第四章(四)
ジョゼファーの持ち物は、羅針盤と街道の地図と干飯、水袋だけだった。真夏の灼熱の太陽に耐えうる物は、何一つ持ち合わせていなかった。この時の彼女の苦しみは、想像にかたくない。
なんとか都の門までたどり着いたジョゼファーの姿に、二人いた門番は愕然とした。
衣類とは思えないボロ布を身にまとい、青ざめた顔をして、肩で息をし、大量の汗をかいていいる。それでも、整った顔立ちと、後ろに束ねた金髪は、やはり綺麗だった。
今にも倒れそうだったジョゼファーは、はっきりとした口調で言った。
「国王に、お目通り願いたい」
門番たちが、眼前の少女から発せられた言葉だと理解するのに、数秒を要した。やがて、背の高い方の門番が、もう一人に呼びかけた。
「おい、エド! すぐに隊長に報告しろ!」
「ああ。そうだな」
エドと呼ばれた門番は慌てて城に入っていった。残った門番は少女を日陰に誘導し、座らせた。彼女の息は荒いままだった。どうしたものかと周りを見回し、腰につけていた水袋を思い出した。
門番は少女の前にしゃがみ込み、水袋を差し出す。
「水だ」
少女は震える手でそれを受け取り、ゆっくりと飲んだ。
「シバ! 陛下が特別に会って下さるそうだ!!」
エドが戻ってきた。
「そうか」
シバと呼ばれた背の高い門番は、少女に向き直った。
「立てるか?」
少女は何も言わない。シバは少女を抱えて持ち上げようとしたが、ジョゼファーは騎乗にも、自分の足で立ち上がった。
「案内してください」
ジョゼファーは小さな声で、しかし力強くそう言った。シバとエドは一瞬呆気に取られた。
相変わらず肩で息をして、顔は青ざめ、異常な汗をかいているのに、彼女の精神力はいったい何だ? か細い体に、何が隠されているというのだ。
「こっちだ」
シバはエドに残っているように目配せし、後方を気にしながら、ゆっくりと城門をくぐった。ジョゼファーはもつれる足を叱責し、歩いていった。
幸い、謁見の間は一階にあった。




