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第38話『もしかしたら……アリーナに会いたかったのかなって』

 ミンスロー領を見下ろす事が出来る山頂で、エルフリアさんとお話をしていた私は、カズヤさん達が戻ってきた事で再び山の探索を始める事にした。

 山頂から尾根沿いに歩いて、木々の状態を順番に確認してゆく。


「この辺りはずーっと同じくらい魔力が無くなってるね」

「尾根沿いに?」

「うん。ちょうど、山のこっち側まで」


 エルフリアさんはミンスロー領側の斜面を指さして、こちら側は魔力が削れていると示してくれた。

 そして、尾根の向こう側は正常な状態になっていると。


「どうして、ここで途切れているんでしょうか」

「魔力を奪う範囲に限界があるとか?」

「いえ、そうだとすると、おかしな部分があります。中心点と思われる場所からの距離が、同じでない場所がいくつかあるのです」

「……確かに」


 私は地図上でどう考えても他よりも短い場所をいくつか示し、カズヤさん達の同意を貰った。

 そして、同時に新しい仮説を一つ立てる。


「もしかして、この波紋はミンスロー領よりも外へは行かないのでしょうか。魔力の奪われていない反対側はミンスロー領ではありませんし。こうして尾根沿いに歩いていると、波紋は円ではなく稜線をなぞっている事が分かります」

「ふむ。そうなると……」

「この魔力喪失現象を食い止める何かが、この尾根にあるのか」

「もしくは……ミンスロー領に何かしらの悪意を向けている存在がいるか……で、ゴザルな」


 ミンスロー領を狙う存在。という言葉に私は地図を見ながらうーん、と考える。

 正直なところ、ミンスロー家は他の家と争っていないし。

 権力争いみたいなモノもあまり興味がない。


 だから、恨まれているという事は無いと思うのだけれども。

 もしかして、人間ではない、何か超常の存在に狙われているという事だろうか。

 何故……?


「……もしかして」

「エルフリアさん?」

「え!? あ! な、何かな!?」

「いえ。今、もしかして。と言っておられましたので、何かあったのかなと思いまして」

「いや! 何でもないよ!」


 ワタワタと手を動かしながら否定するエルフリアさんに、私は何だか不思議な物を感じてしまう。

 まるで何かを知っていて、あえて話さない様にしている様な……?

 いや、でもその様な事をする意味がないし……。


「おやおや? その反応! 何か知っているのではないですかっー!? エルフリア殿!」

「べ、別に、何も知らない!」

「本当でゴザルかー!? ダンマリは体に悪いですぞー! 何か知っているのであれば、お話した方が良いのでは~!?」

「べ、別に、隠しているとかそういうのじゃなくて……ちょっと思いついた事があるだけで」

「ほぅ!」

「ほう!」


 言えなかった事を話そうとしていたエルフリアさんに、カズヤさんとタツマさんが迫ると、エルフリアさんは怯えて逃げ出してしまった。

 最近はあまりしなくなっていた、私の背中への逃亡である。

 何だか昔の事を思い出す様だ。


「……ヒシッ」

「エルフリアさん。大丈夫ですか?」

「少しやり過ぎてしまったでゴザルか」

「申し訳なかったですよ。エルフリア殿」


「……キライ」


「ぐわー!」

「なんて事だ! 嫌われてしまった!」


 カズヤさんとタツマさんはエルフリアさんが囁いた言葉を拾ってゴロゴロと地面を転がり……。


「うわっ!」

「あー! やばい! 斜面が! あー!」


 転がり過ぎて山の斜面に捕まって落ちて行ってしまった。

 そんな二人を追いかけようと私も斜面の方へ向かおうとしたのだが、後ろにいたエルフリアさんが服を引っ張った事で足を止めた。


「……アリーナ」

「エルフリアさんっ!?」

「あの、ね」

「はい」


 エルフリアさんは緊張した様子で深く息を吐きながら私を見つめる。

 そんなエルフリアさんに私は、ひとまず二人をそのままにエルフリアさんの方へ振り返った。

 そしてエルフリアさんの手を握りながら目を合わせる。


 エルフリアさんの緊張が少しでも無くなる様にと。


「大丈夫です。私たちお友達じゃないですか。どの様な言葉でも私は受け止めますよ」

「……アリーナ!」

「はい」

「あの、あのね!」


 緊張した様子で何かを語ろうとしているエルフリアさんに、私はゴクリと唾を飲み込んでただ待つ。

 そして、エルフリアさんはゆっくりと息を吸って、吐いてから意を決した様子で口を開いた。


「もしかしたら、ね!」

「はい」

「もしかしたら……アリーナに会いたかったのかなって」

「私に、ですか?」

「うん」


 エルフリアさんが心の底から心配している様な顔で私を見つめている姿に私は首を傾げた。

 私に会う為に、魔力喪失事件を起こした。

 今一つ繋がらない話である。


「ふむ。確かにありえる話でゴザル」

「流石はエルフリア殿。素晴らしい観察眼であるな」

「お二人とも! ご無事でしたか!」

「まぁ、我らはギャグ時空で生きていますからな! 怪我一つありませんぞ!」

「ぎゃ?」

「お気になさらず!」

「は、はい」


「とにかく! 我らの事よりも、エルフリア殿のお話の方が優先ですぞ!」

「そうそう!」

「エルフリアさんのお話……」


 私はエルフリアさんの方を見ながら、先ほどのお話を再度考える。

 が、やはりよく分からない話ではあった。


「私は、今一つ繋がらない話なのですが……魔力喪失事件が何故私と繋がるのでしょうか」

「それはまぁ」

「アリーナ様を見ていると、そのままというか。アリーナ様という存在がその答えというか」

「えと……?」


 カズヤさんとタツマさんの言葉に首を傾げていると、エルフリアさんがすっかり落ち着いた様子で口を開いた。


「アリーナの家の近くで騒ぎを起こせば、アリーナは気になって調べるでしょ?」

「それは……確かに、そうですね」

「そして、原因をより正確に調査しようとすれば、今回の様に境界線の調査や、中心点の調査は必須」

「中心点が危険なのは誰もが理解している事、なれば、そこにアリーナ様を向かわせる事はない」

「となれば、罠を仕掛けるのなら、むしろ調査している段階で必ず来るであろう、境界線……となりますな」


 カズヤさんとタツマさんが交互に語る仮説に私は胸の鼓動が早くなっていくのを感じていた。

 その話には何も矛盾が無くて、しかも酷く現実感がある物だった。

 これまでの話が全て……。


「まさか、全て罠であったと……そういう事ですか? 私たちがここに来る事も、全て!」


 私は思わず叫んでしまったが、咄嗟に口を塞いで声を殺す。

 そして、周囲をキョロキョロと見るが、特に何かが居るという事は無かった。


 しかし、それでも緊張はしたままで皆さんに話しかけた。


「ま、まさか……本当に私が狙われているのでしょうか。エルフリアさんではなく」

「可能性としてはあるでゴザルよ」

「アリーナの家で変な事が起きても、私は分からないし、アリーナと友達になる前なら気づかなかったよ」

「それは……そうですね」

「あぁ。アリーナ様の家に居る時から、エルフリア殿が気にされていたのはこの事だったのですね」

「うん。だって、アリーナは優しいから」

「そう、ですか?」

「うん。優しい。だから、何処かで変な奴に見つかっててもおかしくないなって」

「まぁ確かにそうですなぁ」

「アリーナ様ならあり得る」

「えぇ!? 本当ですか!?」

「「「うん」」」


 まさかの三人同時に頷くとは思わず、私はショックを受けてしまった。

 そんな危険な事が起こっていたとは……!

 いや、でも。まだ何も起こっていないし、私が狙われているというのもあくまで可能性の一つだ。


「私が狙われているかどうかは、ひとまず置いておきましょう」

「……うん」

「しかし、それでも可能性としてはありますから、このまま山を下りて近くの町に行きましょうか。状況を整理したいです」

「良いと思いますぞ」

「そうしましょう」


「じゃあ、急いでいこうか。転移!」


 そして、私たちはエルフリアさんの転移魔法で山を下りるのだった。

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