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第39話『コイツは、木を使って移動してるんだよ』

 ミンスロー領と隣接する領地との境界線にある山の尾根を歩いていた私たちは、嫌な予感を感じた為、エルフリアさんの転移魔法でソレーヌの町へと移動した。

 そして、宿屋で部屋を借りると一つの部屋に集まって地図を広げる。

 ここまでにあった事をひとまずまとめる為に。


「今日の調査で分かった事ですが、どうやら魔力喪失事件は波紋の様に広がっていないという事がわかりました」

「……」

「いえ。より正確な話をするのであれば、ミンスロー家の領域の中でだけ起こっている事件という事になります。その為、境界線を越えようとした段階で喪失現象は起こらなくなっています」


 私は地図に記された魔力喪失現象の起こっている木々を線で繋ぎ、影響範囲を見えやすい様にする。

 こうして実際に分かりやすく地図で示すと、より分かりやすく異様な光景が地図に浮かび上がった。

 自然な現象というよりは、何かしらの意図があって行われている事件の様に見える。


「やはり、こうして見るとミンスロー家への攻撃の様にも見えますな。魔力を奪い災害を起こす事で何かしら大きな事件を起こそうとしている」

「しかし、そう考えると妙なのは地面を潜る魔物の存在です。その魔物は何が目的でミンスロー領の中を動き回っているのでしょうか。それも、エルフリアさんを狙って……」

「それも、アリーナを狙ってるんじゃないの?」

「私を……? しかし、地面の下から私を補足するのは難しいのでは」

「うーん」

「確かに、それが一番のネックでゴザルなぁ」


 全員で丸テーブルの上に置かれた地図を囲みながら考える。

 何が正解で何が間違いなのか。

 そもそも前提がおかしいのか。


 ……前提が、おかしい?


 そうだ。そもそもの話。なんで魔力を食べる存在が目に見えると思っていたんだ。

 通常の手段で移動すると思っていたんだ。

 そこがおかしかったんじゃないのか!?


「ちょっと思いついた事があるのですが」

「なんでゴザルか?」

「もしかして、もしかしてなのですが……魔力を食べる何かというのは姿が無い存在なのでは無いでしょうか」

「え?」


 私は一瞬止まってしまった皆さんを前に、大きく息を吸い、吐いてから再び地図を指さして説明をする。

 この一連の事件についての考えを。


「そもそもの話。最初に起こっていたのは、この波紋の様な状態で影響が出ている魔力喪失事件です。しかし、この現象を目撃した人は居ません」

「……確かに」

「無論、人が見ていない時間に起こっていたという事はあり得るでしょう。しかし、事件はミンスロー家でも起こっていましたし。ミンスロー家では常に起きている人がおりますので、完全に見つからないというのは難しいでしょう。敷地内の庭でも起こっていますからね」

「ふむ。それで、魔力を食べる何かが目に見えない存在なのではないかという話ですな?」

「はい。波紋の様に起こしている喪失現象も、私たちの後を付いてきている存在も、共に目に見えない存在の可能性があります」

「……なるほど。流石はアリーナ様。慧眼でゴザル!」

「い、いや。それほどでも無いとは思うのですが……」

「いえいえ! 確かにそう考えると色々な事が繋がるでゴザルよ。特に! この橋でゴザル!」

「橋?」


 私は地図の上に置かれた指の先にある橋を見て、首を傾げた。

 何かおかしな事があっただろうか。


「この川はかなり水深が深く、地下を潜って移動している場合、水没は避けられないでしょう」

「っ! た、確かに、そうですね!」

「となれば、その何者かは地上を歩いていたとしか考えられないという訳です」

「やるではないか! 探偵の様だぞ!」

「ふふふ。異世界シャーロックと呼んでくれたまえ」


「……ちがう」


「え?」

「へ?」


 カズヤさんとタツマさんの言葉をエルフリアさんが小さな呟きで否定して、地図にジッと視線を落とす。

 そして、窓の外へと視線を向けた。


「コイツは、木を使って移動してるんだよ」

「木を使って、移動?」

「そう。姿が見えないって聞いて、分かった。コイツは……自分の意識を木に宿らせてそれを移動させてるんだ」


 エルフリアさんが地図を指でなぞりながら鋭い口調で指摘する。

 そして、コイツ。と呼ぶ姿は……まるでその何者かを知っているかの様でもあった。


「しかし、木に意識を宿らせるなんて魔法聞いたことがありませんよ?」

「そうだろうね。でも、『ある』んだよ」

「ある……」

「この世界には、その人しか使えない魔法があるんだ。私でも使えない不思議な魔法。ほら、そこの二人も使えるでしょ? そういう魔法を」


 私はエルフリアさんの言葉に、ハッとなってカズヤさんとタツマさんを見た。

 確かに、そうだ。

 精霊さんに力を授けられた人達はこの世界に存在する。


 精霊さんに力を授けられた人が、私を狙っている?

 信じられない様な話であるが、特におかしな点の無い話ではあった。


「その方を……エルフリアさんはご存知なのですか?」

「……」


 エルフリアさんはキュッと唇をきつく締めて目を伏せた。

 その姿は……。

 その顔は知っていると言っている様な物であった。


 しかし、私はそんなエルフリアさんを見て、問い詰める様な気持ちにはなれず、そうですか。とだけ小さく呟いた。


「分かりました。では、エルフリアさんの考えが正しいとして、調査を続けましょうか」

「っ!? アリーナ!?」

「はい。何でしょうか?」

「いや、その……聞かない、の?」

「私はエルフリアさんが話したくない事を無理に聞き出したいとは思いません」

「……アリーナ」

「誰にだって話したくない事の一つや二つくらいありますからね。良いじゃないですか。言えない事は言えない事で」

「良いのかな」

「勿論です。カズヤさんとタツマさんもそうですよね?」


 私はエルフリアさんの手を取りながらそう訴えて、仲間を増やそうと私たちの事を静かに見守ってくれていたお二人にも話しかける。

 お二人はにこやかに微笑むと、いつも変わらない明るい声で笑いながら言葉を授けてくれるのだった。


「そうでゴザルよ。人間誰しも言えない事の一つや二つや三つに五つくらい、あるでゴザルよ」

「いや多すぎでは?」

「拙者、恥の多い人生を歩んでおりますからな」

「何と哀れな……」

「ほー。言うでゴザルな。そういうお主は無いでゴザルか? 黒歴史ノートとか」

「うぐっ、ぐぅぅ、ぐはっ!」

「しまった。致命傷でゴザったか」


 カズヤさんとタツマさんはエルフリアさんの不安を消し飛ばす様に明るい言葉を交わし合って、場を緩やかにしてくれる。

 そんな二人のお陰でエルフリアさんは少し安心した様な顔で私の手を握り返してくれた。


「……いつか、いつか話すから」

「はい。エルフリアさんがお話したいなと思った時に聞かせていただけると嬉しいです」

「うん……ありがとう。アリーナ」


 私はエルフリアさんに微笑んで、その小さな体をキュッと抱きしめた。

 こんな小さな体で怖い事をいっぱい抱え込んで、寂しそうに震えている。

 抱きしめずにはいられなかった。


「エルフリアさん」

「……なぁに?」

「事件が解決したら、また森で少しゆっくりと過ごしませんか? 二人きりで」

「いいの?」

「はい。エルフリアさんにはいっぱい無理をさせてしまっていますから」

「……ありがとう。アリーナ。私、嬉しい」

「いえいえ」


 私はエルフリアさんに微笑み。

 一刻も早く事件を解決して、エルフリアさんをゆっくりと休ませてあげようと心に誓うのだった。


「良い話でゴザルなぁ」

「しかし、事件が終わったら、というのは、いわゆる死亡フラグという奴では」

「それ以上はいけない」

「まぁ、我らが守れば良いだけですしな!」

「「わっはっは」」


 近くでカズヤさんとタツマさんが笑っている声が聞こえ、ひとまず場は落ち着きを取り戻した。

 と思われたが、私たちが思っていたよりも事態は早く、そして最悪の方向に向かって走り出してしまう。


「ーー!」

「ん? 今、何か聞こえたでゴザルか?」

「おい。止めろ。ホントに不穏な感じになるだろ」

「いや、冗談じゃなくて……」


 お二人の言葉に私もエルフリアさんから離れて周囲に耳を傾けた。

 何やらどこからか悲鳴の様な声が聞こえてくる気がする。


 そして、そんな私の感覚が正しいと証明する様に、部屋の入口が開け放たれ、宿屋の主人が声を荒げながら最悪の事態を告げるのだった。


「アリーナ様! 急ぎお逃げ下さい! 宿屋が崩壊しています!」

「っ!?」

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