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第35話『我々と共にアリーナとエルフリアの危機に立ち向かってくれ』(クリスタ視点)

(クリスタ視点)


 あたい! クリスタ!

 ひょんな事から、異世界に転生して! 頑張って聖女様になったのに! 女神様は面倒な仕事を押し付けてくるばかり!

 早く可愛い子達に囲まれたイチャコラ生活がしたいよぉ!


 なんて、考えている私、聖女クリスタ様でございますが。

 現在、私の周りに可愛い女の子などは存在せず、居るのはむさ苦しい程の男、男、男ばかりである。

 ドウシテコウナッタ!


「しかし、殿下の命を狙う者が居るとは……目的は何でしょうか」

「分からん。だが、王族というだけで狙う理由はあるからな」

「他国の間者という可能性もありますか」

「あぁ」


 あー! もう! おんにゃの子成分が足りなーい!

 このままでは死んでしまう!


 が、王子が狙われたという事で、私も会議に強制参加させられており、逃げ出せる状況ではない。

 くそっ! こうなったら手段は選ばないぞ!

 トイレに行くとかなんとか言って、この城から脱出。

 これしかない!

 乙女の恥なぞ知った事か!

 そんなモノ! 修行という名の拷問で大量に捨ててきたわ!


「皆さん。お話の最中失礼します」


 トイレ! トイレ!

 今からトイレ!

 よしっ!


「何か、新しい神託ですか!? 聖女様!」

「……」

「聖女様?」

「えぇ。たった今、女神様より神託が降りました」

『え?』

「なんと! その神託というのは……!」

『何を言っているのですか! クリスタ・メル・ピューリス! 私は何も!』


「女神様は仰いました。急ぎ、ミンスロー家のアリーナ様の元へ向かえ! と。彼女に危機が迫っています!」

「ミンスロー家? というと伯爵家ですな」

「いや、しかし、今は殿下の身をお守りする方が優先なのでは……」

『そうですよ! クリスタ・メル・ピューリス! 世界への混乱具合を考えれば、王子を守る方が……!』


「お黙りなさい!!」


「っ!?」

「な、何を……!」


「アリーナ様は世界の中心。彼女が失われれば世界は取り返しのつかない大きなダメージを負います。それでも貴方方は彼女を見捨てろと、そう仰るのですか!?」

「な、なんと……!」

「まさかそれほどの事態とは……!」

「いや、しかし。だとしても、アリーナ嬢には騎士を送れば良いでしょう。聖女様には殿下の守護を」


 えぇい! 我儘な奴らだな!

 私が行くと言っているんだ! ギャアギャア文句を言うな!

 殿下なんぞ知るか! そのまま見捨ててしまえ!


 むしろ居なくなった方が後々の私にとっては有利となる!

 クハハハハ!!


『貴女という人は……』


「分かった。ではこうしよう。私も聖女殿と共に、ミンスロー家へと向かう。これで文句は無いだろう?」

「殿下!?」

「この状況で城を離れるなど!」


 レスター王子は何故か急に私の味方をしたかと思うと、フッと笑ってギャアギャア騒ぐおじさん達に言い放った。

 無駄に張りつめた様な顔で。


「皆。聖女殿はな。私の前に現れた時、確かに言ったのだ。アリーナ嬢に危機が迫っていると」

「だとしても、それで殿下が動く理由にはなりますまい!」

「分からぬか? 聖女殿は見抜いていたのだ。私にアリーナ嬢の危機を伝える事が最も彼女を安全な場所に連れていく事が出来ると」

「それは……っ! ま、まさか!?」

「そう。私は遠くない未来。アリーナ嬢に婚約を申し込むつもりだ!」


 なーんーだーとー!?

 このガキィ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!

 アリーナちゃんもエルフリアちゃんも私のモンだ!

 手ぇ出すんじゃねぇ!


 と、叫びたいが、ここは敵地。

 レスター王子が支配するエリアだ。無駄にここで敵を増やす必要はないだろう。


 あくまで冷静に、心を静めて、時が来たらヤル!


『彼に手を出してはなりませんよ。クリスタ・メル・ピューリス』

(でも! でもでもだってー!)

『でもでもだって。ではありません。彼は現在、この世界で失ってはならない重要な人物です』

(ヤーダー! アリーナちゃんは私のだもーん! あげないもーん!)

『貴女という人は……』

(これが私だ! 聖女の魂だ!)


 呆れた様な女神様を押しのけて、私はようやく自由になった魂を叫ぶと、レスター王子が作った流れに乗るべく口を開いた。

 ひとまず、奴は生かしておこう。

 どの道、奴にはまだ何も出来ない。


 精々形だけの婚約に溺れていればいい。その間に私はアリーナちゃんとの間に、真実の愛を作るからなぁ!

 クハハハハ!


「ありがとうございます。レスター王子殿下。では、急ぎミンスロー家へと向かいましょう」

「いや」

「……?」

「家に行く前に、行かなければいけない所がある」

「……それは」

「ミンスロー領にある冒険者組合だ。大いなる災厄に立ち向かう為には、もっと仲間がいる」

「なるほど」


 私はひとまずレスター王子の提案に頷いて、多くの騎士団と共にミンスロー領へと向かう事になった。

 当初の予定とはだいぶ違うが、ヨシッ!

 結果としてアリーナちゃんとエルフリアちゃんに近づいている。ヨシッ!



 それから、それなりに時間をかけてミンスロー領へと到着した私は、聖女らしい姿と顔をしたまま冒険者組合へと入る。

 一応中に可愛い女の子が居ないかと探すが、居たのはオジサンばかりであった。

 いや、一人!

 カワイイというか綺麗な子が一人居た。


「ヘンリー!」

「っ!? レスター王子! どうしてここに!?」

「色々とあってな。君に話を聞きたいと思っていた」

「……なるほど、色々と事情がありそうですね。では別室で話しましょうか」

「あぁ。頼む」


 レスター王子は、何故か私だけを連れて、ヘンリーと呼ばれた男性に案内された部屋の中に入る。

 そして、ヘンリーと呼ばれた人は、先ほど見つけた綺麗な女性や、もう一人一緒に立っていた男性と共に会議室と思われる部屋に入るのだった。

 何々? これから何が始まるんだ?


『これは……』

(どうしたんですか? 女神様)

『いえ。どうやら既にこの世界へ転生してきた者たちが手を繋ぎ合っていた様です』

(という事は……?)


 私はやや狭い部屋の中に居る、男性三名、女性一名を見て、女神様に問う。


(もしかして、ここに居る全員が異世界からの転生者って事ですか!?)

『そうなります。まさかこの様な事になっていようとは……!』

(どうするんですか!? 女神様! 転生者は敵なんでしょ!? 全員墓の下に送り返さないといけないって事ですか!?)

『いえ、彼らから悪意は感じません。今は様子を見るのです! クリスタ・メル・ピューリス』

(アイサー!)


 そして、私はいつもの聖女スマイルを浮かべながら、彼らの話を聞くのだった。

 ただ、黙って。

 一応逃げる準備と戦う準備をしつつ。


「いきなりすまなかったな」

「いえ。それは構いませんが、何か緊急事態ですか?」

「以前……君に、夢の話をしたのを覚えているか?」

「……えぇ。不思議な世界の夢を見るというお話でしたね」

「あぁ」


 酷く緊張した様子で、レスター王子は拳を握りしめながら言葉を続ける。


「ここに集まった者たちは、ヘンリーが信用する者たち。そして、ヘンリーもまた私が信用できる人間だ」

「……はい」

「だからこそ、私は真実を話そう。全てはこの世界を……そして、君の妹アリーナを救うために」

「っ! 殿下、それは!」


「ヘンリー。そして、その友たち。聖女クリスタ。私はな。この世界の人間ではない」

「……っ!?」

「いや、より正確に言うのであれば、別の世界で命を落とし、この世界に転生してきた人間なのだ!」


 それはおそらく酷く勇気のいる行為であっただろう。

 私は女神様からの情報で、ここに居るのが全員転生者だと知っているが、彼は知らないはずだ。

 なれば、彼は袋叩きにされるかもしれないという様な覚悟でこの事実を口にしたという事になる。


 だからこそ、彼の行為は賞賛される物であるし。

 彼と同じ転生者という立場の人間は彼の行動の偉大さに気づき、自らの秘密を打ち明ける。


 たった一回、自らの話をするだけで、レスター王子は容易くこの場にいた者たちと友好を深めてしまった。

 凄いな、と純粋に思う。

 アリーナちゃんはあげないけど。


「そうか……君たちも同じ……そうか」

「はい。殿下。そして、我らも今、アリーナとエルフリアを守る為に出来る事を探している所でした」

「なるほど。分かった。ではやはり、君たちに頼む。我々と共にアリーナとエルフリアの危機に立ち向かってくれ」

「はい!」


 そして、レスター王子とヘンリーさんは手を取り合い、友情を深め合っていた。

 感動的な話ダナー。


「ところで殿下。そちらの女性は」

「あぁ。聖女クリスタだ」

「もしや彼女も……?」


 彼らは仲間を手に入れた。

 転生者という同じ立場の仲間を。

 だから……。


「いえ。私は転生者という者ではありません。ただ、女神様の神託をレスター王子殿下に届けただけです」

「そ、そうでしたか」


 私だけは、秘密を隠し通して有利な立場を作っておく!

 当然だ。

 最後にアリーナちゃんとエルフリアちゃんを手に入れるのは私なのだから!


 クハハ!

 クハハハハ!!


「では、彼女の神託も含めて情報を統合しましょう。ゲームの情報と神託。これだけあればアリーナへ迫る危機に対処できるはずです」

「あぁ! 今こそ力を合わせる時だ!」

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