デッドエンドローグ
この道……いつだっけ……初めてのはずなのに……
「今日は奢ってやるから、何でも頼んでいいぞ」
ファミレスのメニューを悩みながら眺める少女に俺は格好付けた。
すると少女は、メニューから顔を見せ、上目遣いでこう言った。
「何でも……いいの……?」
俺はそんな少女の言葉に強く頷いた。
「とは言ったけど……流石にこれは無いわ……」
数分後には、数千円相当の三品の料理が机の半分を占領した。
「ありがとう……いただきます……」
満面の笑みを浮かべながら口に料理を運ぶ少女を眺めながら、時々財布に目をやった。ギリギリ足りる。
まあ、この顔を見ると何故か許してしまう。
ちょっとぐらいの高出費ならいいか。
そう思いながら、少女を眺めた。
「そう言えば、お前まだ名前を聞いてなかったな。俺はキサラ。お前は?」
俺が尋ねると食事の手を止め、箸をテーブルに置いた。
「……頬月 青葉」
フルネームで自己紹介した。俺のコードネームが何か恥ずかしい。
「アオバって呼んでいいか?」
「うん……じゃあキサラって呼ぶね……」
あー、そう言えば初めて友達が出来た時もこんな感じだったっけなー。
財布をポケットにしまい込み、再度アオバを見た。
「食べながらでいいけどさ、アオバって能力が発現したの、いつなんだ?」
最初の言葉が無意味なぐらい、アオバは遠慮無く次々と料理を頬張る。
「……発現?」
ナギは能力の発現条件を教えてないようだった。
「最初……からかぁ……」
溜息混じりに俺は口を開く。
「とまあ、そんな感じだ」
十分という長い時間で俺は能力について説明した。
正直、疲れた。
説明し終わると、アオバは手を止めて口を開いた。
「多分……いじめられてたから……かな……」
「いじめ?」
俺が問いかけると、アオバは唇を噛む。
「高校になってから……クラスの人にいじめられるようになったんだ……」
「……相談相手とかは? 中学の友達とか……」
アオバは首を左右に振る。
「それから……ずっと一人だった……でもある日、三人の女の子に遊びに誘われたんだ……」
「良かったじゃ無いか」
「うん……最初はね……でも、ずっと遊んでたんだけど……」
その一言を最後にアオバの目からは涙が溢れていた。
「……それ以上は話さなくていいよ……大体分かったから……」
俺はポケットティッシュをアオバに手渡す。
「……ありがとう。話したら気が軽くなった……」
涙を拭きながらアオバは笑顔で俺を見る。
でも、きっとアオバの心は大分叫んでるはずだろう。
「もう友達なら居るだろ?」
「––––っえ?」
俺は笑いながらアオバにそう言った。
「みんな、お前の友達だよ。もちろん俺も」
アオバは満面の笑みで深く頷いた。
涙ほど人を輝かせる物は無い。そう思わせる笑顔だった。
「お待たせしました!」
隣の方からウェイトレスさんの声が聞こえ、目の前に料理が置かれる。
「遅いよ……」
俺は苦笑いでそう呟いた。
俺の心の涙は輝かせてくれなかった。
ファミレスからの帰り道、久しぶりの街並が見たくて、少し遠回りして帰ろうと帰り道を変えた。
先の見えない並木道を俺たち二人は横に並んで歩いていた。
「手……繋いでもいい……?」
アオバは周りを何度も見ていた。
どこを見ても恋人だらけの道を見ると誰だって恋人の振りをしたくなるのだろう。
「あ、ああ。いいよ」
少し恥ずかしがりながらも、アオバの手を優しく握る。
「これが……恋人……」
それ以上言うのはやめてくれ! それでなくても心臓がおかしな動きしているのだから。
少しぎこちないが、我慢してアオバに歩調を合わせる。
「こんな道を友達と手を繋いで歩くなんて……初めてで笑が止まらないや……」
いや、こっちは最速で動く心臓が止まらないです。
「今は恋人じゃなかったのか?」
少し冗談交じりに、笑ながら言った。
「うん……そうだね……へへへ……」
ぐあっ! 何を言っているんだ俺はっ! 心臓に釘を刺している様なものじゃないかっ!
騒ぐ鼓動に耐えながらも、俺はアオバに笑顔を見せつける。
十分の一は苦笑いで。
「今度は……春に来たいな……皆で」
「なるほど……花見か。いいな、来よう!」
桜の木だが、今は深緑だ。きっと、春になると満開に咲いている事だろう。
その瞬間、一つの言葉が頭を過ぎった。
『一週間後の君に聞いてみてよ』
一週間後から先があるという補償ができないのだ。
でも、今だけはアオバに未来を見させてあげようと思った。
俺は笑顔で賛成した。
十月一日に何が起こるかも分からずに。
「くそっ……俺だけ置いていかれた……」
家にて、白髪の少年が一人、家に取り残されていた。
「俺も、飯食いに行くか……」
一人で……
何を考えているんだ俺はっ!
何度も頭をかきむしり、髪がボサボサになってしまった。
九月二三日午後二時三十分。
こんにちは! あるまです!
申し訳ないですが、次話から急展開で進ませていただきます。
もう一つの方は変わりませので引き続きお楽しみください。
とは言っても次話が最終話なんですけど……
今まで読んでくれたみなさま! ありがとうございました! 最後もよろしくお願いします!