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第21話『エルフリアさんと一緒に叶える夢だ。』

 ゆらゆらと心地よい揺れの中で揺られていた私は、安らいだ眠りの中から目を覚ました。

 まだエルフリアさんは眠っているようで、私に寄りかかりながら小さな寝息を立てている様だった。


「……ふぁ」

「あら、おはよう。アリーナちゃん」

「はひ、おはようございまふ……」

「まだまだ眠そうね」

「ふぁい……でも、おきます」


 私は目をパチパチとさせながら眠気を飛ばし、まだ霞んでいる視界をハッキリとさせて周囲を見渡す。

 どうやらまだ馬車は動いている様で、クロエさんのすぐ近くにある窓から流れてゆく景色が見えた。


「まだ目的の村には到着していないんですね」

「そうね。多分ちょうど半分くらいを過ぎた所かしら」

「ちょうどいい時に起きたかもしれません。寝ぼけた顔のまま村に行っては、村の方々に失礼ですからね。キリっとした顔をしなくては」


 私はキリっと自分の顔を引き締めて、両手で頬をムニュムニュとする。

 そして、まだ頭の中に残っていた眠気を吹き飛ばすと、大きく息を吐いてから息を吸って、自分を取り戻した。


「申し訳ございません。ようやく目を覚ましました」

「別に私たちは寝たままでも良かったんだけどね」

「私、たち?」

「そう。不本意だけどね。同行者が増えたのよ。組合長が要らない気を遣ってね」


 クロエさんが溜息と共に隣へ視線を向けるとそこには一人の男性が座っていた。

 どこかで見たことがあるなと考えるよりも前に、森で出会った方だと私は気づいた。


「あ、森でお会いした騎士様ですよね?」

「えぇ、覚えていていただけて嬉しいです! やはりイケメーーン!! というのは素晴らしい」

「えと」

「気にしないで、アリーナちゃん。かなり頭がおかしいだけだから」

「失礼な物言いはやめてもらおうか。クロエ。私はイケメンだ」

「別にそこは否定してないでしょ!?」


 クロエさんは激しく言葉を荒げて騎士様を怒鳴りづけた後、息を荒げていた。

 言葉と同じだけの激しい怒りを感じ、私は思わず身を引いてしまう。

 しかしそんな私の動きに気付いたのか、クロエさんはハッと私を見て、その勢いのまま口を開いた。


「ごめんなさい!! アリーナちゃんを怖がらせる気は無かったのよ!? 本当に! ただ、この……我慢できない感情があって!」

「だ、大丈夫ですよ。ちょっとビックリしてしまっただけなので」

「うっ、と言いながらも引いたまま……」


 私はビックリした気持ちを持ち直す事が出来ず、体を逃がしたままクロエさんに答えていたのだが、それがクロエさんにはショックだったみたいだ。

 いや、当然か、嫌っているみたいになっていたし。

 しかし、何とかしたいと思っても体は言う事を聞いてくれなかった。


 そんなこんなで気持ちと体の戦いをしていた私であったが、クロエさんはまた別の戦いに旅立っていた。


「そうプリンセスを威圧するな。クロエ」

「誰のせいだと思ってんのよ! ニール!」

「お前自身の責任だろう? 自分の感情くらいコントロールしたらどうだ?」

「普段はしてるのよ。というか偉そうに言ってるけど、あんただって別に感情のコントロール出来てないでしょ」

「ふっ、何を見て言っているのやら。私は完璧だ……」

「ブサイク」

「はっ―!!? ふ、ふざけるな! 俺のどこがブサイクだというんだ! ま、ままままさか! 戻ってしまったのかァ!? 前世の俺にィ!? やめろ! 神! こんな事俺は望んでいない! それ以上はいけない!」


 ニールさんは立ち上がり、両手で顔を押さえながら跪き、そのまま両手で馬車の床を叩きながら嘆いていた。

 そんな姿に追い込んでしまったクロエさんはすっきりとした顔をしており、争いの悲しさを私は見てしまうのだった。

 しかし、そんな風に馬車の中で騒いでいたからか、私に寄りかかって寝ていたエルフリアさんが、もぞもぞと動き始めてしまった。

 どうやら眠りから覚めそうになっている様だ。


「ん、にゅ……?」

「あ、エルフリアさん。おはようございます」

「ん-、おはよー、ありーなー」

「はい」

「んあー、なんかゴトゴトしてるね」

「まだ馬車が動いてますからね。村まではまだ時間が掛かるみたいです」

「そーなんだ」

「だから、まだ寝てても大丈夫ですよ」

「んー、んー」


 エルフリアさんは左右に揺れながら、歌を歌う様に音を奏でる。

 楽しそうに揺れながら起きるか寝るか考えていたであろうエルフリアさんは、私に深く寄りかかって、半分寝ている様なふわふわとした声で甘えてくれた。


「じゃー、おきよーかなー」

「あら、それは良いですねぇー」


 私は寄りかかって来たエルフリアさんを後ろから抱きかかえて、座席の上に横になる。

 少々行儀が悪いなと思って、クロエさん達の方を見たのだが……そこには壁があった。


「……!」

「ふふふーん。これから、どこに~、いくのかぁーなー」

「そ、そうですねー。気になりますねぇ」


 私は馬車の中に突如として生まれた壁に一瞬動揺したが、何とか言葉に表すことなくエルフリアさんに笑いかけた。

 壁? なぜ壁? と思っていた私であったが、そういえばクロエさんに初めて会った時も、クロエさんは壁になっていたなと思い出し、何とか自分を落ち着かせてゆく。

 大きく息を吸って、大きく息を吐いた。


「……あの、クロエさん?」

『……!』


 壁は私の声に反応したのか僅かに震えた。

 それはまるでこっちの事は気にするなと言っている様で、私はそんなクロエさんの気持ちを受け取って、あえて心は読まずにクロエさんへ向けていた意識を外す事にした。

 そして、エルフリアさんへと意識を向ける。


「エルフリアさん」

「んーんー? どうしたのー? アリーナ」

「村に着いたら色々とお願いしたい事があるんですが、よろしいでしょうか」

「うん。いいよ。だって、アリーナと約束したもんねー」

「ありがとうございます。エルフリアさん」

「いいんだよー。だって、世界が平和になったら、アリーナは悲しい事にならないもんね」


 エルフリアさんは、よっこいしょ、と呟きながら私の上で体を回転させて私の正面から抱き着いている様な形になった。

 そして、ググっと体を前に倒して、私の上に完全に乗ると、そのまま体を倒して小さく息を吐いた。


「私はね。アリーナとずっと一緒に居たいから。私の力でアリーナが助かるのなら、どれだけだって頑張れるんだ」

「エルフリアさん……。エルフリアさんはとても素敵な人ですね」

「そうかな? えへへ」

「はい。きっと村の人たちもエルフリアさんの事が大好きになると思いますよ」

「そうなんだ……でも、ちょっと怖いな」

「そうですね。知らない人とお話するのは怖いですからね」

「……うん」

「でも、村にいる人たちは、エルフリアさんを傷つけようとは思ってないですから、少しだけ話してみても良いかもしれないですよ?」

「……アリーナは、そばに、いてくれる?」

「勿論。私はいつでもどこでもエルフリアさんと一緒に居ますよ。村で人と話す時にも、エルフリアさんが寂しい時にも、悲しい時にも、嬉しい時にも、楽しい時にも」

「うん。……嬉しい」

「私も、エルフリアさんの世界が広がってゆくのは嬉しいです。どこまでも、どこまでも一緒に飛んでゆきましょう」

「とぶ?」

「はい。大空の彼方へ。可能性と自由な世界が広がる場所へ、行きましょう。いつか」

「……うん」


 私はエルフリアさんといつか大空の向こう側へ飛ぶ夢を見て目を閉じた。

 エルフリアさんも私に覆いかぶさったまま、小さく息を吐いて頷いてくれる。


 ひとつ夢が出来た。

 いつか叶えたい夢だ。

 エルフリアさんと一緒に叶える夢だ。



「な、なんだ!? この壁は! いつの間にか壁が現れている!?」

『……!』

「そうか! お前、クロエか! しかし、何故、壁に」

『……』

「泣いているのか、クロエ……! お前」

『……っ!』

「揺れている? お前、まさか! やめろ! 倒れるな! あぶなっ! やめろ! 馬車から落ちる! 落ち着け! クロエ!!」

『!!』

「落ち着け! クロエ! クロエー!!」

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