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第45話『愛とは偉大だなと私は笑う。』(クリスタ視点)

(クリスタ視点)


 何がどうなっとんねーん!

 何が! どうなっとんねーん!!


「まさか。アレは魔女の書か!? 本は燃やした筈だぞ!」

「偽物だったって事だろ!?」

「え!? じゃあアリーナちゃんは、魔女に体を乗っ取られちゃったって事!?」

「これが、バッドエンドの魔女の復活か!」


 何で全員ワケ知り顔やねーん!


 私は流されるままにやってきた森の奥で、一人状況について行けず心の中で叫んでいた。


 現在!

 チンピラ冒険者の魔法で先行したサムライズを追って森の奥へ来た私達の前には、既に倒れているサムライズ!

 そんなサムライズの前で悪そうな顔をしているアリーナちゃん!


 んで、こっちには

 レスター王子!

 アリーナちゃんの兄!

 美人の冒険者!

 チンピラ冒険者!

 チンピラ冒険者の舎弟2名!

 そして、私が居た。


 多いねん!

 人口密度!


「ぞろぞろと、何をしに来た?」


 いや、ホンマそれ!

 皆さんは何をしにココへ……?


「無論、バッドエンドを回避するためだ。アリーナの破滅などという終わりは俺が認めない!」

「そうよ! 百合は大切にしなさい!」

「世界の覇権は俺の物だ!」

「我が国を守る為に来た! それが王子としての私の意思だ!」


 バラッバラやないか。

 どういう集団なんですか。これは……。

 女神様ー! 女神様ー! 聖女様がお困りですわよー。


『彼らは皆転生者です』

(それは知ってますが)

『……彼らは』

(はい)

『皆、転生者なのです』

(もう聞きました)

『……』

(……)

『彼らは……』


 壊れたラジオかっ!

 何も知らないのなら、知らないって言えば良いでしょ!?

 無駄な時間を過ごしたわ。


 女神様は使えないので、私はひとまず私の目的の為に動く事にした。

 世界の事は皆さんが考えているらしいので、私は私のハーレムの為に動くとしよう。


 という訳で、ボロッボロの姿で倒れているエルフリアちゃんの場所まで高速移動! ピュン!


「……大丈夫ですか? 酷い怪我」

「だ、だいじょう、ぶ……わたし、自分で、なおせる……のに、おかしいな」


 エルフリアちゃんはポロポロと涙を流しながら魔法を使おうとしていたが、どうも上手く出来ない様だ。

 分かる。分かるよ。

 精神が安定しないと魔法って使えないもんね。

 私も苦労したモンよ。


「ご無理をなさらず、落ち着いて深呼吸をして下さい。傷は私が癒しますから」

「え?」

「これでも女神様の加護を得ていますからね。傷を治す事くらいは出来るのですよ」


 私はエルフリアちゃんを抱きしめて、癒しの魔法を使う。

 あはーん。今の私、結構聖女っぽいわ。

 これでエルフリアちゃんの心を鷲掴みね!


「傷が……」

「後は、エルフリアちゃんの心を」

「私の心……?」

「そう。傷ついたままでは、立ち上がる事も難しいでしょう」


 私はエルフリアちゃんの手を握り、目を合わせながら分かりやすく呼吸を行う。

 同じ様に呼吸を合わせてと言いながら、エルフリアちゃんが落ち着くまで深呼吸を繰り返すのだった。


「……おち、ついた」

「それは良かった。では、エルフリアちゃんはここで待っていて下さいね。私がアリーナちゃんも助けてきますから」

「……!」


 エルフリアちゃんに背を向けて、格好いい聖女のお姉さんを演出!

 決まったー!!

 エルフリアちゃんゲットだぜー!


 と、良い感じに決まった所で、私は悪い顔になってしまったアリーナちゃんに意識を向けた。

 前に見た時は天使みたいな笑顔でしたが、現在は反抗期のキッズみたいな顔になっておるな。

 まぁ、それはそれで美味しいけれど、エルフリアちゃんが泣いてるし、前の天使に戻さねばなるまい。


 という訳で!


(どうすれば良いんスカ!? 女神様!)

『アリーナさんの心を呼び起こすしかありません』

(具体的には!?)

『アリーナさんの心を呼び起こすしかありません』


 駄目だこの女神。

 基本的にふわっとした情報しか持ってない。

 しかし、まぁ情報は情報だ。何かの役には立つだろう。


 要するにあれでしょ? 反抗期で暴れてるアリーナちゃんの頬を叩いて。

 ママにもぶたれた事無いのにぃ! ってなってるアリーナちゃんを抱きしめて、私がママよ。

 マンマミーア!

 っていう流れで良いワケでしょ?


 完璧だ。完璧じゃないか私!

 これでアリーナちゃんもゲットして、ハーレム計画が大きく進むってモンよ。

 やるぞー! 私! えいえいおー!


「では私も……」


 参加するかね。

 と言おうとした瞬間、アリーナちゃんの兄、他諸々と戦っていた反抗期アリーナちゃんが怒りながら空にふわりと浮き上がって、手を横に振るった。

 瞬間、地面が爆発するような勢いで隆起して、何かが地面の下から飛び出すのだった。


 私は咄嗟にエルフリアちゃんを抱き上げて、アリーナちゃんとは反対方向に向かって走る。

 とにかく安全地帯へゴー! だ。

 ここはヤバイぜ!


「これは! なんですか!?」

『これは、破滅の大樹!』

(なんすか! それは!)

『かつて遥かな昔に世界を滅ぼしかけた魔樹です! 世界中から魔力を吸い上げて、どこまでも大きくなる危険な存在です! 当時の勇者が倒したのですが……』


「まぁ、木であるならば、燃やせばいいでしょう! 幸い私は火の魔術が得意ですから」

「だめっ!」

「っ!? エルフリアちゃん?」

「アレは、普通の火じゃ燃えない……!」

「そうなのですか!?」


『そうですね。アレは神の炎でなければ焼く事は出来ません』

(マジかい!)


「うん……アレは、アレは、前に……私が呼びだした物と同じだから」

「エルフリアちゃんも前に!?」


 新情報がどんどん飛び込んでくるドン!

 超巨大な木が地面の下から生えてきて、その辺りをひっくり返しながら、どったんばったんしている中で、勘弁して欲しい。

 今の私はエルフリアちゃんを抱えながら逃げる事で精一杯だってんのに!


(てか、神の炎って言うんなら! 女神様が出せるんじゃないの!?)

『えぇ。出せます』

(じゃあ、早く! パパっと出して、パパっと焼き払って下さいよぉ! このままじゃあ世界がとんでもねー事になってしまいますぜ!)


 アリーナちゃんが呼び出した木はグングン、グングンその大きさを増していって、今や雲よりも高い場所まで伸びていった。

 太さも高さに比例して、宮殿みたいなデカさになっておられるわ!

 しかも根が足みたいになってて、歩き回りそうな雰囲気である。

 こんなのが散歩を始めたら、世界は終わりだよ!


 私はひとまず大樹から大きく離れた場所まで走り、エルフリアちゃんを下ろして女神様にはよ。と話しかけた。


『出来ません』

(出来ないんかい! なら、なんで出せるって言ったの!? 女神様のプライド!?)

『違います。私は神の炎を呼ぶ事が出来ますが、現実世界でそれを受け止める存在が必要なのです』


「……なら、私がやる」

「エルフリアちゃん!?」


『エルフリア』

「え? 女神様? え? 二人会話出来るの!?」

『はい。どうやら彼女にも私の声が聞こえている様ですね。アリーナさんの魔法を使っているからでしょうか』

「なんでもいい! 理由はどうでも良い。私に協力して! 女神!」

『良いのですか? エルフリア。私はかつて、ただ無知で無邪気であった貴女の友を焼き払った。エルダーという名の……』

「アリーナが!!」

『……』

「前にアリーナが言ってたんだ。この世界にどうしても許せない事なんて無いんだって。許したくないだけなんだって」

『……エルフリア』

「私はもう、貴女と喧嘩しない。だから、協力して……! アリーナを、助けたいの!」

『しかし、神の炎を使えば生きては帰れない』

「それでも! アリーナが誰かを傷つけて泣くよりは良い……!」


 エルフリアちゃんは私の方を見ながら私ではない存在に、女神様に訴えていた。

 真っすぐで、純粋で、愚かな、強い瞳。

 生まれ変わる前に見た、最後に見た瞳と同じだ。

 泣きながら、私を殺したあの子と、同じ瞳。


 愛とは偉大だなと私は笑う。


『……?』

「状況は把握しました。ではその神の炎。私が引き受けましょう。エルフリアちゃん。貴女はアリーナちゃんを」

「え!?」

『な、何を言っているのですか! クリスタ・メル・ピューリス! 貴女は理解していないかもしれないですが、神の炎は全てを燃やしてしまうのです! 放たれた相手も、使った本人さえ!』

「言う程バカじゃないんで。分かってますよ。それくらい」

『なら……! 貴女はこの世界で幸せになるのでしょう!? そう言っていたではないですか!』


「えぇ。言いましたとも」


 それはそうだ。不幸よりは幸せの方が良い。

 生きているのなら、より多くの幸せを求める方が良いだろう。


 しかし、己の為すべき事から目を逸らしても、本当の幸せを手に入れる事は出来ないのだ。

 この状況。どう考えても、私の役目はコレである。


 そう。私は可愛い女の子の味方なのだ。

 どんな世界で生きていても。

 その気持ちは変わらない。

 守るよ。

 だって、私のハーレムの一員だもの。


「知ってますか? 女神様。愛とは、誰かの為に祈る気持ちに付いた名前なのです」

『……クリスタ・メル・ピューリス』

「元々、私の命はあの場所で終わっていましたから。拾った命で、小さな愛を繋げる事が出来るのなら、それが良いでしょう」


 私はエルフリアちゃんをその場に置き去りにして、近くにある木を駆け登り、次々に高い木へと移り登って、最も高い場所を目指した。


「……ここかな」


 そして、たどり着いたどこよりも背の高い木の上で、私は女神様から受け取った炎を左手に宿し、笑う。

 熱はない。

 熱さは感じない。

 でも、炎が左手から腕を伝って全身に伝わっていくのは感じた。


「じゃ、決めますか……! ま、あれだけ大きな獲物なら外す事は無いですけどね!」


 炎は私の意思に従って弓の様に変わり、右手には炎の矢が現れた。

 前の世界で弓道やってて良かったわー。と思いながら、私は落ち着いた呼吸で矢を放つ。

 放たれた矢は真っすぐに、もはや壁の様になっている木に向かい、突き刺さった。


 矢の突き刺さった場所から炎が木の全体に燃え広がり、木の断末魔が空を引き裂いて聞こえる。


 割とアッサリしている物だな。と思いながら、私の体は力を失って地面に落ちてゆくのだった。

 そんな中で、女神様の声が、いつもと同じ様に頭の中で響いた。


『貴女は……本当に最初から最後まで……どうしようもない聖女でしたね。私の言葉を何も聞いてくれない』

(そりゃ申し訳ない事をしましたわ。次の聖女を探す時はもっといい子を探した方が良いっすよ)

『そうですね。今度はいう事をちゃんと聞いて……無茶をしない子を選びます』

(……)

『ですから……ありがとうございます。聖女クリスタ。貴女は最低で、最高の聖女でした』


 それはどーも。

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