第四章(五)
国王は堂々と玉座に腰を下ろしていた。
「連れて参りました」
きらびやかな軍服をまとった男が、国王にひざまずいた。おそらく、シバが言っていた『隊長』だと思われる。
シバは、謁見が許されていないらしく、隊長にジョゼファーを引き渡すと、持ち場に戻っていった。
隊長に促され、ジョゼファーは一歩前に進んだ。
「娘! 身をかがめろ!! 国王陛下の御前だというのに!!」
隊長が血相を変えて小声で注意するが、王がそれを制した。
「かまわん。して、用件は何だ」
王は眼前の少女が倒れそうなことに気付いていたが、あえて言った。
ジョゼファーは重い口を開く。
ホメルス地方イリアード村の盆地が、幼い子供の捨て場所になっていること。現在その場所に、多くの子供たちが身を寄せ合って生活していること。今年の冬を越すためにはどうしても建物が必要で、直談判するために自分がやって来たことを話した。
そして、ジョゼファーは国王に臆することなく、毅然とした態度で言い放ったのだ。
「ホメルス地方イリアード村の盆地に、孤児院の設立を乞います」
「ほう! 何故その場所なのだ」
「また捨てられる子供が、いるかもしれないからです」
「なるほど」
王は考える様子もなく、すぐに返事をした。
「よかろう。今すぐそこにいる子供たちを保護して、早急に孤児院を設立し、その後も支援を続けると約束しよう」
ジョゼファーは安堵の吐息をつき、緊張が途切れた瞬間意識を失い、前のめりに倒れ伏した。先刻、シバから受け取った水袋の水が、彼女の腰元から漏れていた。
国王はまだ20歳を過ぎたばかりだったが、シャルル大聖堂の大司教や、他国の王族を前にしても怯むことなく対等に話す事が出来た。既に国王の風格を漂わせているという自負があった。
にも関わらず、先程の謁見の間で、誰よりも異彩を放っていたのは他の誰でもなくジョゼファーだった。その存在感は、若き国王のそれをはるかに凌駕していた。
翌日には、城の馬車が子供たちの元にたどり着き、フローリアやウイルコックスも城に招かれた。
しかし、彼らはジョゼファーに礼を言うことが出来なかった。彼女は高熱で三日間寝込んでしまったからだ。
ジョゼファーが床に伏している間、国王は彼女の顔を見るために、よく足を運んだ。勇敢すぎる彼女に、底知れぬ興味があった。
三日後、目覚めたジョゼファーは、自分が眠っていたベッドを見て驚いた。
彼女の生家や野宿していた時のそれとは比べ物にならないくらい、はるかに快適だった。彼女が今まで見たことがないほど絢爛豪華だった。
あとから女官に聞いたことだが、その部屋は、国王の母親が使っていたものだった。




