第二章(一)
途中の町で一夜を過ごし、早朝に城へ到着した。馬車から降りると、ペテルギウスの息子であるシリウスに出会った。彼は今年で13歳になった。
「シャナ王様。お帰りなさい」
「ただいま。朝早くにどうしたんだ」
「お父さん達が泊まり込みで何か話してね。僕、気になるから着替え届けにきたんだ」
「それはご苦労様」
「緊急事態みたいだよ」
シリウスは手を振って帰って行った。
ティンが会議室に入ると、三人の大臣は頭を抱えていた。
「いったいどうしたんだ」
「シャナ王様」
すがるような視線でペテルギウスが話し始めた。
「昨日、エウレカから使いが来たんですが、『第一王女イエニエ姫を、我が国へ留学させたい』と言うのです」
「それはまた急だな」
「ええ。しかも……」
キラーが身を乗り出す。
「『留学中は城に泊まる』という条件付きなのです」
「何? それは本当か!?」
ティンは眉間にしわを寄せた。エウレカ帝国は女性に厳しい国で、夫婦間以外の性交は禁忌とされている。
家族以外の男女が同じ家の中で眠るだけで、関係を持ったとみなされるのである。
特に女性への誹謗中傷はむごい。未婚の場合は他の所へは嫁ぐことはできない。
「本当です。『三日以内に返事がない場合は留学を拒否するとみなし、即刻攻撃を開始する』と脅してきています。留学を受け入れても条件を満たさない場合は同じだと」
「これはまた……強引な外交に打って出たな」
「ええ。イエニエ姫を我が国の王妃にしたいのでしょう。見え透いています」
イザヤが冷静に応える。
「エウレカ王はどういうつもりなんだ?」
「どうします?」
ティンは腕を組む。
「……」
「今日か明日のうちに、エウレカへ使者を出さなければ、砲弾を撃ち込まれるでしょう」
ただの脅しではなく、エウレカ王なら本当にしてしまうだろう。
「それも、『承諾書』に限ります」
「しかし、イエニエ姫が留学中城に泊まったら、僕と結婚するしか選択肢がなくなるではないか」
「それも承知の上なんでしょう」
「どうします!?」
大臣らはティンを見詰めた。
「……仕方ない。承諾書の準備をしてくれ」
ティンはしぶしぶ決断をした。




