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名もなき墓所に眠る  作者: 中村小波
第二部 陰謀
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第四章(四)

 ジョゼファーの持ち物は、羅針盤と街道の地図と(ほし)(いい)、水袋だけだった。真夏の灼熱の太陽に耐えうる物は、何一つ持ち合わせていなかった。この時の彼女の苦しみは、想像にかたくない。


 なんとか都の門までたどり着いたジョゼファーの姿に、二人いた門番は愕然とした。


 衣類とは思えないボロ布を身にまとい、青ざめた顔をして、肩で息をし、大量の汗をかいていいる。それでも、整った顔立ちと、後ろに束ねた金髪は、やはり綺麗だった。


 今にも倒れそうだったジョゼファーは、はっきりとした口調で言った。


「国王に、お目通り願いたい」


 門番たちが、眼前の少女から発せられた言葉だと理解するのに、数秒を要した。やがて、背の高い方の門番が、もう一人に呼びかけた。


「おい、エド! すぐに隊長に報告しろ!」


「ああ。そうだな」


 エドと呼ばれた門番は慌てて城に入っていった。残った門番は少女を日陰に誘導し、座らせた。彼女の息は荒いままだった。どうしたものかと周りを見回し、腰につけていた水袋を思い出した。


 門番は少女の前にしゃがみ込み、水袋を差し出す。


「水だ」


 少女は震える手でそれを受け取り、ゆっくりと飲んだ。


「シバ! 陛下が特別に会って下さるそうだ!!」


 エドが戻ってきた。


「そうか」


 シバと呼ばれた背の高い門番は、少女に向き直った。


「立てるか?」


 少女は何も言わない。シバは少女を抱えて持ち上げようとしたが、ジョゼファーは騎乗にも、自分の足で立ち上がった。


「案内してください」


 ジョゼファーは小さな声で、しかし力強くそう言った。シバとエドは一瞬呆気に取られた。


 相変わらず肩で息をして、顔は青ざめ、異常な汗をかいているのに、彼女の精神力はいったい何だ? か細い体に、何が隠されているというのだ。


「こっちだ」


 シバはエドに残っているように目配せし、後方を気にしながら、ゆっくりと城門をくぐった。ジョゼファーはもつれる足を叱責し、歩いていった。


 幸い、謁見の間は一階にあった。


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