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第24話『私たち、仲良しのお友達ですね』

「アリーナ! アリーナ! 大丈夫!?」

「はっ! ご、ごめんなさい。ボーっとしてました」

「傷は治したんだけど、大丈夫? もう痛くない?」

「はい。大丈夫です。エルフリアさんのお陰で、もう全然痛くないですよ」

「よ、良かったぁ」


 へなへなとその場に座り込み、半泣きで喜ぶエルフリアさんを見て、私は自分の中に生まれた感情をため息と共に吐き出した。

 こんなにも優しいエルフリアさんを、怖いと思ってしまった自分が恥ずかしい。

 助けられたくせに、何という自分勝手な人間だろう。


「ありがとうございます。エルフリアさん。エルフリアさんのお陰で助かりました」

「ううん。私こそ、ごめんね。私がもっと早くえいやー! って出来たら良かったんだけど」

「いえ。十分に速かったですよ」


 私はエルフリアさんに微笑みながら、何とか震える足で立ち上がり、エルフリアさんが倒してくれた獣を見るべく顔をそちらへ向けた。

 未だ衝撃の痕跡が残っている獣の周囲は木の枝が焦げているが、地面から煙は出ておらず、そこまで熱は感じない。

 燃やしたという訳ではなさそうだ。

 何か別の手段で倒したという事だろうか。


「……」

「ねね。アリーナ。アレ! 見てみて?」

「あれ?」


 ジッと衝撃の痕跡を見ていた私は、エルフリアさんに腕を引っ張られ、何だろうかとエルフリアさんが指さした方へと視線を向けた。

 そこには私が先ほど見つけた美味しいキノコがあった。

 どう考えてもエルフリアさんの魔法に巻き込まれている筈なのに、そこだけは何の被害もなく、何ごとも無かったかの様に無傷だった。


「すごい……」

「えへへ。でしょ? でしょ?」

「はい。本当に凄いです。本当に……!」

「えへ、って、アリーナ……! 泣いてるの!? どこか痛かった?」

「いえ。違うんです。ただ、自分が恥ずかしくて」

「えと? 良く分からないよ。アリーナ」

「ごめんなさい……! エルフリアさん!」


 私は首を傾げるエルフリアさんに抱き着いて、泣いた。

 申し訳なくて、情けなくて。

 でも、そんな私にも優しいエルフリアさんと、お友達になれた事が嬉しくて。


「よしよし。大丈夫だよ」


 そして、エルフリアさんに慰めて貰いながら、私は少しずつ自分の気持ちを落ち着かせていった。

 大きく息を吸って、大きく息を吐く。

 それを何度か繰り返している内に、気持ちは落ち着いてゆき、私は平静さを取り戻す事が出来たのだった。


「ありがとうございます。エルフリアさん」

「ううん。大丈夫だよ。アリーナは大丈夫?」

「はい。もうすっかり元気になりました」

「うん、良かった」


 エルフリアさんがスッと私から離れて、テクテクと森の中を歩いてゆく。

 別に大丈夫だとは思うのだけれど、迷子になったら大変だと思い、私はエルフリアさんの手を取って握った。

 いつもの様に。


「っ! あ、ありーな」

「え? あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」

「嫌じゃないよ! 嫌じゃないけど、うん。私は、嫌じゃない」

「そうですか? では、こうしていますね」

「う、うん……」

「ふふ」

「どうしたの? アリーナ」

「いえ。最近はずっとエルフリアさんが近くに居たので、なんだか近くに居ないと不安になってしまいました」

「……そうだね。私も同じ」

「私たち、仲良しのお友達ですね」


 私はエルフリアさんと見つめ合いながら微笑んだ。

 そして、エルフリアさんも、安心した様に微笑んで、キュッと私の手を握ってくれる。


「じゃあキノコ、一緒に採りましょうか」

「うん」

「あー、それと、この黒い獣さんをどうするか……ですね。食べられるんでしょうか」

「焼いたのは外だけだから、多分大丈夫じゃないかな」

「むむ。こういうのは専門の方に聞いた方が良いですかね。クロエさーん!」


 私は後ろに振り返って、クロエさんの名前を呼んだ。


「っ! はっ! も、萌え……じゃない。どうしたのかしらですわ? アリーナちゃん」

「クロエ……貴様。時を場合を考えろ」

「う、うるさいわね。しょうがないでしょ! 誰にだっていつだって萌える権利はあるわ」

「はぁ……本当に仕方のない奴だな。俺が状態見てみるからどけ」

「うっ」


 クロエさんの隣に立っていたニールさんが、呆れた様な顔をしながら私たちの所まで走ってきてくれ、黒い獣さんの様子を見てくれる。

 よく分からない人だけれども、優しい人なのだなと思った。

 初めて会った時も助けてくれたし。


「ふむ。確かにエルフリア嬢の言う通り、焼けているのは表面だけの様だな。中の肉は問題ないだろう」

「わぁ……! 良かったです。エルフリアさんもありがとうございます」

「へへ、えへへ」


「しかし、そうなると、どうしてこのクマは死んだんだ? なんか病気とかじゃないだろうな」

「表面焼かれたからじゃないの?」

「バカを言うな。見ろ、この皮膚の厚みを」

「それでも焼かれたた痛いでしょ。それにほら。火あぶりとかで人って死ぬじゃん?」

「人はな? クマって奴は、そうそう簡単には死なないんだ。銃弾受けても平然とこっちに向かってくるんだぞ」

「あら。まるで経験者みたいな言い方ねぇ」

「まぁ、俺は前の世界でクマと戦ったからな」

「あら、猟師ってこと?」

「いや、警察だ。街になクマが出たってんで、現地に向かったんだよ。あの時は死ぬかと思ったな」

「大変なのね。警察って」

「まぁ、いつもじゃないけどな。そういう時もあったという話だ」


 ニールさんとクロエさんの話はよく分からないが、多分前世と呼ばれる場所の話をしているのだと思う。

 前にお義兄様も似たような話をしていたし……。


「そういえば」

「どうしたの、アリーナ」

「いえ。お義兄様はどこで何をされてらっしゃるのかなと思いまして」

「お義兄様って、前に森に来た人?」

「はい」

「あの人かぁ……仲良しなの?」

「そうですね。はい。多分そうだと思います」

「そっかぁ。それは良いね」


 良いねと言いながらもエルフリアさんはどこか寂しそうで。

 私は思わずギュッとエルフリアさんの手を握って笑う。


「大丈夫ですよ。エルフリアさん。私はずっと傍に居ますから」

「……うん。ありがとう。アリーナ」

「はい」


 私の手を、同じだけ握り返してくれるエルフリアさんが嬉しくて、私はエルフリアさんに少しだけ寄り掛かる。

 エルフリアさんは私の行動に、やったなーと言いながらていと押し返してくるのだった。


「てぇっ、てぇてぇ……!」

「仕事をしろ。仕事を。クマの解体を俺一人にやらせるつもりか」

「今はそれどころじゃないのよ!」

「それはこっちのセリフだ! バカやろう!」


 ニールさんの叫び声を聞いて、私はハッとなり、ニールさんのお手伝いをする為に、クマさんの元へと向かった。

 しかし、ニールさんは私たちの手伝いは必要ないと言う。


「お嬢ちゃん達はむしろキノコとか山菜を取ってきてくれる方が助かる。まぁエルフリアちゃんがいれば、安全だろうしな」

「えっへん! アリーナは私が守るよ!」

「頼もしい話だ。じゃ、そっちは任せたよ」

「はい。分かりました」

「はぁーい」


 エルフリアさんは元気よく手を挙げて、私の手を引っ張りながら森の奥へと進んでゆく。

 どうやら森の奥の方は色々な山菜がある様で、私はエルフリアさんと手分けしながらより良い物を探すのだった。


「ねぇねぇアリーナ。これは?」

「まだ小さいので、そのままにしておきましょう」

「はぁーい」

「あら。こんな所にも美味しいキノコが」

「アリーナ! アリーナ! 凄いの見つけた! 綺麗なの!」

「あら。これは毒キノコですね」

「毒キノコ~?」

「はい。食べるとお腹が痛くなっちゃうキノコです」

「えぇー!? どうしよう! もう手で触っちゃった!」

「食べなければ大丈夫ですよ」

「うぇー。手、洗わなきゃ」


 半泣きで魔法を使いながら手を洗うエルフリアさんを見て、私は楽しそうだと笑うのだった。

 それから、私とエルフリアさんは沢山の山菜を持って。

 クロエさんとニールさんは解体したというクマさんの肉を持って、村へと戻るのだった。

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