第四章(七)
時が流れ、ようやく孤児院が完成した頃だった。子供たちは歴史の授業を受けていた。国王はジョゼファーを呼び出した。
着いてくるように促し、国王はゆっくりと歩いた。少し離れて、ジョゼファーの靴音が聞こえてくる。きらめく陽光の中、国王はバルコニーへ出た。
ジョゼファーの金髪が輝いている。その日は秋晴れだった。無人の中庭が殺風景に見えた。彼女は何も言わず、国王の言葉を待っている。国王は勇気を振り絞った。
「もう少し、ここに居てくれないか」
「ええ、いいですよ。少しと言わず、ずっと居たってかまいません」
即答に、王は戸惑った。
「意味はわかっているのか」
「だったら、わかるようにはっきり言ってくださいな」
ジョゼファーは笑っていた。王は赤面しながら言った。
「私と、結婚してくれないか」
「はい」
ジョゼファーは出逢った頃のように婉然たる笑みを浮かべていた。
二人は結婚式を挙げた。他国の客は招待せず、子供たちや城の重役たちだけの、いたって小規模なものだった。だが、華やかな衣装に身を包んだジョゼファーは、さながら美神のようだった。
この時、一番喜んだのは、やはりウイルコックスだった。彼は目を丸くして言う。
「綺麗だよ。本当に綺麗だ」
「ありがとう」
ウイルコックスはジョゼファーの手を握り言った。
「お幸せに」
ウイルコックスは心から祝福していた。
そして、子供たちは世話役として数人の女官を携えて、出来上がったばかりの孤児院へと旅立った。
翌年、国王は当時若かった医師から、ジョゼファー懐妊の報せを聞いた。国王は歓喜と危惧をもってそれを受けた。彼女の体が危ぶまれたのだ。
「そんな心配そうな顔をしないで下さい」
寝所を訪れた王にジョゼファーは微笑んだ。
「しかし」
「あなたが何と言おうと、私は産みますよ」
医師も反対の意向を示していた。しかし、そんなことで折れるような彼女ではなかった。王もそれを承知していた。
「ああ」
王は彼女を心配し、昔馴染みがいた方が心強いだろうと思い、孤児院から彼女のお側付を募ることにした。それに真っ先に名乗り出たのは、やはりウイルコックスだった。
そして、ジョゼファーは男の子を産み、『シャナ』と名付け、間もなく亡くなった。ウイルコックスはそのまま、ジョゼファーの忘れ形見であるシャナ王子の側近となった。
これが、ウイルコックスが誰よりもシャナ王子を敬愛していた理由である。




