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第8話『お父様。エルフとは何なのですか?』

 久しぶりに帰ってきた家に、私は安心感を覚えながらエルフリアさんの手を引いて、お父様とお母様が待つ応接室へと向かっていた。

 エルフリアさんは人と接する回数が限界を超えたのか、私の手をギュッと握りながら、やや疲れた様な顔をしている。


「大丈夫ですか? エルフリアさん」

「う、うん……だいじょう、ぶ」

「……あまり大丈夫そうではありませんね。お父様とお母様にご挨拶が終わったら、一緒にお部屋へ行きましょうか」

「……うん」


 エルフリアさんはどこか眠そうでもある。

 疲れたという事なのだろう。


 私はなるべく早く終わらせようと、玄関の近くにある応接室の扉をゆっくりと叩いた。


「お父様。お母様。アリーナです」

『入りなさい』

「はい」


 扉の向こうから聞こえてきたお父様の声に頷き、私は扉をゆっくりと開いた。

 そして、部屋の中に居たお父様とお母様にご挨拶をする。


「ただいま戻りました」

「あぁ、おかえり。怪我は無かったかい?」

「はい。何も問題はございません」

「そうか。それは良かった。それで……」


 お父様とお母様の視線がエルフリアさんへと向けられる。

 私はニッコリと微笑んでエルフリアさんのご紹介をする事にした。


「ご紹介させていただきますね。こちらエルフのエルフリアさんです」

「……ドウモ」

「南方の森で出会ったお友達なんです」

「そうか。エルフか」

「……確かにエルフですわね」


 何だろうか。

 お父様もお母様も難しい顔をしている。


「あの……」

「時にアリーナ」

「は、はい!」

「アリーナはエルフという存在を知っているかな?」

「そんざい……? えと、エルフリアさんの事ではないのでしょうか」

「それは正しい。だが、それだけでは無いのだ」


 お父様の仰っている事の意味が分からず、私は首を傾げてしまう。

 しかし、私の手を握っているエルフリアさんは緊張している様だった。

 握られた手に汗の流れる感触がある。


「それほど緊張しなくても良い。私たちは君をどうこうするつもりは無いのだ」

「……」

「なんて言っても、信用できないとは思うがな」


 お父様は緊張しているエルフリアさんに語り掛けるが、エルフリアさんはサッと私の背中に隠れてしまうのだった。

 何か事情があるのだ。


「お父様。エルフとは何なのですか?」

「……うむ」

「教えてください。お父様!」

「私は、構わないがね」


 お父様はチラリと私の方を……いや、私の後ろに居るエルフリアさんを見ながら語り掛ける。

 おそらくは、エルフリアさんの気持ちを確認しているのだ。

 ならば、と私はエルフリアさんに言葉を向ける。


「……エルフリアさん」

「っ」

「聞かせては下さいませんか? エルフリアさんの話を」

「……ゃだ」

「……」

「だって、ありーなも、きらいになる」

「エルフリアさんの事を?」

「……」


 背中の向こうで小さく頷いた感触に、私は少しばかり思考を巡らせる。

 私がエルフリアさんを嫌いになる。

 何故?


 何が起きれば、私はエルフリアさんを嫌いになるだろうか。

 うーん。

 うーん。


 思いつかない。


「多分、嫌いにならないと思いますよ?」

「分からないよ! そんなの!」

「でも、私も分からないんです。どうやったらエルフリアさんを嫌いになるか」

「……く、口では、何とでもいえるよ」

「それは確かに」

「え?」


 私はエルフリアさんの言う通りだなと頷いて、背中に張り付いているエルフリアさんから離れ、正面に向き直る事にした。


「ではエルフリアさん。私の心を読んで下さい」

「ここ、ろ?」

「はい。エルフリアさんは望んだ魔法を生み出す事が出来るのでしょう? その魔法で私の心を読んでください」

「そ、そんなの、できない」

「あら。エルフリアさんでも使えない魔法があるのですね」

「いやっ! そうじゃなくて! 心を読む、なんてやったら、きらいになるでしょ? そんなの人間じゃないって」

「思いませんよ。そんな事。だって、私も人の心を視る事が出来るんですよ?」

「あ、そ、そっか。そうだったね」


 エルフリアさんは私の言葉に安堵した様な息を漏らし、微笑んだ。

 が、私でもエルフリアさんでもない声が部屋の中に……いや、廊下の方からも聞こえてくる。


「「「え!?」」」

「あ、ああぁぁ、アリーナは心を視る事が出来るのか!?」

「なんてこと……!」

「あわ、あわわわ、わわ」


「あぁ、そういえばお父様やお母様には言ってませんでしたね」

「初耳だね!? で、では私の心も、視えているのかい!? 今も!?」

「今は視えていません。意識して視るようにしないと視えませんから。例えばこうやって……」

『まさかアリーナが読心術を使えたとは! なんて事だ! 紳士的な父親になり切っていたというのに! これでは、娘の可愛さに暴走しそうな気持ちを抑えているバカ親だとバレて……』

「ばかおや?」

「わぁぁああ!! わぁー! わぁ!? アリーナ!」

「は、はい!」


 私はお父様の声にビックリして心を視るのを止めてしまった。

 そして立ち上がって、歩いて来たお父様に肩を掴まれて迫られてしまう。


「良いかい? アリーナ。その力はとても危険な物だ。私に使ってはいけないよ」

「私にもですよ! アリーナ!」

「そ、そうだな。良いかい? この家の人間にその力を使ってはいけない。アリーナの理想が壊れてしまうからね。良いね?」

「は、はい。分かりました」


 お父様の勢いに頷きながら、私はもしかしてとても悪い事をしてしまったのではないかという気持ちになった。


「あの、お父様。申し訳ございません。私……」

「何を謝る事がある。その力はアリーナが天から授けられた贈り物だ。外の人間にはバンバン使いなさい。それで少しでも危険を遠ざける事が出来るのなら、それが一番だ」

「そうよ。アリーナ。でもお母様には使っちゃ駄目よ」

「そうだね。お父様にも使ってはいけないよ」

「わ、我々使用人にもよろしくお願いいたします」


 お父様たちの勢いに、私は早くなる鼓動の音を感じながら、少しだけ冷静になった思考で考えていた。

 生まれた時からあった力、口には出せなくても、心でなら痛みや悲しみを訴える人がいた。

 だから、私はこの力が真実を知る力なのだと思って、知りたいという気持ちを感じた時に使っていた。


 しかし、それを嫌だと感じる人が居る。

 エルフリアさんも、自分の事を知られるのが嫌だと言っていた。

 もしかしたら、自分の事を知られたくない人も居るのかもしれない。


 でも。


「……なら、余計に。これは証明にもなるのですね」

「アリーナ?」


 私はお父様から離れ、再びエルフリアさんに向き直った。

 そしてエルフリアさんの瞳を見ながら、その輝きを受け止めながら笑う。


「エルフリアさん。私の心を読んでください」

「……いい、の?」

「えぇ。私はエルフリアさんの何を聞いても、どんな事情を知っても、変わりませんから」

「……」

「……」

「……わかった」

「ありがとうございます」


 私はエルフリアさんにお礼を言い、エルフリアさんの両手を握りしめながらお父様の立っている方へ向く。


「お父様。聞かせて下さい。エルフのこと。エルフリアさんのこと」

「……あぁ、分かったよ」


 お父様は柔らかく微笑むと、私たちを椅子に座るように促して、自身もテーブルを挟んだ向かい側に座った。

 そして、お茶を一口飲んでから、真剣な眼差しで語り始めるのだった。


「これは今から数千年前の事だ。まだ人類が魔法という物に触れて間もない頃、自らをエルフと名乗る少女が現れた」

「……もしかして、エルフリアさんですか?」

「これは数千年前の事だよ? アリーナ」

「あ、そうでしたね」

「そして、その少女は友人を作る為に森から出てきたと言っていた。森の奥に落ちていた本を見て、友達という物を知ったらしい」

「エルフリアさんにそっくりですねぇ」

「しかし、彼女が人間と友人になる事は出来なかった」

「……なぜ」

「彼女の持つ魔力が強すぎたのだ。人間の子供に交じって魔法を使えば、その強すぎる力に家は吹き飛び、畑は荒れ、城壁は破壊された」

「ちょ、ちょっと失敗した、だけだよぉ……」

「そうかもしれん。だが、君たちエルフにとってのちょっとした失敗は、人間にとって大きすぎる事件なのだ」

「それで、人々はエルフという存在を恐れる様になった、と」

「あぁ。無論、エルフが皆同じだとは思わないがな。それでも歴史に詳しい者であれば警戒するかもしれない」

「であれば、エルフリアさんがエルフというのは内緒にした方が良いかもしれないですね」

「そうだな。無論アリーナがそれで良いのなら、だがな」

「はい! 私は何も問題ありませんとも!」

「そうか」


 お父様は安心した様に笑った。

 そして私は、驚き目を見開いているエルフリアさんに向かって微笑んで首を傾げた。


「どうですか? 私の心は」

「……かわ、ってない」

「そうでしょう? だって、私がエルフリアさんを嫌いになるなんて事、ありませんもの」

「ありーな!」


 涙を滲ませながら抱き着いて来たエルフリアさんを抱きしめて、私は良かったと安堵した。

 お姉ちゃんとしては、妹を守らなくてはいけない。

 そう強く思うのだった。


「え?」

「どうしたのですか? エルフリアさん」

「私、妹?」

「えぇ。私の方が身長が高いですし。少しお姉さんですね」

「えー。私の方がお姉さんなのにぃー?」


 どこか不満そうなエルフリアさんの頭を撫でて、私はお姉ちゃんアピールをするのだった。

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