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第20話『クリスタは激怒した。』(クリスタ視点)

(クリスタ視点)


 話が違う!


「あぁ、貴女様が今代の聖女様なのですね」

「ありがたい……」

「お会いできて光栄です」


「私こそ、こうしてお会いできて嬉しいです」


 多くの信者に囲まれ、笑顔を向ける私であったが、内心は酷いモノだった。

 わざわざ長い時間をかけてパウダ王国の王都まで来たというのに!


 エルフリアちゃんとアリーナちゃんがおらんやないか!!

 居るのはオッサン! オバサン! 兄ちゃん!

 可愛い女の子はどこだ!!

 詐欺だろこんなの!


 ハァー、女神様に騙されたわ。

 やってられませんわ。


『どうやら二人は王子へと言葉を残してすぐに転移で去った様ですね』

(ホンマでっか―、そうデッカー)

『しっかりしなさい。クリスタ・メル・ピューリス』

(ハァー)


 女神さまがギャアギャアと頭の中で騒いでいるが、本当に知ったこっちゃない。

 この世界の馬車って腰もお尻も痛くなるのよ。

 長旅はしんどいの。


 しかも国を移動するっていうんで、身分証を出さなきゃいけなかったり。

 そもそも身分証を見せる為に長蛇の列に並ばなきゃいけなかったり。

 本当に沢山の面倒を終わらせて、それで! 遂にアリーナちゃんとエルフリアちゃんに会える!

 と、そう思っていたのに。


 二人は王都に居ませんときたもんだ。

 私は詐欺被害にあった様な気分だよ。


『落ち込んでいる場合では無いですよ。クリスタ・メル・ピューリス。どうやら二人に転生者が接触した様です』

(さようでございますか)

『何をしているのですか。クリスタ・メル・ピューリス。あれほど張り切っていたではないですか』

(まぁ、会えると思ってましたからね。それがこんな事になろうとは、完全に想定外ですよ)

『あの子達の動きは神である私にも読めないですからね。仕方ありません』

(さようでございますか)


 なら情報に信頼度ゼロやんけ。

 女神とは口ばかりの当たらない天気予報。

 何の役にも立ちはしない。

 ただ人々を喜ばせたり、不安にさせたりするだけだ。


 いや、まぁそれが神だと言われればそうなのかもしれないが。

 それにしても酷い話だ。

 私はただ可愛い女の子が自分の物になるからと頑張っていただけなのに。

 純粋な想いだったのに!

 

 それが踏みにじられてしまった。

 なんという悲劇だろう。

 なんという絶望だろう。


 私はもう二度と立ち上がれない程に……。


『おや、どうやらアリーナさんは結婚に興味を持った様ですね』

「なんですって!?」

「っ!?」

「せ、聖女様、どうかなさったのですか?」


「少々お静かに。今、女神様より神託が降りました」

「女神様からのご神託が!」

「皆、静かにしろ!」

「聖女様が、今ご神託が!」


 広がっていく言葉を流しながら、私はジッと頭の中で聞こえる声に集中した。

 今、女神さまから酷く重要な言葉を聞いた気がする。

 これを流したら大変な事になるだろう。

 そういう予感があった。


(女神様。先ほど、なんと仰ってました? もう一度聞かせてください)

『……クリスタ・メル・ピューリス。貴女という人は』

(お説教は良いので! そういうのは後でちゃんと聞きますから! 聞かせてください! アリーナちゃんが何ですって!?)

『アリーナさんが……結婚に興味を持った様ですよ』

(なんだってぇぇえええ!? アリーナちゃんったら! 私の事をもうそんな風に!?)

『貴女が相手ではありません』

(何故!?)

『当たり前でしょう。貴女の事をアリーナさんは知らないのですから』

(なんて、ことだ!!)


 クリスタは激怒した。

 出会いイベントをこなしてないのに、知ってる訳がないだろという女神様の正論に激怒した。

 そもそも、その出会いイベントは女神様によって潰されたというのに!


(では早急に出会いイベントを行わなくては。ちなみに、その結婚はエルフリアちゃんとですか? そうですよね?)

『いえ。この国の第一王子レスター・リ・パウダと対話した際に結婚という物を意識した様です』

(おいおいおいおい!! 聞いてない聞いてない! それは聞いてない!!)

『まぁ、今はじめて言いましたから』

(ヤルしかない! 王子の命を、ここで刈り取るしかない! アリーナちゃんは私が守るんだい!)

『お待ちなさい! クリスタ・メル・ピューリス! 彼は確かに転生者ですが、今のところ世界に対して害意を示してはいません! 彼の命を奪えば、世界にどれほどの混乱が……! って、聞きなさい! クリスタ! クリスタ・メル・ピューリス!』


「レスター・リ・パウダ!」

「レスター?」

「まさか王子殿下の事では?」

「王子殿下に何か危機が迫っているのか!?」

「誰かー! 聖女様をレスター王子の場所まで案内しろ!」

「助かります」


 私は民衆の力を借りて、憎き王子! レスター・リ・パウダ! を暗殺するべく走り出した。

 確実に仕留める為に、袖の下に隠していたナイフを指でなぞり、感触を確かめる。


 大抵の人間は、心臓をナイフで刺されれば命を落とす。

 例え、王子と言えどそれは例外ではない。


(確実にここで仕留める!! 我が愛しのアリーナちゃんに手を出した罪! その命で贖うがいい!)

『クリスタ・メル・ピューリス! 聞きなさい! クリスタ・メル・ピューリス!!』

(どこだ、どこだ、どこだ)

『駄目ですね。もはや声も届きません。しかし、こうなった以上は仕方ありません。世界の流れに身を委ねましょう』


 ようやく諦めたらしい女神様の声が消え、頭の中が静かになり、私は人々に案内されるまま王城へ辿り着いた。

 城を守っていた騎士たちは、私が聖女であると知ると、すぐに城の中へ案内してくれた。

 便利! 聖女っていう立場便利~!


 私は騎士の後ろについて走りながら、キュッとナイフを強く握りしめる。

 そしてサクッとレスター王子とやらを刺して、光の魔法で騎士の目を眩ませてから逃げようと心に決め、騎士に案内された部屋に飛び込んでナイフを、でやっ! と突き出した。


 瞬間、何か激しい衝撃が横から走り、私はナイフを床に落としてしまう。

 気付かれていた!?


「っ!? バカな! 我らの存在を!」

「何奴!?」


 そして、聞こえてきた声に私は視線を向けると、何もない空間から二人の男が現れた。

 どうやら私のナイフを弾いたらしい、大きなナイフを持っていた。

 いや、ナイフじゃないのか。小さな刀の様な物を持っている様に見える。


「殿下! お怪我はありませんか!?」

「あ、あぁ……どうやら彼女が助けてくれたらしい」


 私はジッと二人組の男たちを見ながら、背後から聞こえてくる騎士と若い男の声に何となく状況を察した。

 私の背後に居るのはレスター王子!

 そして、私の前に居たのはレスター王子の命を狙っていると思われる刺客!


 私は意図せずレスター王子の命を狙う刺客から、彼を守ってしまったらしい!

 なんでや!!


「ちっ! こうなっては仕方ない! 退くぞ!」

「おうさ!」

「我らが仕損じるとは……! やはり切腹かな」

「せやな」


「ま、待て!」


 騎士は私の後ろから前に飛び出して、ベランダから外へ飛び出してゆく二人を追うが、二人はそのまま消えてしまったらしい。

 それから。

 ベランダで左右を見まわしていた騎士は、部屋から飛び出すと賊を追う為に走って行った。

 私は彼らが立っていた場所の床を触り、透明なマントを拾うとそれを見る。

 こんな魔法の中の魔法みたいなアイテムあったんだなぁーとシミジミ頷くのだった。


「……まさか、本当に刺客が来るとはな。しかし、助かった。君は」

「私は今代の聖女に選ばれたクリスタと申します」

「そうか、聖女か」

「えぇ」


 私はそれとなく透明なマントを回収しながら王子に振り返り、彼と視線を交わす。

 彼は私をジッと見つめながら、何かを考えている様だったが、その思考は読めない。


『悩む必要は無いでしょう。貴女は彼を救ったのですから』

(そのつもりは無かったんですけどね)

『それでも、この状況は非常に素晴らしい。転生者である彼も、この状況では貴女を信用しますし、そうすればこの国で活動しやすくなります』

(それはそうなんだろうけど、女神様も随分と腹黒いなぁ)

『何か?』

(いえ! 何もありませんよ!)

『そうですか。ですが、今が良い機会です。上手く立ち回るのですよ。クリスタ』

(へいへい)


 私は女神様のお小言を流しつつ、小さく息を吐いて王子に向かって言葉を向けた。

 部屋の中には騎士達も入って来たため、余計な事も言えないが、言わなければいけない事があるからだ。


「レスター王子。お怪我もなく何よりでした」

「あぁ……」

「実は私がここに来たのは女神様のお告げがあったからなのです」

「……! 女神様の」

「はい。そして、女神様はこの様にも仰ってました。アリーナとエルフリアという名の少女を守る様にと」

「っ!? 何!? 彼女たちに何か危機が!?」

「分かりません。ですが、私は彼女たちを護るためにこの国へ来ました。彼女たちはどこへ?」


 レスター王子は私の言葉に少し考えた後、分かったと頷き、私を別室に案内してくれるのだった。

 さて、ここからが正念場だ。


 アリーナちゃん!

 エルフリアちゃん!

 私が今から行くからね!!

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