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第19話『アリーナ様の冒険者登録を承認しましょう!』

 わいわいと大騒ぎの冒険者組合であったが、時間と共に騒ぎも落ち着き、私は冒険者組合で一番偉い方。

 冒険者組合長という方とお話する事になった。


「事情は聞かせていただきました。アリーナ様。何でも冒険者になりたいとか」

「はい!」

「なるほど。いや、しかし……まだアリーナ様もお若いですし」

「11歳で冒険者になる子も居ると聞きました」

「それは確かに居ますが、そういう者は親のない孤児などでして」

「状況は確かに人それぞれでしょう。しかし、大事な事は11歳で冒険者になる子も居るという点だと私は思います」

「ふむ」


 組合長さんは私の訴えにアゴヒゲを触りながら唸った。

 両手を組んで、唸りながら私を見つめる。


「うーむ」

「……」

「ドキドキ」


 私の隣に座っているエルフリアさんが、私の気持ちを代わりに呟いてくれた。

 そう。私は確かに今、ドキドキと緊張していた。


 そして――


「分かりました! アリーナ様の冒険者登録を承認しましょう!」

「本当ですか!?」

「えぇ」

「本当によろしいのですか!? 組合長。アリーナ様に何か危険があれば!」

「無論わかっている。しかし、ここでアリーナ様を拒絶しても、アリーナ様の想いは変わらないだろう。むしろより無茶な方向へ進む可能性もある。ならば冒険者組合でアリーナ様を保護する方がより安全という物だ」

「なるほど……組合長の深いお考え、理解しました」

「うむ。そういうワケですからアリーナ様。どうか我らの想いを受け取っていただきたい。冒険者として活動する事は受け入れましょう。しかし、危険な事は避ける事。良いですね?」

「はい! 分かりました!」


 私は元気よく右手を上げ、組合長さんの言葉に応える。

 そして、組合長さんは私の返事にうんうんと頷いてから私の隣に座って、私の手をいじって遊んでいるエルフリアさんに視線を向けた。

 エルフリアさんは組合長さんの部屋に入ってからずっと私の指を無理のない程度に動かして遊んでいる。


 人差し指と中指をくっつけたり、離したり、親指をくっつけたり。

 実に楽しそうだ。


「して、アリーナ様。そちらの方は」

「お友達のエルフリアさんです」

「っ!」


 不意に名前を呼ばれた事でエルフリアさんはバッと顔を上げて、周囲の人が自分を見ている事に気づき、私に抱きつきながら視線から逃げた。


「危険はありませんか?」

「はい。とても可愛らしいお友達ですよ」

「……なるほど。であればよろしいかと」


 私はエルフリアさんの背中を撫でながら、組合長さんと話を続ける。

 ひとまず冒険者になる事は出来たけど、まだまだお願いしたい事はあるのだ。


「それで、組合長さん」

「はい」

「実は、私のほかにエルフリアさんも冒険者になろうとしていまして」

「そちらのお嬢さんですか?」

「はい。そうなんです」

「であれば特に問題はありませんよ。私どもとしては何もいう事はありません」

「っ! ありがとうございます!」

「いえいえ」


「後ですね」

「次はなんでございましょう」

「早速ですが、依頼を受けたくてですね」

「でしたら、既に用意がございます」

「おぉー! 本当ですか!?」

「えぇ。アリーナ様にピッタリの依頼を用意してあります。クロエ!」


 組合長さんは外が声をかけると、クロエさんが一枚の依頼書を持って部屋に入ってきた。

 そして私にその依頼書を渡してくれる。


「ふみゅ。薬草採取の依頼ですか。場所はここからかなり遠いですね」

「えぇ。離れてはいますが、ミンスロー家の領地の中ですし。良いところですよ。山菜が大変美味ですので、アリーナ様も是非」

「はい」


 私は依頼書に書かれた村の場所を見て、記憶していた領地の場所と照らし合わせる。

 確か、少し前に山崩れが起こって、畑の半分が埋まってしまったと報告書に書いてあった。

 丁度いい。

 山崩れの対策や、畑の修復など色々と出来る事がありそうだ。


「とても素敵な依頼ですね!」

「おぉ、気に入っていただけましたか!」

「はい。とても」

「それは良かった! では道中何かあればクロエにお願いします。少々頭のおかしい女ですが、これでも冒険者としては一流ですから」

「ちょっと組合長? 随分言いたい放題言ってくれるじゃない」

「やかましい。私は事実を言っているだけだ。違うというのなら、正常な所を少しくらい見せてみろ」

「いつも見せてるんですけどね!?」

「うむ。という訳ですので、コレが何かアリーナ様にご迷惑をかけましたら、是非組合へ。全力を以て、害獣を処理いたします」



 それから私はにこやかに笑う組合長さんに別れを告げ、最初の依頼をこなすべく、薬草採取の依頼に向かった。

 馬車で目的の村まで向かう。

 最近は凄い勢いで馬車が走り出してしまう事も多いが、今日は人が集まるまでここで待つみたいだ。


「今日はぐわーっていかないんだね」

「えぇ。今日はのんびりさんみたいですね」

「ん? どういう事? アリーナちゃん。エルフリアちゃん」

「っ!」

「わわ、えと、前にエルフリアさんと乗った時は、私たちだけが乗った状態で、ババ―ッと走り出してしまったんです。かなり動きも早くて二人でビックリしちゃったんですが、今日はのんびり出るみたいなので、良いですねーと」

「あぁ。なるほど」


 クロエさんは頷きながら、私たちの座ろうとしている席に反対側の座った。

 私も奥側に座っているエルフリアさんの邪魔にならない様に適度に距離を取りながら座る。


「ぎゅ」

「狭くないですか? エルフリアさん」

「だいじょうぶ」

「それは良かった。気分が悪くなったら言ってくださいね」

「うん」


 もはや定位置になりつつある、私の腕に抱き着くエルフリアさんに笑いかけ、私は正面に座るクロエさんの方へ向き直り、再び口を開いた。


「やっぱり馬車は皆さんが乗ってから走るのが普通なんですよね?」

「えぇ。まぁそうね。よっぽど乗る人が居なかったら適当な所で走り出したりもするけど、苦本的にはやっぱり人が多く乗ってからね」

「やはり……それは申し訳ない事をしました」

「気にしなくてもいいわよ。その人たちはその人たちで満足してるだろうし、何だかんだ次の商売にも繋がるからね」

「そうなのですか?」

「えぇ。ミンスロー領ではたまに起きる爆発的人気の商売だわ」


 どこか遠くを見る様な目で語るクロエさんに、これ以上続きを聞く事は出来ず、私は言葉を飲み込んで、小さく息を吐いた。

 そして、隣に座っているエルフリアさんが眠いのか私に寄り掛かりながら目を擦っている事に気づいて、エルフリアさんに声をかける。


「エルフリアさん。眠いなら寝てしまって大丈夫ですよ。村まではまだまだ時間がかかりますから」

「う、ん……」

「それを言うなら、アリーナちゃんも寝ちゃいなさい。昨日の夜からドタバタしてて疲れたでしょう?」

「でも、それはクロエさんも同じなのでは……」

「私は慣れてるから大丈夫よ。何かあったら起こすから」

「……はい。では、少しだけ眠らせていただきますね」


 私はクロエさんに甘え、そのまま少しだけエルフリアさんに寄り掛かって目を閉じた。

 自分でも驚くくらいにスッと眠りの世界に旅立った私は、夢の中でエルフリアさんと森で楽しくお話をしつつ。

 エルフリアさんが魔法で世界を救うのを見て、両手を叩いたりしていた。


 そんな幸せな夢の中、私はどこか遠い場所で何やら争う様な音が響いている事に気づき、目を開く。


「やっぱり! 森に居たのはアンタだったのね!? ニール!」

「いかにも! 俺はイケメーーン! 騎士だが?」

「誰も聞いてないわ」

「ふむ。しかしな。プリンセスがここに居る以上、騎士たる私が居なければ話が始まらないだろう!」

「ダルイわね。自称イケメン……」

「自称ではなーーい! 見ろ! この俺の姿を! 前世の姿とは違い! イケメンになっているだろう!」

「私はアンタの前世知らないんですけど」

「そうか、それは幸運だったな。見ていたら酷い吐き気に襲われていた事だろう」

「自分の容姿をそこまで言う?」

「あぁ! あぁ!!」

「ちょっと、泣かないでよ」

「良いのだ! 生まれ変わってイケメンになったから。全部良いのだ!」

「そ、そう……?」


「……?」


「おや、どうやらプリンセスがお目覚めの様だ」

「うるさくしちゃってごめんなさいね! アリーナちゃん。まだ寝てて大丈夫よ」

「あ……はい」


 私はクロエさんの言葉にまた意識を夢の中へ送ってゆく。

 さっきと同じ夢が見たいなぁと思いながら……ゆっくりと暗い世界へ降りて行った。


 そういえば、さっきの声は誰の声だろうと思いながら。

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