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名もなき墓所に眠る  作者: 中村小波
第二部 陰謀
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第四章(八)

 長い話の後、フローリアは沈黙していた。おもむろに口を開く。


「これで、彼にとって、シャナ王子がどれほど大切な存在なのか、わかってもらえたわね」

「ええ」


 しかし、ジェシカは疑問を持っていた。何故フローリアはシャナ様を『王』と言わずに『王子』と言うのか。しかし、敢えて尋ねなかった。言ってはいけないような気がした。


「弟は私には何も教えないけど、これだけは確かだわ。ウイルコックスがすることは、全てシャナ王子のためなの」


 フローリアはジェシカを見据えた。


「だからあなたにお願いするわ。私達はあなたを束縛するつもりはないし、幽閉はありえないわ。私が言われたのは、『あなたを逃がさない』こと」


 フローリアは平生とは違い、凄みがあった。それは『お願い』というより、『脅迫』に近かった。


「弟の邪魔はしたくないの。事がすんだら、帰してあげるわ。けれどそれまでは、絶対にここから出ないで」


 ジェシカは少し沈黙して応えた。


「……はい」




 ウイルコックスは自分たちが罪に問われた時、フローリアが有罪とみなされないために、何も教えてはいなかったが、彼女は知っていた。


 現国王が偽物であることや、ウイルコックスがその暗殺を狙っていることを知っていたのだ。あれは、戴冠式の前年から、その年にかけてのことだった。





 その日は朝から雨が降っていた。子供たちは寝てしまったのだろう。辺りはとても静かだった。今日はウイルコックスが帰ってくる日である。


 いつもはとうに着いているのにおかしい。そんなことを考えながら、フローリアは頬杖をついていた。


 遠くから音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。馬の蹄の音だ。弟が帰ってきた!


 フローリアは外に出た。その日は普通ではなかった。ウイルコックは平生、単身で馬に乗って帰ってくる。しかし、現れたのは馬車だった。ウイルコックスは止まった馬車から沈んだ様子で降りてきた。


 御者は「明後日迎えに来る」と言い残し、去って行った。弟はフローリアを見ても、ただ頷くだけだった。


 ウイルコックスは明らかに様子が違っていた。彼は(うつ)ろな目をして、何も言わなかった。フローリアも問いただすことをしなかった。そして、数時間後、フローリアの寝所にウイルコックスが現れ、


「話を聞いてくれ」と言った。


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