第四章(八)
長い話の後、フローリアは沈黙していた。おもむろに口を開く。
「これで、彼にとって、シャナ王子がどれほど大切な存在なのか、わかってもらえたわね」
「ええ」
しかし、ジェシカは疑問を持っていた。何故フローリアはシャナ様を『王』と言わずに『王子』と言うのか。しかし、敢えて尋ねなかった。言ってはいけないような気がした。
「弟は私には何も教えないけど、これだけは確かだわ。ウイルコックスがすることは、全てシャナ王子のためなの」
フローリアはジェシカを見据えた。
「だからあなたにお願いするわ。私達はあなたを束縛するつもりはないし、幽閉はありえないわ。私が言われたのは、『あなたを逃がさない』こと」
フローリアは平生とは違い、凄みがあった。それは『お願い』というより、『脅迫』に近かった。
「弟の邪魔はしたくないの。事がすんだら、帰してあげるわ。けれどそれまでは、絶対にここから出ないで」
ジェシカは少し沈黙して応えた。
「……はい」
ウイルコックスは自分たちが罪に問われた時、フローリアが有罪とみなされないために、何も教えてはいなかったが、彼女は知っていた。
現国王が偽物であることや、ウイルコックスがその暗殺を狙っていることを知っていたのだ。あれは、戴冠式の前年から、その年にかけてのことだった。
その日は朝から雨が降っていた。子供たちは寝てしまったのだろう。辺りはとても静かだった。今日はウイルコックスが帰ってくる日である。
いつもはとうに着いているのにおかしい。そんなことを考えながら、フローリアは頬杖をついていた。
遠くから音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。馬の蹄の音だ。弟が帰ってきた!
フローリアは外に出た。その日は普通ではなかった。ウイルコックは平生、単身で馬に乗って帰ってくる。しかし、現れたのは馬車だった。ウイルコックスは止まった馬車から沈んだ様子で降りてきた。
御者は「明後日迎えに来る」と言い残し、去って行った。弟はフローリアを見ても、ただ頷くだけだった。
ウイルコックスは明らかに様子が違っていた。彼は虚ろな目をして、何も言わなかった。フローリアも問いただすことをしなかった。そして、数時間後、フローリアの寝所にウイルコックスが現れ、
「話を聞いてくれ」と言った。




