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第30話『むしろアリーナが魔女を倒す鍵なんだ』(ヘンリー視点)

(ヘンリー視点)


 森で、魔女の書という危険物を処理した俺であるが、次なる目標を探す前に、かつて一度戦ったジークと語り合う事にした。

 この世界に転生した当初とは違い、この世界は俺が知らない情報もかなりあると知ったからだ。

 情報はあればあるだけ良い。


 少しでも多く情報を集める事が、今後大事になるだろうと感じたからだ。


「つまりジークが前世でやっていたこの世界をモデルにしたゲームは戦略ゲームだったのか」

「あぁ。お前の前世でやったゲームとは違ってな。平民からでも世界の王になれるゲームだったぜ」

「それは夢があるというか、何というかだな」

「男のロマンではある」

「否定はしないさ」

「お前もやってみれば良かったのによ。まずこのゲームはな、その自由度が売りなんだ。主人公はこの世界に生まれた奴って設定でな。ある程度自由にカスタマイズ出来て、戦闘特化、知略特化みたいに色々出来たんだよ」

「なるほど。それでジークは戦闘特化という訳か」

「まぁ、これが何だかんだ一番手っ取り早いからな。どの道最後には戦いが待ってるんだから、戦闘特化にする方が効率的だろ?」

「最後に争いがあるのなら、確かにな……っと、ちょっと待て。最後に争いがあるというのはどういう事だ。戦争か?」

「いや、違う」


 森の中を話しながら歩いていた俺達だったが、俺が足を止めて問うた事を、ジークは少し先に歩いて振り向いてから答えた。

 その顔は真剣で、少しもふざけている様な気配は見せていない。


「お前が先ほど燃やしただろう? 魔女だ」

「それは、アリーナか?」

「違う。アリーナは魔女にはならない。むしろアリーナが魔女を倒す鍵なんだ」

「どういう意味だ。それは」

「俺もその辺りは詳しくない。だが、魔女の力は膨大でな。奴の起こす事件によって世界は大変な事になるんだが、唯一アリーナだけは魔女に説得のコマンドが使えるんだよ。そして、使うと魔女の動きが少し鈍くなる」

「……」


 俺はジークから聞いた話を頭の中で噛み砕いて考える。

 魔女の書を手に入れることで、魔女となってしまうアリーナ。

 そして、魔女と唯一交渉出来る存在もアリーナ。


 もしかして、アリーナと魔女には何か繋がりがあるのか?


「それでな。お前にも聞いてみたかったんだが……アリーナと魔女には何か繋がりがあるのか?」

「……いや、少なくとも俺は知らないな」

「そうか。まぁ、魔女の書はお前が燃やしたし。魔女が現れるという心配はもうない。ならまぁ特に深く考える必要はないんだろうがな」

「そう……だな」

「おうよ」


 ジークは爽やかに笑って、再び歩き始める。

 俺はそんなジークの背中について歩きながら、考え事を続けていた。


 アリーナは幼い頃、ずっと家の中に居た。

 外へ行く時には必ずついていった。魔女等という怪しげな存在と話をしていたという様な事もない。

 ……。


 まぁ、話をするという事であれば、よく人形を持って庭で話をしていたという様な記憶はある。

 木陰で、いくつもの人形をシートの上に座らせて話をしていた。

 が、まぁそれくらいだ。

 人形遊びなら前世で妹もやっていたし、同じ様な物だと思うが……。

 もしや人形に何かあるのだろうか?


 一応、時間があるときに調べてみるかと俺は家に戻った時の予定を頭に刻み込んだ。


「しかしアリーナが冒険者とはな。ジークの世界でもアリーナは冒険者だったのか?」

「いんや? ミンスローって家のご令嬢だよ。アリーナの家の領地で起こってる事件を解決すると、親密度が上がってな。会話が出来るようになる。んで、その内仲間に出来るって感じだ」

「中々面倒なんだな」

「まぁアリーナは味方に居るだけで、どんなキャラクターでも味方に出来る強キャラだったからな。多少の面倒がねぇとゲームバランスがぶっ壊れる」

「そういう物か」

「乙女ゲームにはない要素さ。あまりに簡単なゲームじゃ批判が出るって奴だな」

「ふぅん」

「だからアリーナは最難関のキャラクターだったんだよ。まぁお前みたいに兄貴になればそれが一番早いんだなってのは、お前と会ってから始めて気づいた事ではあったが」

「俺は別にアリーナを利用しようと思ってこうなった訳じゃないがな」

「分かっているさ」


 俺はニヤリと笑うジークに手を振りながら言葉を投げ返す。

 そして、森を超えて呼んでおいた馬車にジークと乗り込んだ。

 向かう先はアリーナが冒険者になったという冒険者組合だ。


 そこで待っていればアリーナも戻ってくるだろうし。

 それ以降はアリーナと共に行動すれば危険がアリーナに近づいてきても対処出来るという訳だ。


「しかし」

「うん?」

「なんだってお前さんはそこまでアリーナに執着するんだよ。この世界じゃ普通の人間だが、元はゲームのキャラクターだ。そこまで入れ込むもんかね。兄妹って言ってもちょっと過剰だぜ?」

「まぁ、そうなのかもしれないな」

「……」

「確かに、俺はアリーナの兄という立場以上に、彼女の幸せを求めている」


 俺は動き始めた馬車の窓から外を眺め、かつて妹であった子との話を思い出していた。

 生まれながらに病弱で、病院で一日の殆どを過ごしていたあの子の事を。


「約束があるんだよ」

「約束?」

「あぁ。アリーナが魔女になってしまうのは何か理由があるって言っていた子が居てな。その子に頼まれたんだよ。アリーナを幸せにしてあげてって」

「……そうか」


 ジークは、俺を見ながら微妙な顔で頷いた。

 笑っているのか、泣いているのか。

 感情の読めない表情だ。


 しかし、何故か俺も同じ様な顔をしているのだろうなと思った。

 前世に置いてきてしまった忘れ物を、この世界で探している。

 そんな思いを……ジークも持っているのかもしれない。


「という訳で、俺はあの子を幸せにしてやらなければ、天国には行けないのさ」

「なんだお前。天国に行く予定だったのか」

「当然だろう。前世でも今世でも俺は善人だよ」

「くはっ、ふはははは!! そりゃいい!」


 腹を抱えてゲラゲラと笑うジークに、俺はフッと鼻で笑った。

 いくらでも笑えば良い。

 俺にとっては何よりも大事な事なのだ。


「天国で俺の事を待っている子が居るからな。何が何でも俺は天国に行かなきゃならん」

「待ち人でも居るのか?」

「あぁ。一人な。それと後から来る子も迎えてやらなきゃならんだろ。天国だって何か苦労があるかもしれないからな」

「ふっ、過保護なお兄ちゃんだ」

「それが兄っていう生き物なんだよ」

「そりゃご苦労なこって」


「お前は……」

「あん?」

「ジークは居ないのか?」

「生憎と、俺の相手はお前みたいに守ってやらなきゃいけない様な奴じゃないんだ。アイツは強い。どんな世界でも自由に生きているさ」

「そうか……」

「だから俺がやらなきゃいけないのは、アイツとまた会った時の土産話を作る事さ」

「それで世界の王になるつもりだったのか」

「良いだろ? これ以上にワクワクする話はねぇ」

「個人差があるとだけ言っておこう」


 俺は腕を組みながら足を組んで、ハッキリとジークに宣言しておいた。

 世界征服なんてくだらないぞという様に。

 しかし、ジークは分かっているとでもいう様に鼻を鳴らすと、同じ様に足を組むのだった。


 何とも気に食わない奴である。



 それから俺たちは適当に言葉を投げ合って、交流を重ねた。

 それで友情が生まれる。なんて事は無いが……まぁ、相互理解くらいは出来たと思う。


「ん? そろそろ冒険者組合のある街に着くな」

「さてと、じゃあアリーナの行方を聞いて、場所によっては行くか、ここで待つか」

「そうだな」


「あ、兄貴ぃ~!?」

「ようやく見つけた!」


 ジークと共に馬車を降りて歩いていた俺達だったが、不意に俺たちの方へ放たれる声を聞いて俺たちは足を止める。

 声をかけて来ていたのは、ジークと初めて会った時に森で居た者達だった。


「おぅ。長く離れて悪かったな。それで? アリーナとエルフリアはどうだ? どこに居る?」

「そ、それが!」

「クロエの姉御と共に遠くの村へ依頼に行ったらしいんですけど、帰ってくる途中にアリーナ様達はアリーナ様の家に行っちまって、そのまま組合には戻らずに次の依頼でどこかに行っちゃったらしいんですよ!」

「なるほど。とんだお転婆だな? お兄ちゃんよ」

「どうやらその様だな」


 俺は頭を抱えながら、ひとまず冒険者組合で待っているらしいクロエの元へ行き、アリーナに関する話を聞く事にするのだった。

 なんとも元気な妹だよ。まったく。

 仕方ない子だ。

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