第四章(六)
女官が フローリアとウイルコックスを連れて来てくれた。
「ジョゼファー!!」
ウイルコックスが彼女に飛びついた。
「心配かけてすまなかったな」
ジョゼファーはウイルコックスの頭を撫で、フローリアに笑いかけた。
「ええ、本当に。ウイルコックスなんか、心配で眠れなかったのよ」
ジョゼファーはウイルコックスの顔を覗き込む。目の下にクマが出来ていた。
「すまなかった」
「もういいよ。無事で良かった」
ウイルコックスは安心して胸を撫で下ろした。彼女が目覚めるまで気が気でなかったのだ。
国王はジョゼファーに問い掛けた。
「私と対峙していた時、何を思っていた」
「何も。ただ夢中でした」
「夢中?」
国王はジョゼファーのなかに少女の片鱗を見た気がした。やはりまだ、ほんの16歳の少女なのだ。
「ええ。個人の設立を保証してもらえるまで倒れてはいけないと、自分に言い聞かせていましたから」
国王はフローリアに、「ジョゼファーは体が強い方ではない」と聞かされていたので、ジョゼファーをたしなめた。
「無理はするものではない」
「はい」
ジョゼファーは婉然と笑った。国王はそれを、ただ、美しいと思った。
孤児院の設立は思いのほか時間がかかった。四方を山で囲まれているため、資材を運ぶのに時間を要したのだ。
その間、かつて国王の教育に当たっていた者たちが、子供たちに学問を教授した。国王が学校制度を制定するのは、もう少し先のことである。
それは、ある昼下がりのことだった。国王は子供たちと共に、広間でお茶を飲んでいた。「こんなに美味しいお茶は生まれて初めて飲んだ」と、子供たちが感嘆の声を上げていた。
国王はその様子を見て呟いた。国王は知らなさ過ぎたのだ。
「こんなにいい子なのに、どうして捨てられるのだろう」
この時もジョゼファーは果敢だった。彼女の両隣に座っていたフローリアとウイルコックスをはじめ、そばにいた女官も度肝を抜かれた。
「王様。そもそもの原因は、先王から続く重税です! あなた様の税制が民を苦しめ、幼い子供を捨てさせているのです!! 民が我が子を捨てざるを得ない状況を、あなた様が作り出しているのです!!」
ジョゼファーの反応が率直だったため、王は新鮮にさえ感じた。純粋に申し訳ないと思うことが出来た。
「そうだな。済まなかった」
王は素直に謝罪した。呆気なく非を認めたので、ジョゼファーが拍子抜けしたほどだった。




