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第7話『森で出会ったお友達のエルフリアさんです!』

 突如として、エルフリアさんの家に見知らぬ男性方が現れ、私とエルフリアさんは転移の魔法により木々に覆われた薄暗い場所へと転移した。


「ここは……?」

「森の奥。とりあえず転移しちゃっただけだから……えと、どうしよう?」

「どうしましょうか」


 困ったと、私の手を握りながら首を傾げるエルフリアさんに、私も答えを持たず、一緒になって首を傾げてしまう。

 しかし、このままここに居ても解決できる事はないため、ひとまず私は避難場所の提案をするのだった。


「エルフリアさん。ひとまず私の家に来ませんか?」

「アリーナのお家!? それって! それって! お友達の家で遊ぶって奴!?」

「そうですね。そういう感じの奴です」

「おぉー!? 良いね! すぐに行こう!」

「では、ひとまず森の外へ。私とエルフリアさんが出会った場所へと転移していただけますか?」

「はい!」


 エルフリアさんは右手を高く上げ、私が示した場所へとすぐに転移してくれた。

 そして、私は馬車が無いかと周囲を見渡したが、特に見つからず、そのまま歩いてミンスロー伯爵領を目指して歩く事に……。


「どこ行くの? アリーナ」

「ミンスロー伯爵家の領地ですね」

「歩いて?」

「えぇ。歩いて」

「……すぐそこだったりする?」

「いえ。徒歩ですと、大人の足で半日ほど掛かりますね。私たちでしたら一日半という所でしょうか」

「やだ!」

「エ、エルフリアさん」

「場所は分かるんでしょ? なら飛んでいこう!」


 飛ぶという言葉の意味が分からず、私はその意味を問い返そうとしたのだが、その前に私とエルフリアさんの体がふわりと浮き上がった。

 そして、そのまま私の指し示した方へと空を切り裂くような速度で飛び始めるのだった。


「なっ!? 飛行魔法だとぉ!?」

「あのガキ、何でもアリか!? お嬢様をどこへ連れていく気だ!」

「お嬢様ー! お待ちを! お嬢様!」


 その時、地上の方から何かの声が聞こえた気がするが、後ろを振り返る頃には森の入り口は遠くなっており、その声の主を見る事は叶わなかった。


 それから、馬車よりも早い速度でミンスロー伯爵領へと飛んできた私たちは、そのまま地上へと降りて家を目指す。

 が、街の真ん中に降りてしまったせいか、周囲の視線が少々痛かった。

 騒がしくしてしまい、申し訳ない気持ちだ。


「あらあら、まぁまぁ! アリーナ様ではありませんか。空から舞い降りるとは、まるで天上より麗しき女神様が舞い降りたかと思いましたよ」

「あー、あはは。申し訳ないです。騒がしくしてしまって」

「いえいえ。その様な事はございませんよ」


 ニコニコと話しかけてくれるパン屋さんのご婦人に微笑みながら、私の背中に張り付いて、周囲の視線から隠れているエルフリアさんへと意識を向ける。

 周囲を見知らぬ人に囲まれているからか、エルフリアさんの体は震えている様だ。

 このままではいけない。


「あの、私たちはこれで……」

「ところでアリーナ様!」

「は、はい!」

「そちらの、みすぼら……あー、いえ。お嬢さんはいったい?」

「あ、この方はエルフリアさんです」

「エルフリア。聞かないお名前ですね。アリーナ様のお知り合いの方ですか?」

「はい。私の大切なお友達です」

「っ! タイセツナ、オトモダチ……!」

「お友達!?」

「アリーナ様のお友達!?」


 何故だろうか。

 私がエルフリアさんをお友達と紹介しただけで、街の方々が先ほど以上にざわざわと騒ぎ始めた。

 その動きがどこか怖くもある。


「えと? 皆さん?」

「は、伯爵様は! この件をご存じなのでしょうか!?」

「えと、これからご紹介に行くところですね」


「なんと!?」

「大丈夫なのか!?」

「騙されてるんじゃあ」

「伯爵様も人が良いからなぁ」

「どうする?」

「私に聞かれても困るよ!」

「とりあえず引き離す方が良いのでは?」

「本当に本当だったらどうするつもりだい!」

「話し合う必要があるだろう!」


「あ、あのー」


 皆さんが皆さんでワイワイと話し合いを始めてしまい、私の声は届かない。

 どうしようかなと困ってしまったが、そろそろエルフリアさんも限界が近そうなので、私はエルフリアさんの手を引っ張って、群衆の中から脱出する事にした。

 このままでは倒れてしまうかもしれない。


「あぁ! アリーナ様!」

「行ってしまわれた!」

「誰のせいだ! この野郎!」

「お前も同罪だ! この野郎!」


 後方から聞こえてくる声を気にしない様にしながら私は走った。

 申し訳ない気持ちはあるが、それ以上にエルフリアさんが大変なのだ。

 また今度、ごめんなさいをしに行こう。


 そう私は自分の心に誓って、ただひたすら家を目指して走り続けた。


 そして、街から見える小高い丘の上に向かって走り、街で見た他の家よりもうんと大きな家にたどり着くと、鉄製の門に近づいて、立っている騎士さんに話しかけた。


「お久しぶりです。ジャックさん」

「お久しぶりでございます。お怪我はありませんか? アリーナ様」

「はい!」


 騎士さんは汚れ一つない綺麗な鎧をまといながら、私の前にしゃがみ込んで笑ってくれる。

 それを見ていると、ようやく家に帰ってきたのだなという安心感があった。


「ところで、そちらのお嬢さんは……」

「あ、はい。森で出会ったお友達のエルフリアさんです」

「あぁ、そちらが。お話は伺っておりますよ。ではお二人とも中へどうぞ」


 ジャックさんはニコニコとしながら門を開けてくれ、私はまた背中に張り付いてしまったエルフリアさんと共に家の中へ足を踏み入れるのだった。


 門から玄関までのんびりと歩いていると、庭の向こうからメイドさん達が駆けてきて、私の服を見て驚き声を上げる。


「まぁまぁ! なんて事でしょう! お洋服がこんな事に!」

「申し訳ございません。お仕事を増やしてしまって」

「いえいえ! その様な事はお気になさらず! 元気に遊ばれた様で、私も嬉しく思いますよ」

「はい……!」

「ところで、そちらの薄汚れ……あ、いえ。お嬢さんは?」

「あ、はい。森で出会ったお友達のエルフリアさんです!」

「……あぁ、例の」

「マリーさん?」

「あ、いえ! なんでもございませんよ。ではお二人ともまずはお風呂へ」

「はい」


 メイドのマリーさんに案内されるまま私とエルフリアさんはお風呂場へと向かい、体を洗ってもらい、二人で熱いお湯の中へと体を沈めた。

 水浴びも気持ちが良いが、やはりお湯の方が気持ちいい。


「はぇー」

「どうですか? エルフリアさん」

「うん。きもちいい」

「それは良かったです」


 お湯の中を漂いながらも、私の方へと流れてきて、ピッタリとくっつくエルフリアさんが可愛いなと思いながらそっと抱きとめるのだった。

 親子の様に。

 姉妹の様に背中からエルフリアさんを抱きしめる。


「チッ」

「……?」

「どうしたの~?」

「いえ、何か? 聞こえた様な?」

「きのせいじゃない~?」

「そうですね」


 私はエルフリアさんを抱きしめたまま浴槽の端に背中を預けて天井へと視線を送った。

 そして、そのまま目を閉じて、深く息を吐く。


「おちつきますねぇー」

「そうだねー。ありーなー」

「チッ」

「っ!?」

「わぁ」


 やっぱり何か聞こえたよ!? と私はエルフリアさんを抱きしめたまま体を上げ、周囲を見る。

 が、お風呂場の中には、私とエルフリアさん。

 それに微笑みながら立っているメイドさん達だけだった。


 おかしいな?

 確かに何か聞こえた様な気がしたんだけど。


「アリーナ様」

「あ、はい!」

「そろそろ良い時間かと。お風呂から上がりましょう」

「え? でも、まだ入ったばかりでは……」

「確かにそうなのですが、アリーナ様は数日ぶりのお風呂。長湯に体が耐えられないと考えます」

「なるほど」


 私は自分の体を触りながら確かにと頷く。

 お風呂に入る前よりもずっと温まっている様な気がした。


「では、出ますね」

「はい。アリーナ様。こちらへ」


 私は言われるままお風呂から出てゆき、エルフリアさんもメイドさんに捕まり、全身をタオルで拭かれていた。

 だいぶ嫌がっている様だが、濡れたままでは風邪をひいてしまうかもしれないので、我慢して欲しいと思う。


「あ、ありーなー。た、たすけー」

「大丈夫。体を拭いているだけですよ」

「うーばばばーあわー」

「はぁーい。逃げないで下さいねー。しっかり! 綺麗にしますからねー!」

「は、はなしー、てー」


 そして、すっかり綺麗になったエルフリアさんと共に、私はお父様とお母様の待つ応接室を目指すのだった。

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