第13話『ここからがお勉強の時間です』
王都で知り合った子供達を連れて、ミンスロー家に戻ってきた私は、ひとまず子供達に食事を! と考えてメイドさんに子供たちのご飯をお願いする。
そして、中庭で食事して貰っている間、お父様に子供達について相談しに行くのだった。
「おや。アリーナ。王都へ行ったと聞いていたが」
「はい。王都へは行ってきたのですが……王都で行き場のない子供達と出会いまして」
「なるほど。ではまた孤児院を用意する必要があるな。すぐに手配しよう」
「ありがとうございますっ!! お父様!」
「あぁ。任せてくれ。私はクールで有能なお父様だからね」
私はお父様にお礼を言ってから、また子供達の所へと向かい、これからの事を話した。
これから孤児院に向かうための馬車が来るため、それに乗ってみんなで孤児院へ向かう。
そして、孤児院には管理人をしてくれる人が居る為、その人のいう事をちゃんと聞くこと。
「そして、出来ればお勉強をして欲しいと考えています」
「おべんきょー?」
「でも、俺らお貴族様じゃないぜ?」
「いいの? おべんきょう、しても。学校は貴族しか行けないでしょ?」
「確かに、現存する学校は貴族しか入学する事が難しいですが、それでも学びたいという気持ちは何よりも大事だと思っています」
「はいはーい! お姫様! 勉強したくない奴はどうすれば良いんだー?」
「そうそう。俺らはベンキョーとかより、冒険者とかやりたいんだけど!」
「勿論、将来を考えて勉強以外の手段を取るのも良いと思います、ですが……」
「「ですがー?」」
私の言葉に元気そうな男の子二人が首を傾げる。
そんな彼らの素直な仕草にクスっと笑みを零しながら私は人差し指を立てた。
「悪い人たちに騙されない為にも、お勉強は大事だと思います」
「悪い人って」
「騙すって、どういう事?」
「そういう話をお勉強で学びましょう。という話なのですが……良いでしょう。ここで一つたとえ話をします」
私はメイドさんがいつの間にか持ってきてくれていた袋からいくつかの硬貨を取り出しながら、子供達を周りに集めて初めてのお勉強を行う。
「では、お二人。お名前は」
「アーチ―」
「ザック」
「ではアーチ―さん。ザックさん。冒険者を始めたお二人に二つの依頼がやってきました。お二人はとても優秀なので、とても人気があったという事ですね」
「へへっ」
「まーねー」
「依頼の内容はどちらも同じ、護衛の依頼です。しかし報酬が違います」
私は中庭にメイドさんから受け取った大き目のお皿を二つ置き、それぞれに二種類の硬貨を置く。
「一つは金貨が1枚」
「これが、金貨……」
「そして、もう一つは銅貨が百枚です」
「うぉ、すごい量!」
「お二人はどちらを選びますか?」
右手のお皿には金貨が一枚。
左手のお皿には銅貨が百枚。
アーチ―とザックは二つのお皿を見比べながら腕を組んで考える。
「お二人以外も、考えてみてください。どちらの方がより高価で価値のある報酬でしょうか」
「えー? きんかだよー。だってキラキラして綺麗だもん」
「違うよ。お金はいっぱいある方が、カチがあるんだよ」
「じゃあ、銅貨の方がいっぱいあるし、高いってこと?」
「でも俺、貴族が金貨で買い物してるの見た事あるぞ!」
「じゃあ貴族のお金だから、コウカ。って事なんじゃないか?」
熱心に二つのお皿を見比べながら、うーんうーんと考える子供達。
そして、私の後ろからも悩んでいる様な声が聞こえた。
エルフリアさんだ。
「うーん、うーん? うーん。わかった! 銅貨だ! いっぱいあるし!」
「では、エルフリアさんは銅貨の方が価値がある。という答えで良いですか?」
「え!? えっ、えー、えぅー、や、やっぱり金貨?」
「金貨にしておきますか?」
「うーん! うーん! わかんない!! でも、金貨の方が綺麗だから、金貨!」
「ふふ。分かりました」
そして、エルフリアさんと話をしている間にも子供たちの中で、答えは出たらしく、それぞれ金貨を選ぶ子と銅貨を選ぶ子で別れた。
そろそろかなと私は解説を始める事にする。
「では、そろそろ答え合わせにいきましょうか。まず、答えとしては……金貨の方が価値があります!」
「おー!」
「やったー!」
「やっぱり綺麗だから!」
「あたったー、やったー」
金貨を選んでいた子達や、後ろから小さな声で喜ぶエルフリアさんの声を聞きながら、私は一つずつその説明をしてゆく。
「では、答え合わせも終わりましたし。ここからがお勉強の時間です」
「「はーい」」
「まず、金貨の方が価値が高いのは、金貨が綺麗だから、ではありません」
「えー!?」
「ちがうのー!?」
「はい。まぁ、もしかしたら、決める際にそういう基準があったかもしれませんが、少なくともこの国で、金貨の価値を決めている物は綺麗さではなく、国がそう定めているから。です」
「え。なんで?」
「公平な取引をする為ですね。例えば、アーチ―さんが金貨を一枚持っていたとします。アーチ―さんはこの金貨が銅貨100枚分の価値があると考えていました。しかし、ザックさんは金貨の価値は銅貨10枚分しかないと考えていました。そんな二人がお金のやり取りをしたら、喧嘩になってしまいますよね?」
「うん」
「なのでこの貨幣を配っている国が、金貨1枚は銀貨100枚分の価値がある。銀貨1枚は銅貨100枚分の価値があるよ。と決めて、みんなに伝えたのです。こうすればトラブルは起きないでしょう?」
「あー」
「くに、すごい」
「あ! そっか! だから金貨の方が価値があるんだ!」
「どういうこと?」
「今、お姫様が言ってただろ? 金貨が1枚で銀貨が100枚。銀貨が1枚で銅貨が100枚って」
「うん」
「だから?」
「だから、ここにある銅貨100枚は銀貨1枚分の価値しか無いんだよ。でも、銀貨は100枚集まらないと金貨1枚分の価値にならないから、金貨の方が高いってワケ」
「えー?」
「わかんないー」
「だーかーら!」
「まぁまぁ、この分からない。や、なんで。を分かった。に変えるのがお勉強ですから。一個ずつ。一つずつ分からない事を分かったに変えていきましょうね」
「「はーい」」
子供たちはとても元気に手を挙げて、笑う。
私もそんな皆さんに笑顔を返しながら、喜んでもらえて良かったと胸を撫でおろした。
「さて、では馬車が来るまでお庭で遊んで待っていてください。その間に何か質問があれば聞きますよ」
私の言葉を合図として、みんな物珍しいのか庭のあちらこちらに散っていった。
メイドさんや騎士さんは彼らを追いかけながら危険が無いかどうかを見てくれている。
そして、残された私はまた家の中に戻ろうとしたのだが、不意に服が引っ張られた。
「……おひめさま」
「あら、ミナさん。どうしました?」
「ミナね。あのね、おケガをなおしたい子がいるの」
「お怪我?」
「うん。おべんきょうしたら、なおせるかな?」
ミナさんは大事そうに抱えていたお人形を私に見せながら寂し気に首を傾げる。
そんなミナさんを見て、私はお姉ちゃん心がくすぐられてしまい、一つの提案をした。
「ミナさん。ミナさんの大事なお友達。私がお怪我を治しても良いですか?」
「っ! いいの?」
「えぇ」
「じゃ、あ……おねがい」
私はミナさんからお人形を受け取り、メイドさんに裁縫道具を持ってきてもらって補修を始めた。
本当は部屋に戻ってから作業する方が良いんだけど、あんまり動かすと首や手が取れてしまいそうで怖いので、その場で座りながら慎重に縫ってゆく。
遠い昔、お母様にお友達を治してもらった事を思い出すかの様だ。
「魔法の魔法のお医者さん~♪ 魔法の糸でなんでも治してあげましょう~♪」
「わぁ……」
お母様の様に上手では無いけれど、昔聞いた魔法のお医者さんのお歌と共に綺麗にお人形を整えてゆく。
破れてしまっている場所も、糸が古くなっていた事が原因だったので、お人形はすぐに綺麗な状態になるのだった。
「はい。どうぞ」
「わぁ、わぁ……すごい」
「ふふ。お勉強をしたら、ミナさんも自分でお友達が治せる様になりますよ」
「ほんと!?」
「えぇ。私もお勉強して治せる様になりましたから」
「うん! ミナ! おべんきょう、がんばる!」
「はい。頑張ってください」
私はミナさんに微笑みかけながらお兄ちゃんにも見せてくると走り去るミナさんを見送った。
そして、すぐに後ろから強く肩を揺らされる。
「ねぇねぇ! アリーナ! アリーナ!」
「はい~。なんでしょう~?」
「エルダーくんも治せる!? エルダーくんも怪我してるの!」
「はい。大丈夫ですよ。次にエルフリアさんの家に行くときは裁縫道具も持っていきましょうね」
「やったー! アリーナ! ありがとう!」
満面の笑みで抱き着いてきたエルフリアさんを抱き返し、私は中庭でエルフリアさんに押し倒され、空を仰ぎ見るのだった。
あぁ、空が青い。
あれ? 何かを忘れている様な?