表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

11:吾輩と幸福と空が白い今宵の月

 走る。はしる。走って奔って駆けた。絶えず首元の鈴が吾輩の周りで鳴り、全速力で息も絶え絶えで走る吾輩らを鼓舞してくれているかのようである。辺りの陽はもうすでにほとんど落ちた。既に暗闇が世界を侵食していた。街灯が照らす光の中、吾輩ら四匹は走る。走る。走る。走る。全速力で走る。ようやく見慣れた街並みが見えてきた。あと少し。あと少しである。

「ど、どちらに……向かっているの、です……!」

 後ろから息を切らせながらマロンが、それでも叫んだ。疲労困憊といった感じである。

「み、みぎわ公園……というところの……噴水前だっ……!」

 前を走りながら、後ろを振り返らず前だけを見据えて吾輩はそう答えた。もう限界も近い。自分の身体に鞭打ち走る。

「左様か! では次の拙者の合図で、左へ曲がるで、ござるよ!」

 横から小次郎が告げる。流石の小次郎も息が上がっており、疲労を隠し切れていない様子であった。

「了解した! ――大ちゃんは、無事か!?」

「ぜえぜえぜえぜえぜえ問題っねえ! ぜえぜえ」

 吾輩の声に一番後方から、問題しか感じられぬ声で大ちゃんが返事を返して来た。心配だが、しかし今はあまり構って上げられる余裕はない。

「そこを左でござる!」

 小次郎の合図に吾輩らは一斉に左に曲がり、とある民家の庭の中へ飛びこんだ。千代ばあよりも随分とこじんまりとしている庭を抜け、塀へ飛びのぬ。先導するかのように前へ飛び出した小次郎の後ろを追って、次の民家の中へ飛び降りる。大ちゃんは大丈夫であろうか?

 曲がりくねり捻くれきった猫だけの道をひた走る。他のことを考えている暇はない。口にくわえた満月をご主人に届けることだけを今は考える。もう辺りは真っ暗だ。目の前に草むらと木々が現れた。みぎわ公園である。ようやくここまで来たか。あと少しだ。待っていろご主人! 待っていろ美咲!


 大きな噴水の美麗極まりない装飾の施された、色とりどりに輝く大きな木の近くにご主人と美咲はいた。ご主人は何やら打ちひしがれたような表情で、まさに絶望しきった顔をしていた。その横では美咲が心配そうな顔をしていた。

 吾輩は最後の力を振り絞り、よろよろとなってしまった足に鞭打つ。

「ミーちゃん!」

 先に吾輩に気がついたらしい、美咲が驚愕したように叫んだ。それに釣られるようにしてご主人も吾輩の方へ向く。そんな二人を眼前に収めながら、しかし朦朧とした足取りで吾輩は二人の元へ歩いて行った。

「お前、一体どうしたんだよ! そんなにボロボロになって!」

 そんな荒げた声とともにご主人が駆けよってくる。そして、あの温かな両手にそっと掬いあげられる。

「お前、それをどうして……」

 震えた声でご主人が吾輩の咥えている満月を指さした。吾輩は最後の力を振り絞り、ご主人にそれを差し出す。

「真人さん……それは……?」

「……うん。そうだよ、美咲さん……」

 ご主人はひどく優しい面持ちでそれを受け取った。そして一度吾輩を地面へと下して、いつもの優しく大きく暖かな手で、いつもよりも優しく吾輩の頭を撫でてくれた。

 そして立ち上がり、ご主人は美咲に向き直る。その目は決意の光を放っていた。

「無くしちまったと思ってたんだけど、どうやらミーナたちが探して見つけてくれたみたいだ」

 そう一度はにかみ、ご主人は顔を引き締める。そして、あんなにも綺麗だった今は切り傷や泥に塗れて汚れてしまった満月を手の平に乗せて、美咲の方へ差し出す。


「俺と結婚してくれませんか、美咲さん」


 寒空の暗闇の中。それはひと際強く光ったような気がした。

 無音の時が流れる。

 吾輩はそんな二人を固唾を呑んで見守っていた。

 美咲は両目を閉じた。

そんな美咲をご主人はいつもよりも数倍穏やかな表情で見守っていた。

そして、たっぷりと時間を開けてから、美咲はゆっくりを瞳を見開いた。


「はい、よろこんで」


 それは何とも形容しがたい至高の光景であった。暗闇の中、光の温かな粒子が弾けている。こんなに温かな光景は、未だかつて知らぬ。

「やりましたわ!」

 後ろを振り返ると、そこには三匹の吾輩の掛け替えのない仲間の姿がった。彼らはみな、満面の笑みを浮かべていた。

「うむ」

 だから、吾輩もそんな彼らにとびっきりの笑顔を返す。

「ミーナ!!」

 そんな大声が頭上から聞こえたかと思うと、いきなり前足の裏に手を入れられて吾輩はご主人に高く持ち上げられる。

「ありがとう! 何もかもお前のおかげだよ!」

 そして、ご主人の胸元にきつく抱きしめられ顔をすりすり。くすぐったくて吾輩は鳴いた・

「ねえ、真人さん。雪が降って来ましたよ」

 美咲の穏やかな声にご主人のすりすり攻撃は止み、そして二人して空を見上げた。

 空からはご主人と吾輩が初めてあった時のように、真っ白な雪が舞い降りていた。

 やはりこうでなくては。吾輩は、嬉々として思いっきり空の白に向かって鳴いたのである。


最後まで目を通してくださり、誠にありがとうございました。


いかがだったでしょうか?

少しでも面白かったのならば幸いです。


今回僕は、


1:表現および比喩

2:展開の盛り上がり

3:三人以上の登場人物の使い方


を特に念頭に置いて頑張りました。

テーマも一応盛り込んでいるのですが、どうでしょう。ちゃんと書ききれているのか心配でなりません。


途中、字数制限により止む終えず一話分削除してしまい、それが大変悔やまれますが(結構頑張って書いたのにorz)、しかし今は書き終えた充実感に包まれております。


何かあれば感想および評価のほどをよろしくお願いいたしいたします。

どんなものでもどんとコイ!

メッセージなどでも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。

サンタさんの代わりに、感想をどうか僕にプレゼントしください(笑


そして僕は皆さまにサンタさんの代わりになって、ちゃんとしたほんのり温かなプレゼントを渡すことができましたでしょうか。

それが今は気がかりでありません(笑

少しでも楽しめていただけたら、僕はそれだけで嬉しいです。


それでは最後に改めて。


拙作を最後まで読んでくださり、本当にありがとございました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ