空の町のお話
忙しく仕事をしながら毎日を過ごしていると、ふと空を見上げる事がある。
真っ青な空を見つめていると、小さかった頃の事を思い出した。
実は、空に町があるんだ。
お前はまだ小さいから、この世の事なんて知らないだろう。
だからおじいちゃんが教えてあげるよ。
空を見てごらん。
青い空と白い雲があるだろう?
だけど、あの空の中には町があるんだ。
その町は、とても広くて、たくさんの人が住めるんだ。
しかも、不思議なところでな。
動物がそこに住むと、お喋りができるようになるんだぞ。
犬や猫、カメや鳥。
とにかく色んな動物とだ。
ワクワクするなあ?
行ってみたいと思うよなあ?
でも、だめだ。
うんと小さい子供は、行っちゃいけないところなんだ。
不幸な事故で迷いこんでしまう子供もいるかもしれないけど、それはとってもよくない事なんだ。
迷い込んだ事は悪くないけど、本来まだ行ってはいけない事だからな。
だから、お前は行こうとは思わないでおくれ。
なら、大人はどうなのかって?
お前のお父さんとお母さんか。
うーん。
彼等もだめだ。
二人にはお世話しなくちゃいけない子供が、つまりお前さんがいるだろう?
行ったら二度ともどってこれないから、だめなんだ。
お父さんとお母さんに会えなくなるのは嫌だろう?
だから、彼等もまだ行かない方がいいんだ。
行っていいのは儂くらいの歳よりじゃないとなあ。
お前のおばあさんはもうきっと、空の町についている頃だろうな。
きっと、ずっと前に飼っていたポンタとも仲良く話をしながら暮らしているだろうよ。
おばあちゃんに会えるなら、すごく行きたくなったって?
こらこら、駄目だって言っただろ。
この話は、お前に覚えておいてほしいから教えてやっただけで、空の町に行ってほしいから喋ったわけじゃないんだ。
儂の言ってる事が、よく分からないだって?
すまんすまん。
少し難しかったかもしれないな。
ともかく、まだ空の町へは行かない事。
いいな。
あっちへ行くのは一方通行だから。
行ったら戻ってこれないぞ。
儂との約束だ。
ほれ、指切りしよう。
大人になった俺は、おじちゃんからしてもらった話を思い出して、空を見上げる。
大きくなった今ならおじいちゃんが何であんな話をしたのか理解できた。
子供の頃は何も知らず、空の町に憧れて、早く行ってみたいと思っていたなと思い出す。
おじいちゃんが死んでしまった時も、あまり悲しくなくて、いつか会えるものだと思っていたから。
今はもう、空の町へのあこがれは消えてしまったけれど、その代わりおじいちゃんへの感謝の気持ちが残っている。
大切な人との死別で悲しい思いをさせないように、気遣ってくれたおじいちゃんの愛情は、空を見るたびに俺の心を温かくしてくれた。




