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第10話『聖女クリスタ様の誕生である!』(クリスタ視点)

(クリスタ視点)


 清浄な空気の満ちる、全てが白く染め上げられた建物の中、私は両手を握り合わせながら神なる像に祈りを捧げていた。

 そして、やや上から降りてくる言葉に顔を上げる。


「クリスタ・メル・ピューリス」

「……はい」

「貴女を今代の聖女に任命します」

「はい!」

「清く正しい心を忘れぬよう」

「はい。承知いたしました」


 私は静かに頭を下げて、淑やかな顔を維持したまま祈りの間から外へと歩き始めた。

 ニヤケそうになる顔を何とか引き締めて、多くの羨望を集めながら歩く。


「……」


 私を見つめる多くの清廉な少女たちの瞳は部屋を出てからも消えず、すれ違う美しき少女達は私を見ながら嬉しそうに微笑むのだった。

 そして、私もまたそんな少女たちに微笑みを返し、初心な少女たちが頬を朱色に染めながら恥ずかしそうにしているのを見て、心を満たす。


 嗚呼。


 ついに!

 遂に遂に遂に遂に!!

 遂に私の時代がやってきたぁぁあああ!!!


 うるさいオバサン達の指導に耐え、汚いオッサンの視線に耐え!

 意味わかんないくらい辛い修行にも耐え!

 耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えてきたのだ!


 そして、そんな私の辛抱が、今日花を咲かせた!


 聖女クリスタ様の誕生である!


 ふふふ。

 ふははは。

 ハーッハッハッハハ!


 もはやァ! この世界でェ! 私に逆らえる者は居なぁーい!

 私が神になったのだ!!


『驕ってはいけませんよ。クリスタ・メル・ピューリス。貴女は確かに聖女となりましたが、それは世界の秩序を守る為に……!』

(ハイハイ。ワカッテマスヨー)

『本当に分かっているのですか? この世界に眠る多くの悪が、世界を汚そうとしているというのに!』


 頭の中でギャアギャアと騒ぐ女神様(仮)の言葉を流しながら、私は小さくため息を吐いた。

 ようやくうるさいのが居なくなったかと思えば、一番うるさい奴が頭の中に残っていたのだ。

 憂鬱にもなる。


 そもそもの話として、ケガレの代表選手みたいな私が聖女になってる時点で、世界のケガレー。なんて何の説得力も無いワケよ。


 そう!

 何を隠そう、この私! クリスタ・メル・ピューリスは転生者なのだ!

 過去の世界では主に愛の伝道師をやっていたワケなんだが、腹に刃物を受けてしまってな。

 目が覚めた時、この世界に転生していたという訳だ。


 この世界は前の世界に負けず劣らず可愛い女の子がいっぱい居るし?

 こりゃ今世も楽しめそうだ。って思っていたら、変な自称女神に憑りつかれるわ。

 聖女のお役目を! なんて言いながら鞭で叩いてくるオバサンが居るわ。

 まさに踏んだり蹴ったりという様な状況であった。


 最悪も最悪である。

 しかーし!

 この世界において聖女という存在がとても重要で、神聖で、崇められていると知ったからには話が変わる。

 私はこの地位を利用して、可愛い子ちゃんハーレムを作るのだ。


 私の! 私による! 私の為のハーレム!


 作って見せようじゃないか。


(あー。そういえば)

『何ですか? クリスタ・メル・ピューリス』

(この世界って同性愛が異端だったりする?)

『いえ。その様な事はありませんよ。同性間でも子を成す事は出来ますし。初代聖女もまた、妹の様に可愛がっていた子と結ばれておりましたからね』

(……そっか。それは良い事を聞いた)

『クリスタ・メル・ピューリス。言っておきますが、同性で結ばれる事が許されているとは言っても、複数の子と結ばれるというのは許されていませんよ』

(ハイハイ)

『聞いているのですか!? クリスタ・メル・ピューリス!』

(ハハイのハイ)

『クリスタ・メル・ピューリス!!』


 女神様のお言葉を左から右に受け流しながら、私は笑みを零した。

 死ぬことで、どうやら私は理想の世界に来る事が出来た様だ。

 愛した人が同性であっても、差別されない。

 そんな理想の……世界に。


 私の可愛い子ちゃんハーレムを作る事が出来る! この世界に!


『また邪な事を考えていますね』

(ピンポーン。正解!)

『正解! ではありません。まったく……貴女という人は』

(しょうがないでしょ? これが私なんだから)


 私は自室に入って、扉を閉めてからクスリと笑う。


(それにさ。別に何もしないとは言ってないじゃん?)

『……』

(この世界を守りたいっていう女神様の願いは叶えるよ? ただ私自身の願いも叶える。ただそれだけの話じゃん? まぁ完璧な世界にはならないかもしれないけど。世界の全てを綺麗にしよう。なんて考えたら、人類が絶滅しちゃうよ)

『……わかりました。これもまた運命なのかもしれません』


 女神様は重苦しい決断をするかの様な声で応える。

 そんなに重い話でも無いと思うんだけどなぁ。

 ほら? 私ってば、愛した子は全員幸せにする主義だから。


 いや、まぁ前世じゃあ刺されちゃったけどさ。

 学びも確かにあった訳よ。

 私が一人しかいない以上、どうしても差が出来ちゃうってね。


 しかーし。

 苦難に耐え続ける日々の中で、私は一つの最高な結論を導き出したのだ。

 私のハーレム内で、それぞれに愛し合う子を作れば良いじゃないか。

 という結論だ。


 これなら、私が相手出来ない時は二人で慰め合えるし?

 私が愛する時は二人同時に楽しめる。

 最高だ。

 これ以上の関係性があるかね?


 いや、無い!!

 あろうはずがない!


 という訳で、私はこの完璧なるハーレムを構築する為に、努力し続ける事をここに誓います!


『では、クリスタ・メル・ピューリス』

(はい)

『貴女に神託を授けます』


 女神様は私の頭の中でそう言うと、頭の中に一つの映像を映し出した。

 見た事のない、どこか深い森の中の様だ。


 そして、何やら森の中に居る小さな影が二つ……!


「っ!?」


 な、なんだ! この芸術品の様な少女たちは!!

 光を溶かした様な金色の髪が、風になびかれてシルクの様に柔らかく揺れているぅ!?

 その隣に立っている、金髪の子よりも少し大きな子も金と対比になるダイヤモンドの様な輝きを秘めた銀色の髪を遊ばせているでは無いか!?


 姉妹? 姉妹なのか!?


 あーっと! 顔が見えましたー!

 カワイイー!? この世の物とは思えない神秘的な造形だァー!

 生半可な女神や天使じゃ目の前に立つだけで消えてしまいそうな輝きが全身から溢れている!


 そして! 何よりもその笑顔だ!

 カワイイとかいう言葉じゃ、この造形を表現するには足りない!


 この出会いに名前を付けるのならば、運命!

 いや、デスティニー!

 そう、デスティニーだ!


 髪の色が対比なら、こっちも対比だよ!

 金髪の天使ちゃんが森の奥に存在する静かな湖面のごとき翡翠の瞳を持っているのならば!

 銀髪の小さな女神ちゃんは白銀の山脈にある洞窟の奥で眠るサファイアのごとき蒼玉の瞳!

 海よりもなお透き通る世界の色が瞳の中に閉じ込められている。


 パーフェクト。

 実にパーフェクトだ。

 私の人生二回分を全て見渡しても、これほどの美少女は見たことがない。


 とんでもないな! 異世界!


(……欲しい)


 ドキドキと胸が高鳴るのは、恋か愛か。はたまた運命か。

 分からない。

 分からないが、私はこの二つの輝きが是が非でも欲しくなった。


(女神様。神託とは)

『金色の髪の少女、エルフリア。そして銀色の髪の少女アリーナ。この二人を守るのです』

(サー!イエスサー!)

『……まだ、何が彼女たちの敵となるか伝えていないのですが?』

(これは申し訳ございません。ですが! エルフリアちゃんもアリーナちゃんも私のハーレムで生涯保護するので! どちらにせよ神託を受けた! ただそれだけです!)

『はぁ……頼もしいやら、悩ましいやら、ですね』

(頼もしい一択では?)

『黙りなさい。まったく』


 女神様は、それはそれは深いため息を吐くと、ゆるやかな口調で続きを告げた。


『敵は貴女と同じ転生者です』

(なんと! この世界には私以外の転生者が!?)

『はい。どうやら何者かがこの世界に多くの転生者を呼び込んでいる様です』

(なるほど……ん? という事は私も?)

『いえ。貴女は非常に不本意ですが、私が呼びよせました。多くの者に信頼される特性を持っていましたので』

(そうでしたか。さすが私)

『今は少し後悔していますが』

(まぁまぁ。美少女を守る為って言うんなら、私は全力で戦いますよ!)

『それは頼もしい事です』

(それで? エルフリアちゃんとアリーナちゃんはどこに? すぐにでも教会へ連れてきましょう)

『落ち着きなさい。今はまだ彼女たちの旅を止めてはいけません。貴女はただ彼女たちの旅に同行するだけでよろしい』

(そうですか)


 私はまずは好感度稼ぎかなと納得しつつ頷く。

 そして女神様は続く言葉で二人の場所を示してくれるのだった。


『彼女たちは今、パウダ王国の王都を目指しております』

(わかりました。私もすぐに向かいましょう!)

『頼もしい事です』


 私は女神様との会話を終わらせ、すぐに旅の準備をする。

 そして大荷物を持ちながら、部屋を飛び出し、隣国へ向けて教会の中を速足で歩くのだった。


「せ、聖女様!? その様に急いでどちらへ!?」

「神託が降りました! 私は今からパウダ王国の王都へと向かいます!」


 いざ! 私の可愛い子達の元へ!

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