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第26話『私は、この世界にどうしても許せない事は無いと思うのです』

 山で採ってきた山菜やクマさんの肉を無事に村へと届けた結果。

 私たちは村の人達総出で準備する宴に参加する事になった。

 まぁ、村の人達にまるで拝まれるような勢いで頼まれては断る事も難しい。


「姫様たちにここまでしていただけるとは! これは是非とも宴に参加していただかなくては! 我らは恩義も返せぬ恥さらしの集団となりましょう!」

「どうか!」

「どうか!! 姫様!」


 という訳で、私たちは村の中心……から少し外れた場所。

 例の大きな畑がある正面に用意された椅子に座る事となった。


 私たちのすぐ後ろには畑があり、私たちだけが椅子に座っていて、村の人たちが地面に簡単なクッションを置いて座っている為、何だか上から見下ろしている感覚が微妙である。


「……」

「エルフリアさん。大丈夫ですか?」

「……ムリ」


 エルフリアさんは、目立っているという状況で精神が限界を超えている様で、椅子の上でプルプルと震えながら私の方に少しずつ椅子を動かしていた。

 その姿を見て、私も少しずつ椅子を動かしてエルフリアさんの手を握る。


 それで、エルフリアさんは一瞬安心したような顔になったけれど、すぐに周囲の状況を思い出したのか顔を蒼くして俯いてしまった。

 それが可哀想で、私は村の人たちに相談する事にする。


「あのー。大変申し訳ないのですが、私たちは地面に座っても大丈夫ですか?」

「えぇ!? し、しかし、我々と同じ場所というのは……!」

「姫様は貴族様ですし」

「貴族であっても同じ人間ですよ。同じ場所に立つ事で見える物もあると私は考えます」

「な、なんと……!」

「それに、こっちの方が楽しそうじゃないですか。椅子に座っていると、何だか仲間外れにされてしまったみたいな気持ちで」

「その様な事は!」

「すぐにこちらへ場所を移しますね!!」

「おい! 一番綺麗なクッション二つ持ってこい!」


 何とか村の人たちを説得する事が出来て、私はエルフリアさんと一緒に地面に置かれた二重のクッションの上に座る事となった。

 二人で座るクッションは少し狭いけれど、エルフリアさんは落ち着いたようで、私たちの前で燃えている大きなたき火を見て喜んでいた。


「ね、ね、アリーナ。すごいね。いっぱい燃えてるよ」

「そうですねぇ。こんなに大きなたき火は見た事がありません」


「流石は姫様。お目が高い」

「ササッ」


 エルフリアさんと二人で大きなたき火を見て感動していると、村の人が話しかけてきてくれた。

 エルフリアさんはいつもの様に私の後ろに隠れてしまったけれど、少しだけ顔を出して村の人の話を聞いている様だった。


「これは昔から伝わる祝いの儀式でしてな。こうして巨大な炎の柱を作り、それを皆で囲みながら闇を払う儀式なのです」

「闇を払う、儀式ですか」

「はい。日が落ちて世界に闇が満ちても、炎の周りは光が溢れておりますから。その炎を囲む事で、我らは光の中に生きていると実感できるのです。まぁ、燃やし続ける為には大量の木々を使うので、本当に素晴らしい祝い事の時にしかやりませんが」

「なるほど……」

「なんでも遥かな昔に、世界を滅ぼそうとした巨悪が居て、その巨悪が作り出した闇を解き放つために浄化の炎を作ったのが始まりとか何とか」

「世界を滅ぼそうとした巨悪ですか」

「まぁ、どこにでもあるおとぎ話ですよ」

「しかし、おとぎ話というのは過去にあった重要な出来事を伝えている事もあるそうで」

「なるほど。確かに。では、姫様におとぎ話をお伝えして、もしもの時に役立てていただければ幸いでございます」

「はい」


 という訳で、私はせっかくなので、そのおとぎ話の詳細を聞く事にした。

 エルフリアさんも少し興味があったのか、少しだけ顔を前に出して話を聞いていた。


「まぁ詳細とは言っても、そこまで何かがあるという訳では無いのですよ。ただ、その巨悪は空を飛ぶ事の出来る存在だった様で、大いなる力で空の灯りを全て消してしまったそうです」

「なんと……。日の光や、星々の灯りも消してしまったという事ですね」

「おそらくは。しかし、そんな闇の化身に対し、人々は灯りを取り戻そうと様々な手段を取りました。しかしどの様な手段も光を取り戻す事は出来ず、世界は闇に包まれたまま」


 村の人の言葉に緊張感が宿り、私もゴクリと唾を飲み込みながら意識を集中する。


「しかし、そんな絶体絶命とも言うべき世界でも、人々は諦めず別の手段を探し続け、そして一つの希望に辿り着きました」

「希望、ですか?」

「はい。女神様より授かった聖なる炎です。人々は聖なる炎に祈り、力を高め続けました。その結果、炎は大きくなり続け、輝き、世界を覆う暗闇を打ち払ったのです」

「聖なる炎ですか……普通の炎ではその闇を払う事は出来なかったという事なのですね」

「おそらくは」

「なるほど」

「まぁ我々の炎は女神様の炎ではなく、普通の炎ですがね」

「そこは、まぁ。ですが、儀式というのは続けることが大事なのだと私は思います。それがいつか苦難を乗り越えるヒントになるかもしれません」

「そうですね。であれば、姫様も何かあれば我らの教えをお役立て下さい」

「はい!」


 私は村の人の話を聞いて、うんうんと頷きながらスープを飲んでいた。

 闇に染まった世界。

 闇を照らす女神様の聖なる炎。


 中々面白い伝承だと思う。

 女神様は実際に存在する訳だし。

 世界を闇が覆い隠したというのも、何かしらの災害が元になっているのではないか。

 ではそうなると、炎はどういう意味なのだろう。


 何か巨大な木の様な物が成長した結果、村を覆い隠してしまったが、それを焼き払う事が出来ず、特別な炎なら焼くことが出来たとか。

 そうなると特別な炎というのは……。


「アリーナ。アリーナ」

「はい? どうしました。エルフリアさん」

「なにか、ボーっとしてたから」

「あぁ。先ほどのお話を考えていたのです」


 私は村の皆が円になり、囲んでいる炎を見ながら目を細める。

 聖なる炎と呼ばれる様な炎では無いのだろうが、いつの間にか暗くなっていた夜の世界を照らす赤い光を。


「女神、かぁ」

「エルフリアさん?」

「アリーナは、その……女神の事が好き、なの?」

「女神様が好きか。と問われると、難しいですね。私自身はそういう方が私たちを見守っているという事を知っているという程度で、今この世界が平和である事が女神様の御力だというのなら、好きかもしれません」

「……じゃ、じゃあ。もし私と女神が喧嘩したら、アリーナはどっちに頑張れーって言う!?」

「喧嘩しては駄目ですよーと私は言います」

「そ、そうじゃなくて! 私と女神が喧嘩するの! もう! 絶対に許せないよ! っていう感じで! それで! だから!」

「エルフリアさん」

「っ! な、なに?」

「私は、この世界にどうしても許せない事は無いと思うのです。許せないのではなく、許したくないだけ。だから、エルフリアさんがもし、許したくないのなら。私がエルフリアさんの嫌だなー! こういう所が嫌いだなー! という所を聞きますよ」

「……」

「モヤモヤした気持ちも、誰かに話したら。話す事が出来たならきっと……私は少しだけ誰かに優しくなれるんじゃないかな。って思うのです」

「アリーナは、私が誰かと喧嘩しているの、いや?」

「うーん。そうですねぇ。苦手かもしれません。だって、エルフリアさんはきっと争う事が苦手な人だと思うので」

「……そっか」

「はい。だから、争いを起こさずに済むのなら、私は何でもやりますよ。エルフリアさんの嫌だなーっていう事を聞くとか!」

「じゃあ、その時には相談するね?」

「はい。いつでもどうぞ。私はエルフリアさんの大切なお友達ですから!」


 私はエルフリアさんに笑顔で微笑んで、持っていたグラスをエルフリアさんに向ける。

 そして、エルフリアさんもまた私にグラスを向けてくれ、私たちはグラスをぶつけ合って気持ちを重ね合わせるのだった。


 それから時間が過ぎて、私たちは宴を最後まで楽しんだ。

 村の人たちや、クロエさんニールさん達はお酒を飲んで楽しんでいたから、夜も遅い時間になるとすっかり深い眠りの中に落ちてしまったのだった。

 私は、何だか眠れなくて、村の中をテクテクと散歩していた。


 だが、そんな私の前にふわりと舞い降りてきたのはエルフリアさんだった。


「っ! アリーナ! どこに行っちゃったかと思った!」

「あぁ、エルフリアさん。ごめんなさい。すっかり寝てしまっていたので、起こさない方が良いかなと思いまして」

「大丈夫だから、起こして」

「……わかりました。次から出かける時は一声かけますね」

「うん!」


 そして私はエルフリアさんと手を繋ぎながら星々が煌めく夜の道をお散歩するのだった。

 色々なお話をして、笑い合い、気持ちを重ね合わせる。


 今日はとても楽しい日だった。

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