困ったように笑う安達くん。

 今日も日本は平和です。

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