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第25話『今、アリーナはどこで何をしているのかな』(ヘンリー視点)

(ヘンリー視点)


 アリーナ・エル・ミンスローという少女は、【白に染まる乙女の花】というゲームにて悪役令嬢という立場で登場する。

 メインヒロインであるクリスタがレスター王子を攻略する際に現れるキャラクターだ。


 彼女の目的は人類を絶滅させる事であり、人類全てを巻き込む戦争を始める為にレスター王子の結婚相手……つまりは王妃という立場を狙っているのであった。


 レスター王子ルートのバッドエンドは、通称アリーナルートなどと呼ばれるのだが、そのルートで示される彼女の憎しみは乙女ゲームに出てくるキャラクターとは思えぬほどに激しく、底知れない怒りと憎しみに満ちていた。

 プレイヤーに、アリーナという存在を強く印象付けるほどに。


 しかし、だからこそ……俺たちはずっと疑問だったのだ。

 あれだけの憎しみを抱えていたアリーナが、何故レスター王子ルート以外では大人しいのかを。

 ストーリーにはまるで絡まず、まるで憎しみのままに世界を滅ぼそうとしたアリーナなど居ないかの様だった。


 そして生まれた一つの仮説。

 それは、アリーナという少女が何か別の悪意ある存在に乗っ取られていたのではないか。という仮説だ。

 この話の根拠としては、設定資料集に描かれたアリーナの姿にある。


 学園の制服、ドレス、など様々な立ち絵が存在する中で、明確な違和感を覚えた者たちが居た。

 彼らは、アリーナがとある本を持っているかどうかで外見に違いがあると言い始めたのだ。


 その本を持っている間、アリーナの瞳は真紅に染まっているが、本を持っていない場合、瞳の色は翡翠であった。

 そして、ゲーム内でアリーナが暴れている時は全て真紅であったし、本も持っていた。

 なら、もしかして、アリーナはこの本に操られているんじゃないか? 等と彼らは推理した。


 それが真実であったかどうかは分からない。

 分からないが、俺がこの世界に転生して、アリーナの義兄として常に傍にいたが、アリーナの瞳は常に翡翠であった。

 そして、性格も常に人の事を考え、苦しむ者には手を差し伸べ、誰に対しても優しく誠実であり続けた。


 これがアリーナの真実であるならば、やはりアリーナの暴走は全てあの本が原因という事になる。

 ならば、あの禍々しい本を見つけて処分すれば、アリーナの破滅は防げるのではないかと俺はミンスロー家の中を探し続けた。

 しかし、結局見つける事は出来なかった。

 だが、あの日、アリーナが口にした魔女の書という言葉にピンと来たのだ。


 大いなる力を手に入れる事が出来る本。

 そして、世界の様々な問題に悩むアリーナ。


 まるで運命の様に引き合うアリーナと本は、原作ゲームで描かれなかった流れを俺に想像させた。

 何故レスター王子以外のルートではアリーナが暴走しないか。

 それはアリーナがレスター王子と絆を深めながらゆっくりと世界を変えていこうと思える環境にあったからではないのだろうか。


 しかし、クリスタが介入したことで、自分に力が無いからレスター王子はクリスタを選んだのだと考え、自らの手で世界を救おうと禁断の力に手を伸ばし……体を奪われた。


 その推理が正しかったかどうか、それは分からない。

 分からないが、アリーナが力を求めない様にと、色々な手段でアリーナに干渉し、気持ちを変えさせようとしたが、アリーナが本に惹かれるのは運命とばかりにアリーナは本を求めた。


「しかし、幸いだったのは、この森にエルフリアが居たことだな」


 彼女と出会った事で、アリーナは本を求める以外の方法で世界に干渉する事が出来るようになった。

 幸運と言う他無いだろう。

 世界にとっても、俺にとっても幸運であった。


「後は、この本を世界から消し去ってしまう事で、破滅は回避できる」


 俺は、古びた大樹の根に絡まれながら死している誰かの遺体と、その遺体が抱きしめている本に視線を落とした。

 まるで眠っている様に目を閉じている女性は、おそらく遠い昔に本を手に入れて破滅してしまった人間だろう。

 もはや生きてはいないだろうが、このままの状態というのも可哀想だし、まとめて焼却してやるべきだな。


「ヘンリー様。準備が出来ました」

「あぁ」

「火属性を得意とする魔術師と水属性を得意とする魔術師を集めました。これで確実に本を処理しつつ、森への延焼は避ける事ができます」

「すまないな。我儘を言って」

「いえ。これも全てアリーナ様の為。この程度苦労にはなりませんよ」

「助かる」


 俺は魔術師たちに礼を言って、本から少し離れた場所へと移動した。


 ここはエルフリアが住まう森の奥地にある深き森の中だ。

 アリーナにはここから失われたと言っておいたが、本はどこにも移動などしていない。

 何も変わらず、ここにあったのだ。


「よし。準備ができ次第燃やせ。ページ一つとして残すなよ」

「ハッ! 皆! 準備は良いな!」

「「応!」」

「では火の魔術! 構え……! 撃て!!」


 ミンスロー家の騎士団団長の言葉を合図として、十数名による魔術が放たれた。

 火はまっすぐに木へと向かい、いくつもの火が重なって炎となった。

 ごうごうと燃え盛る姿は、恐怖を感じるほどに強く輝いており、木を、人を、本を激しい炎で焼いていた。


 何かしらの魔術的な防御がある可能性も考えて、色々な手段を用意はしてきたが、どうやら不要だったらしい。

 炎は順調に全てを燃やしている。

 このまま何も問題が無ければ全て燃えてしまうだろうと思われた。


 なんて、考えていると何かのフラグになりそうだし、俺は保険を強くする。


「団長。火の魔術を追加してくれ」

「は! 承知いたしました! 火の魔術! 第二陣! 構え!! ……放て!」


 団長の合図で放たれた二回目の魔術で木も人も本も全てが完全に火の中に包まれた。

 赤く燃える炎は全てを焼き尽くし、やがて炎が木を焼き尽くした事を確認して、水の魔術への指示を出す。


「水の魔術! 放て!」


 激しい爆発音と共に、周囲に煙が噴き出し、場は騒然とするが、風が吹いた事で煙はすぐに消え失せて、すっかり焼けてしまった木があらわになった。

 周囲への被害は出ていないらしく、事前に火が燃え広がらない様に対策して良かったと俺はホッと息を吐くのだった。


 そして、一番重要な本の確認をしにゆく。


「……」

「ヘンリー様」

「あぁ。問題ない。本は全て燃えている。木も人もな」

「それは良かった。これでアリーナ様は救われるのですね」

「あぁ。間違いない。だが、コレ以外にも怪しげな本はいくらでもある。危険な物にアリーナが近づく可能性があるのなら、徹底的に排除するぞ」

「ハッ!」


「では、これにて魔女の書焼却作戦は終了となる。後は残り火などが無いか徹底的に確認し、撤退するぞ」

「承知いたしました!」


 団長は俺に敬礼した後、騎士たちに指示を伝え、四方に散ってゆく。

 これで全ての問題は解決した。

 後は、アリーナが健やかに生きてゆくのを見守るだけであるが……。


「今、アリーナはどこで何をしているのかな」

「アリーナなら、冒険者になると街の方へ向かったぞ」

「……お前は」

「久しぶりだな。お兄様」

「貴様か。何の用だ」

「何。俺様の計画の邪魔にならないかどうか見に来ただけさ。まぁ、無事に処理出来たみたいだから良かったがな」

「無事に処理……?」

「魔女の書。だろ? アレは確かに魔法力が上がる良いアイテムだが、人の心を狂わせるからな。百害あって一利なしだ」

「そうか」


 俺は、どこか不安だった推理が当たっていた事に少しばかりの安堵を覚える。


「おい、お前」

「お前じゃない。ジークだ」

「ジーク。魔女の書みたいなアイテムは他にもあるのか?」

「まぁ、無い事も無いな」

「ならば教えろ。全てだ」

「それが人に物を頼む態度か?」

「やかましい。こっちはお前の気持ちなど考えている暇は無いんだ」

「まったく、せわしない奴だ……しかし、良いだろう。あの手のアイテムは破壊した方が良いからな。情報は共有してやる」

「助かる」


 そして、俺は次なるアリーナへの脅威を取り除くべく、ジークと名乗る男と共に森を後にするのだった。

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