力の痛み
一週間後……十月一日に……
「アエリア? そんな所で何やってんだ?」
目覚めたのはいつもの自室。アエリアは俺のベッドの横に立っていた。
ふと、アエリアの目から涙が溢れ出した。
「アエリア……どうしたんだよ……」
話しかけても何の反応も無い。
「どうして……どうして死んじゃったんだよ……キサラ……」
「何言ってんだよ……俺はここに……」
顔をベッドに埋めて泣くアエリアに一生懸命言ったが、全く聞こえてなかった。
すると突然俺以外の物が全て弾け飛び真っ暗闇に投げ出された。
「何だよ……これ……」
暗闇の先に光は無く、ほぼ無に等しかった。
「そう、これが君の望んだ世界。神も捨て世界をも捨て、そして人間を捨てた」
少女の声が俺の頭の中に響く。
「違うっ! 俺はこんな世界を望んでない!」
「そうかな? じゃあ自分に聞いて見てよ。あと一週間後の君に……」
それだけ言い残すと世界は元どおりに戻り、視界が白く輝いた。
「一週間後、君の強さが分かるよ……」
「ラ……キ…ラ……」
誰かが俺の体を揺さぶる。
「キサラっ!」
少女の声が耳に響き俺は飛び起きた。
「あ、アエリア……」
「もうびっくりしたよ。キサラがいきなり泣き出すから」
「え? 泣く?」
俺は恐る恐る目元に手をやった。
目から流れる涙が俺の頬を濡らしていた。
「いつの間に……」
「寝ながらずっとだよ? 怖い夢でも見たの?」
アエリアは俺にハンカチを差し出す。
「いや。何でも無い……」
それが俺のいつもの悪い癖だった。
昔から一人で背負い込んでは響乃から怒られ、それでも一人で頑張っていたのだ。
「心配するんだよ? さっきだって私に内緒で女の子連れて帰って来たのに」
女の子……ああ。そっか……
「あの子は?」
「え? あの女の子は応接室で寝かしてるよ?」
「あの、応接室に連れて行ったのか?」
恐る恐るアエリアに聞く。
「うんっ!」
満面の笑みでアエリアは答えた。
「いやっ! あれ! 誤解を産むだろうがっ!」
今のでパッチリと目が覚めた。
「いや。だって誰か来た時は応接室へっていう風習だから……」
「どんな風習だよっ! そんな風習ならいっそのこと捨てちまえっ!」
ダメだ……あの独房だとあの子の気がおかしくなりそうだな……
「いや……その……えーっと……てへっ!」
「てへっじゃねえよっ!」
やばいっ! 今すぐ助けに行かないとっ!
廊下を走り階段を駆け下りてまた廊下を走り鉄扉を勢い良く開ける。
注:マンションです。
「人さらい……?」
完全に誤解されていた。
「これって叫ぶべきなの?」
「いや……叫ばなくてもいいと思––––」
突然少女は息を吸い込む。
「やばい……」
俺はすぐさま部屋から飛び出て鉄扉を勢い良く閉めた。その瞬間。
防音の応接室を越えて鉄を擦り合わせるような叫び声がマンション中に響き始めた。
「この部屋……! 防音じゃなかったのか……!」
耳を抑えながら音風を耐える。
「耳が……張り裂けそうだ……!」
とうとう耳までも悲鳴をあげ始めた時、叫び声は終わりを告げた。
「何て叫び声だ……」
息を切らしながら、鉄扉を開ける。
「なるほど……そう言うことか……」
部屋の中は見たことも無いぐらいの力で空間が揺らいでいた。
「なんだったんだ……今の叫び声は……」
廊下から耳を抑えてよろけながら、ナギが歩いて来る。
「多分……この子の能力だと思う」
俺は揺らぐ空間の中に平然とした顔で座っている少女を見た。
「ごめんね……叫んだりして……ありがとう……」
少女は壁に向かって話し出した。
「この子の能力……もしかしたら、空間と対話する能力なんじゃないか?」
「空間と対話?」
「この空間の揺らぎも膨大な力じゃ無くて、壁が自分から音漏れをさせたのかもしれない……」
俺の推測からするともしかしたら……
この少女は動植物や物体と話す事が出来るのかもしれない……
「私……いつになったら、返してくれるの……?」
これ……完全な誤解だよな……
「何でこんな所に連れて来るんだよ」
小さな声でナギにそう伝えた。
「風習だからな……」
だからそんな風習捨ててしまえっ!
俺は心の中でそう怒鳴った。
「あのさ……君、自分の能力に気付いてる?」
不信そうにこちらを見る少女にそう聞いた。
「能力……?」
あ、そこからですか。
「ほ、ほら! 誰も居ないのに声が聞こえたり……」
「あんまり気にしなかったけど……これって能力だったんだ……」
逆に凄いよねそれっ!
「まさか……昔から聞こえてたりとか?」
「そんなことはないけど……大人の人でいろんな声がするって言う人がいたから……」
「それは一部の危ない人だからっ!」
心の中で抑えていたツッコミが耐えきれずに声に出してしまった。
「危ない……人?」
それは何と言うか……誰のこと言ってるのか分からないよ……
「それはともかく! 君には不思議な能力があるから。俺たちと一緒に行動して欲しい」
「中二病……?」
………今の話……聞いてた?
泣きながら心の中でそう囁いた。
「ナギ……お手上げだ……あとは頼んだ……」
俺はナギの肩をポンと叩き部屋から出て行った。
「どうだった?」
部屋に戻ると笑顔でアエリアが迎えてくれた。
「お前……あの声聞こえなかったのか?」
顔を見る限り何の事と言いたげな様子だった。
俺はアエリアが何者なのか知りたかったのかもしれない。
少なくとも人間というレベルではないだろう。
「ナギに任せたよ……」
俺は疲れた表情を見せアエリアの質問に答えた。
「そう言えば。ナギ大丈夫かな……よろよろだったけど……」
アエリアの耳の方が気になるよ……俺的に……
「本当に聞こえなかったのか? あの叫び声……」
俺は再度アエリアに聞いた。
「さ、叫び声! キサラもしかしてあの少女に……」
話にならなかった。
でも大体理由が分かった気がする。
アエリアなら自分の周りに空間を展開させて音を閉じ込める事が出来るのだから。
それからしばらくして、いつの間にか寝ていた俺は目を覚ました。
「……アエリア?」
ベットから立ち上がり家中を探すが誰一人居なかった。
「みんな、どこ行ったんだ?」
ふと、リビングに居た俺はダイニングテーブルの上に置いてあった紙に気が付いた。
『食材を切らしたのでデパート行ってくる』
紙にはカノンの字でそう書かれていた。
「それって、みんなで行く必要あるのか?」
そんな事を思いながら、自分の部屋に戻ろうとリビングを出て廊下を歩く。
「お腹……空いた……」
不気味な声で何者かに耳元で囁かれたせいで、俺の心臓は高速で動きだし、声を張り上げて叫んだ。
「居たのなら普通に話しかけて欲しかった……」
リビングに戻りダイニングテーブルに座る。
「ごめんね……必死だったから……」
時刻は昼前、きっと朝は何も食べなかったのだろう。
「いいよ。それより俺たちと居る気になったのか?」
「……うん。団長さんの話を全部理解した……」
「そうか。じゃあ、出掛けるか」
俺は立ち上がり、ダイニングテーブルに置いてあった書き置きの紙を手に取る。
「……どこか行くの?」
俺はカノンの書き置きの下にこう書いた。
『耐えきれないんで、飯食ってくる』
少女はこの字を眺めながら頷いた。
「歓迎会には丁度いいだろ?」
この時だけ何故か心が踊った。
「今の楽しい時間を、大切にするといいよ……」
九月二三日午前十一時三十五分。
こんにちは! あるまです! 第三章が最終章になりそうな雰囲気……な、あるまです。
書くのが面倒とかそんなんではなくて。
自分的に言って
「正直言って……面白くないし……」
とか、言われるぐらい、意味不明文章に気が付きました。遅くてすみません。
なので、今まで支えて下さったみなさまありがとうございました! 最後まで見届けてくれると光栄です!