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第47話『百合の波動を感じな』(クロエ視点)

(クロエ視点)


 どこか気を抜いていた様な気がする。

 ジークの舎弟二人に担がれて、ジークやヘンリーが居た場所で大爆発が起こったのを見て、私は自分がいかに甘い考えで生きていたかを悟った。

 だって、私が知っているゲームの世界では事件なんて何もなかったから。


 この世界は戦争も何もない、ただ女の子が女の子同士で楽しく笑っている日常だったから。

 それが世界の全てだったから。

 こんな事になるなんて思いもしなかったのだ。


 でも、これが現実だ。

 今、私が生きている世界の現実だった。


「っ! 見つけた!」


 そして、私達を担いで走っていた二人は転がりそうな勢いで倒れて、私たちをその場に投げ出した。

 申し訳ない。

 二人にも。

 傷は治っているみたいだけど、ボロボロのエルフリアちゃんにも、申し訳ない気持ちだ。


「エルフリアちゃん……」

「アリーナは……?」

「分からないわ。私たちは途中で逃げ出してきたから」


 口にして、これほど恥ずかしい言葉も無いだろう。

 あれだけ二人を守るだなんだと言っておきながらこの体たらくだ。


「そうなんだ。じゃあ、行かなきゃ……アリーナが、待ってる」

「エルフリアちゃん!」

「……なに?」


 振り返ったエルフリアちゃんの顔は、前に見た甘えん坊のエルフリアちゃんの顔では無かった。

 少し前に見た、ヘンリーやジークと同じ、覚悟を決めた人間の顔をしていた。

 自分の命を捨ててでも、願いを叶える。


 そういう覚悟を秘めた人の顔だった。


 戦場で何度か見た事がある。

 こういう顔をした人間は大抵……帰って来ないのだ。


 だから、私は……! それは違うとエルフリアちゃんの腕を掴む。


「駄目よ。エルフリアちゃん」

「なにが」

「ソレは違うわ。貴女が死んでしまったら、アリーナちゃんが悲しむ」

「同じだよ。私だけじゃない。誰が死んでも同じ……なら」

「違う!」

「っ」

「貴女はアリーナちゃんのお友達でしょう? お友達の貴女と、私達じゃ違うわ」


 酷く驚いた様な顔をしているエルフリアちゃんに私は微笑みかけた。

 まだこんなにも小さな子が、過去や、今ここで起きている全てを背負う必要などないのだ。

 子供が見るのは未来だけで良い。


「エルフリアちゃん。貴女が見なきゃいけないのは、アリーナちゃんの事だけよ」

「アリーナの……」

「エルフリアちゃん。貴女にどんな事情があるのか、何があったのか、どうしてこうなったのか。私は何も知らない。けれど、良いの。今、大事な事はそれじゃない」

「……」

「事件が解決して、悲しむアリーナちゃんを、本当の意味で支えられるのは貴女だけなの。親でも保護者でもない。アリーナちゃんの隣に立って……! アリーナちゃんと同じ高さで世界を見てきた、貴女だけなの、だから……!」


「おのれ! 人間がァ!!」


 私はどこからか聞こえてくる怨嗟に満ちた声にハッと顔を上げた。

 ヘンリーとジークでもやはり止めきれなかった。

 アリーナちゃんの体を乗っ取った魔女はこちらに向かってきている。


 私は最期の言葉をエルフリアちゃんに向けて、戦う覚悟を決めた。

 今回の人生は波乱のない、ゆったりとした人生を歩みたかったのにな……。

 なんて思いながら。


 でもまぁ、慣れたものだ。

 前の世界と同じ事をすれば良いだけなのだから。


「エルフリアちゃん。アリーナちゃんにありったけの想いを伝えてあげて。きっと届くから」

「……クロエ!」

「クロエの姉さん!?」

「じゃあ、エルフリアちゃんの事はお願いね!」


 私は大型のナイフを抜きながら、木々の隙間から飛び出してきたアリーナちゃんに飛び掛かる。


「なっ!?」

「少し痛いかもしれないけど、我慢してね。アリーナちゃん」


 私はアリーナちゃんの体を捕まえると、そのまま地面に叩き落した。

 そして、こちらに魔法を放とうとしているアリーナちゃんの手を弾き、方向を変えさせる。


「くそっ! 転移!」

「どれだけ魔法が上手く使えても、戦いには慣れていないみたいね。魔女さん」

「コイツ! 離れろ!」


 私は魔女が転移をする前に、転移先を見ている事に気づき、消えた瞬間にそこへ迫り、さらに魔女を追い詰めてゆく。

 はてさて、どうやって魔女を止めるか。


 んー! 分からん!

 とりあえず気絶させてから、縄で捕まえて! エルフリアちゃんの説得!

 これしかあるまいよ。

 百合に限界はない。

 愛の力できっとアリーナちゃんも目覚める。


「だから! 私がまずは決めなきゃなぁ!」

「舐めるな! この私にお前ごときが!」

「へっ! 残念だけど、戦場の経験はこっちの方が上なのよね!」

「うっ!」

「素人には負けないよ!」


 従軍経験者をなめてはいけない。

 とは言っても前世の話だけど。


 私は手で足でアリーナちゃんの手を弾き、魔法を使わせない様にしながら接近戦を仕掛け続ける。

 しかし、流石は飛行魔法と言うべきか。転移魔法というべきか。

 どれだけ近づいても逃げられてしまうし、飛んでいると動きが早くて上手く捕まえる事が出来ずにいた。


 最初のチャンスを活かせなかったのが悔やまれる。

 が、悔やんでいても仕方がない。

 殺せればもっと早いのだけれど、アリーナちゃんに傷をつけるワケにはいかないというのも、大変だ。


 しかし、やらねばなるまい。

 希望の象徴である百合の為に全てを為すと決めたのだから!


「せいっ!」

「この、邪魔だ!」


 ひとまずナイフは使えない事が分かったので、しまいつつ、私は見よう見まねで覚えた拳法を使い、魔女に接敵してみた。

 が、やはり駄目。

 まぁ、身体能力で追いつかない相手に何をやっても駄目という話でもある。

 どうしたモンかと思っていると、事態はより最悪な方向へと転がっていくのだった。


「人間程度に、私が! しかし、これで終わりだ!!」


 魔女は全方位に暴風を放ち、自らの体を抱きしめた。

 私は風に乗りながら、少し飛ばされ、エルフリアちゃん達の近くに転がり落ちる。

 

「いけない! 爆発だ!」

「っ! なら!」


 エルフリアちゃんの言葉に、何が起きるのか知った私は、前に出ようとしているエルフリアちゃんの肩を掴んで、レスター王子たちの所に投げた。

 そして、この世界で何度か行った私の魔法(ねがい)を使う。


 壁になる魔法(誰かを守る力)だ。


 まるでミサイルが落ちてきた時の様な暴力的な爆発が背中の向こう起きて、周囲にある木々が燃えながら吹き飛ばされてゆく。

 魔女の周囲は全てが破壊され、蹂躙され、なぎ倒されてゆく。


 なるほど、エルフという存在が恐れられるのもよく分かる。

 これじゃ人間戦略兵器だ。

 でも、まぁ……流石にそれだけの出力をポンポン出すことは出来ないだろう。


 出来るのならば、追い詰められる前に使っているのだから。

 つまり、これは魔女の奥の手という事だ。

 これを使った以上、魔女にも何かしらのマイナスがある。

 狙うなら、そこだ。


「っ! エルフリアちゃん!」

「く、クロエ……」

「この爆発が終わったら、真っすぐにアリーナちゃんの所へ向かって。たぶん、お話出来るから」

「クロエは」

「私は、大丈夫だから。振り返らずに、行って」

「……」

「おねがい、エルフリアちゃん。アリーナちゃんとお話出来るのは、エルフリアちゃんだけ、だから」


 壁になる能力と言っても無敵じゃない。

 背中に当たる熱も衝撃も、何も消えちゃいない。

 どれだけ爆発が続くのか分からないが、最初よりは弱くなってきているし、多分耐えられる。


 違う。

 耐える。耐えるんだ。

 何がなんでも!


 耐えろ!! クロエ!!


「……エルフリアちゃん。貴女なら出来るわ。自分を信じて」

「クロエ……」


 そして、ゆっくりと爆発が収まってゆき、風が止んだ瞬間、私は壁になる力を解除して、叫んだ。


「いって! アリーナちゃんのところへ!」

「っ!」


「ば、バカな!?」


 体を何とか反転させながら空を仰ぎつつ倒れた私は、足元の方から空に向かって飛ぶ流星を見た。

 きっとエルフリアちゃんが魔力を纏わせながらアリーナちゃんと共に飛んだのだろう。


 希望は、繋がった。


「クロエ! しっかりしろ! クロエ!」

「……みえてますよ、せんぱい」

「クロエ? おい!」

「……」


『なんですか? コレ』

『百合ゲーだ。知らんのか? ゲームだよ。ゲーム』

『へぇ、ゲーム。子供が遊ぶ奴でしょう?』

『チッチッチッ。分かってないな。ゲームはゲームでも大人向けのゲームという奴さ』

『あー。エッチな奴ですか』

『違うわ!』

『はぁ』

『百合ってんのはな。それはそれは綺麗な物なんだ。戦場で荒んだ心も、少女たちの綺麗な愛で癒されるというモンよ』

『そういうモンですか』

『お前もやってみろ。世界が変わるから』

『へぇ。まぁ、先輩がそう言うのなら』

『やれば分かる。百合の波動を感じな』

『百合の波動ねぇ』


 私は最期に、先輩の言っていた百合の波動って奴を見た様な気がして、笑った。

 きっと、あの空で光っている光が……百合の波動って奴なんだろう、と。

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