第四章(三)
ジョゼファーは勇ましい女だった。
ホメルス地方イリアード村の外れにあるこの盆地は、近隣に住む人々が口減らしのために、幼い子供を捨てに来る場所だった。周りを山に囲まれているので帰ることが出来ず、多くの子供が死んでいった。
ジョゼファーも捨てられた子供の一人だったが、通りすがりの旅人のおかげで生き延びることができた。
やがて、ウイルコックスとフローリアの姉弟もここに捨てられた。その時には既に旅人は行ってしまっていたが、3人は身を寄せ合い、なんとか生き延びたのだった。
しかし、捨てられた子供は増える一方だった。冬になれば皆飢えて凍え死ぬ。そう考えたジョゼファーは、国王に直談判すると決意した。寒さをしのげる建物を創らせてみせると豪語した。
彼女はこの時、まだ16歳だった。当然のように、一番年上の自分が一人で行くと言い放った。フローリアは止めた。ジョゼファーは体が丈夫ではなかった。
ここから都まで歩いて行くには、最低でも三日はかかる。今は夏で、体力を激しく消耗するだろう。ジョゼファーには無理だ。
「どうしても行くと言うのなら、私も一緒に行くわ」
「だめだ!!」
ジョゼファーは一喝した。
「どうして」
ジョゼファーは優しく笑った。
「私の留守中、おまえが皆の面倒をみるんだ」
「ウイルコックスがいるわ」
フローリアは当時14歳、ウイルコックスは12歳だった。
「彼にはまだ無理だ。落ち着きがなさすぎる」
「でも……」
心配そうなフローリアの頭をジョゼファーは撫でた。
「大丈夫だ。朗報を待っていろ」
ジョゼファーは都へと旅立った。
ジョゼファーの不在に気付いたウイルコックスが、姉に尋ねた。
「お姉ちゃん。ジョゼファーは?」
「都へ行ったわ。冬に備えて、建物を創らせるために」
ウイルコックスは表情を変えた。
「なんだって!? 一人で行ったの!?」
フローリアは頷く。
「しまった!!」
ウイルコックスは追いかけようとしたが、フローリアが腕を引っ張って止めた。
「なんで止めるんだよ!?」
「聞きなさい、ウイルコックス!」
フローリアは手に力を込める。
「ジョゼファーは私達のために行ったのよ。体調を崩すとわかっていても。彼女の気持ちを汲んであげて」
ウイルコックスは諦めて肩を落とした。
ウイルコックスはジョゼファーに恋心を抱いたことはなかったし、それは生涯変わらなかった。けれども、大切な仲間であることには変わりなかった。
数年前、姉と共にここに捨てられた時、手を差し伸べてくれたのがジョゼファーだった。今まで生きて来られたのも、ジョゼファーのおかげと言っても過言ではない。
そして、この姉弟は彼女が病弱であることを、誰よりも知っていた。




