第四章(二)
ジェシカは子供たちの声で目を覚ました。眼前に男の子の顔が迫っていた。
「おはよう。お姉ちゃん」
「……おはよう」
戸惑いながらも笑顔を作って応じた。
「みんな。ごはんですよ」
フローリアの声に子供たちは駆けていった。
「あら。目が覚めたようね」
フローリアがエプロン姿で立っていた。ジェシカは周りを見回す。
「あの、ここは?」
「孤児院よ。私はフローリア。ここで働いているの。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
ジェシカはベッドの上にいることに気が付いた。誰かが自分を運んだのだ。
「あの男の人は?」
「ああ。ウイルコックスなら、もう帰ったわ」
「そう、ですか」
ジェシカは少し残念そうな顔をした。
朝食をとったジェシカはフローリアの手伝いをして過ごした。子供たちが学校に行っている間に掃除
をしてしまうのだ。あっという間に、昼時になった。
朝食を終え、片付けをすませて一息ついた時、ジェシカが思い切って尋ねた。
「あの、私はどうして、ここに連れてこられたんですか」
「そうね。理由が知りたいわよね。何から話そうかしら」
フローリアは壁にかかっている若い女性の肖像画を示した。ブロンドの髪をアップにし、ティアラを着けた鋭い目をした女性だ。
「あの人は、『ジョゼファー』といってね。ここを創ってくれた人なの。今ウイルコックスがしようとしている事を説明するには、ジョゼファーのことを話さなければならないわ」
フローリアは懐かしそうに目を細める。
「もう、30年以上前になるかしら」




