8/34
第二章(三)
その夜、ペテルギウスはシネマーを自室に呼び出した。満月が明るく照らし出す。あの雪の夜に似ていた。ペテルギウスはシネマーをいすに座らせ、肩に手を置いた。
一〇年前のあの日、二六歳のペテルギウスが九歳のシネマーの肩に手を置いた。粉雪が降り積もり、向かいには暖かそうな馬車。中からペテルギウスの父がこちらを見ている。あの優しい言葉を、彼は生涯忘れないであろう。
「一緒に来るか?」
そして現在、今も言葉が放たれようとしている。
「今日限りで、おまえを解雇する」
シネマーの顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「……なんですって!?」
「今まで、よく仕えてくれた」
「ペテルギウス様!! 私は生涯あなたに仕えると……」
「明日からはティンに付いてやれ」
「え?」
「心細いだろうから、頼むぞ」
シネマーは胸を撫で下ろした。
「はい!!」