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第22話『ありがとうございます。エルフリアさん』

 長い旅を終えて、目的の村へたどり着いた私たちは、馬車から降りて村へ行こうとした。

 しかし、馬車の中でゴロゴロと寝てしまったため、汚れている服を払って、ひとまず綺麗にする。

 見た目は何よりも大事な要素の一つである。


 領主の娘として、お父様の娘としてしっかりしなくては!


「む。むむ。てい!」

「だ、大丈夫……? アリーナちゃん」

「はい。貴族の娘として恥ずかしくない様にしていました」

「そう……? 無理はしないでね?」

「分かりました!」


 私は元気よく手を挙げて返事をしつつ、見た目が整ったのを確認してからエルフリアさんと共に村へと向かった。


 村はそれほど広くはなく、村人もどこかのんびりとしていて、空気はどこか安らぐ様な物だった。

 素敵な村の予感がする。


「おや? こんな辺境の村までどの様なご用件で?」

「冒険者組合の依頼としてきました」

「あ、なるほど。そりゃ毎度ご苦労さんな事で。宿は村の外れにありますからね」

「えぇ。分かりました」


 すらすらとクロエさんが村の人と話すのを聞きながら、私もエルフリアさんと一緒にうんうんと頷く。

 覚えられる事は覚えなくてはいけない。

 これから、エルフリアさんと二人で旅をする訳だし。


「おや、そちらのお嬢さん方も、冒険者の方ですか?」

「えぇ。その通りですよ」

「なるほど、若いのに大変ですねぇ」


 村人と思われるお爺さんによしよしと頭を撫でられて、私は元気よく挨拶をした。

 エルフリアさんは、まだお爺さんと話が出来る状態では無い様で、いつも通り私の背中に隠れながら様子を伺っている様だった。


 それから私たちはお爺さんに聞いた通り、村の外れまで行き、宿の中に入って荷物を置く。

 部屋は私とエルフリアさんとクロエさんの三人部屋だ。

 本当は二人用の部屋らしいんだけど、私とエルフリアさんだけにするのも問題だ、とクロエさんが訴えたため、三人の部屋になったというワケだ。


 ベッドは私とエルフリアさんで一つ。クロエさんが一つという形である。

 私はベッドに荷物を置いて、エルフリアさんがベッドに飛び乗るのを見ながら笑い、これからどうするのだろう、とクロエさんに視線を向ける。


「じゃあ、今から依頼をこなすワケだけど」

「はい」

「今日は移動で疲れたでしょうし。明日からにしましょうか」

「分かりました! では、村の中を見てきても良いでしょうか?」

「えぇ、構わないわよ」

「ありがとうございます! では行きましょう! エルフリアさん!」

「う、うん……!」


 私はエルフリアさんの手を引っ張って、そのまま宿を飛び出し、村の中を順番に見て回る事にした。

 入り口から見た時と印象は変わらず、村はそれなりに小さな村の様だった。

 そして、穏やかな空気が流れている様な感覚がある。


「おや。お嬢ちゃん達は、冒険者の子だったか」

「サッ……!」

「はい。そうです」

「若いのに大変だねぇ。何か食べるかい?」

「いえ。馬車の中で食べてきたので大丈夫です!」

「そうかい。それは良かった」

「ところで、一つお聞きしたいのですが!」

「なんだい?」

「半年ほど前に山崩れが起こって、畑の一部が巻き込まれたと思うのですが、現在はどの様な状態なのでしょうか」

「お嬢ちゃん。小さいのに、良く知ってるねぇ。あの場所はまだ何も出来てないよ。危ないしね。領主様も人を送るからそれまでは近づくなって」

「なるほど。では案内していただいても良いですか?」

「えぇ!? 見ても面白い物は無いよ?」

「大丈夫です!」

「危ないし」

「遠くから見るだけなので!」

「それなら良いけれど」


 私は村のお婆さんに案内して貰って、がけ崩れがあったという広大な畑まで来た。

 畑のこちら側は柵で覆われており、中に入る事は出来ない様になっている。


「かなり酷い状態……これでは作物も取れませんね」

「まぁ、そうだね。でも、領主様が食料を届けてくれたからね。何とかなってるよ」

「でも、このままというのは不安ですよね」

「それは、そうだけど。これはどうにも出来ないからねぇ」

「なるほど!」


 私はお婆さんに少し離れた場所で待っていてもらい、エルフリアさんと共に人が居ない場所へと移動した。

 そして、エルフリアさんに話しかける。


「エルフリアさん」

「……う、うん」

「この畑を何とかしましょう!」

「何とかって、どうするの?」


 エルフリアさんは私の手をキュッと握ったまま不安そうに畑を見る。

 多くの土砂が畑の上に覆いかぶさり、野菜は巻き込まれて土の下だ。

 しかも土砂は山の方から続いており、畑にある分をどかしても、次が流れ込んでくる可能性もある。

 困ったものだ。


 しかし、エルフリアさんが居れば困難な工事も何とかする事が出来る。


「エルフリアさん。エルフリアさんの魔法で、あの土砂を移動する事は出来ますか?」

「う、うん。出来るけど」

「では、まず先にですね。山の方を何とかしましょうか」

「うん」


 エルフリアさんの隣で指をさしながら山の崩れた場所を細かく指定する。


「まずは、あの場所とあの場所、そしてあの場所。そう。あの木の隣です。そして最後にその木の下。はい。そこです。そこをロープで繋いで、大きな布を被せて下さい」

「う、うん」


 エルフリアさんは魔法で私が示した場所にロープを張りつつ、崩れた斜面を覆い隠す様に巨大な布を被せる。

 土砂崩れ対策に使う布だ。ちょっとやそっとの事では破れないし、外れない。

 特にエルフリアさんの魔法をつかっているのだから、余計に問題は無いだろう。


「で、できたよ。アリーナ」

「ありがとうございます。凄いですね。エルフリアさん」

「えへへ。すごい?」

「はい。とても凄いです」

「にへへ」


 喜ぶエルフリアさんに今度は土をどかしてもらう様に依頼をする。

 しかし、エルフリアさんはとても察しが良いので、私が願う以上の事をやってくれるのだった。


「では、これ以上崩れてくる心配も無いですし。畑の土を」

「あの布の向こう側に戻せばいい?」

「え? そんな凄い事が出来るんですか!?」

「出来るよー。えいやっ! って感じでね!」


 エルフリアさんは調子が出てきたのか、森に居る時の様な元気な様子で畑の上にあった土を、布の向こう側に転移してしまった。

 畑の土が消えた瞬間に、布の向こう側がわっと膨らんだから間違いない。

 そして、この瞬間に村人たちの歓声が響いた。


 しかし、私は彼らが畑の中に入る前に一つエルフリアさんに確認をする。


「エルフリアさん。あの布が破れる様な心配は無いでしょうか。無理に押し込んでませんか?」

「大丈夫だよ。えいやって、やったからこっちには来ないと思う」

「それは良かった。ですが、一応確認しに行きましょうか」

「うん。じゃあ、転移」


 エルフリアさんの転移魔法で山の斜面まで移動した私は、緩やかな山肌の上に被せられている丈夫な布を触る。

 その下には地面があるのだが、どうやらエルフリアさんの言う通り、結構しっかり固められているらしい。


「この後、この地面に木を植える事になるんですけど、土の中は大丈夫でしょうか」

「うん。周りと同じくらいの固さにしておいたから、多分簡単に掘り起こせると思う」

「それは素晴らしい。エルフリアさんは天才ですね」

「えへへ。そうかな」

「はい。間違いないです!」


 私はエルフリアさんが望むままに頭をなでなでして、ギュッと抱きしめた。

 それだけでエルフリアさんは満足そうであるが、まだエルフリアさんを喜ばせる事は残っている。


「では、エルフリアさん。下まで降りましょうか」

「え? う、うん」


 私はエルフリアさんの手を握ったまま斜面を下りて、下で待っていた村人さん達の前に立つ。


「あ、アンタたちはいったい……? 何をしたんだい?」

「私はアリーナ。アリーナ・エル・ミンスローと申します」

「アリーナって……! アリーナ様!?」

「なんと、妖精姫さまか! 確かに可愛らしい姿をしているなぁ!」

「それで、妖精姫様は何を……?」

「はい。畑に流れ落ちた土砂を山に戻し、土砂崩れ対策をしました。これで布やロープが維持される限り、土砂崩れは起きません」

「おぉー!?」

「凄い!」

「ただし、あくまで応急処置となりますので、ミンスロー家から人が来ましたら、植樹をして貰ってください。その木が成長すれば、恒久的な土砂崩れ対策になる筈です」

「なんと!」

「わしらの為にこんな事までして下さるとは!」


「そして!」


 私は一番重要な事を伝える為に声を大きくして、私の後ろにしがみついているエルフリアさんを前に押し出した。

 多くの人に見られて、ビックリしているエルフリアさんをそのままに私は言葉を続ける。


「今回皆さんの為に頑張ってくれたのが、こちらのエルフリアさんです。人見知りなので、大きな声は遠慮していただけますと幸いです」

「あぁ……わかりましたよ。姫様」

「っ!」

「エルフリアちゃん、っていったかい?」

「……! は、はひ」

「わしらの畑を助けてくれて、ありがとうね」


 お婆さんがそっとエルフリアさんの前でしゃがみながらお礼を言ってくれ。

 エルフリアさんはビックリした顔で私とお婆さんを見ながら戸惑った様な顔をしていた。


「エルフリアさん。お婆さんがエルフリアさんにありがとうって」

「……え、えと、あの……」


「お嬢ちゃん! ありがとうな!」

「これで畑仕事が出来るよ!」

「冬も何とか乗り越えられる!」

「助かったぞ! お嬢ちゃん!」


「あ、あぅ。その……あぅ、うぁぁあぁあ」

「あら、泣いちゃった」

「おい、デカい声で怒鳴るからだぞ!」

「わ、悪かったよ」


 私は泣き始めてしまったエルフリアさんを抱きしめて、今日のお礼をいっぱい伝えた。

 しかしエルフリアさんは私の服を強く握りしめたまま、いつまでも泣いているのだった。


「ありがとうございます。エルフリアさん」

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