第一章(二)
ペテルギウスはロビデコ地方の最後の村、ウイグ村に向かっていた。キラー大臣が彼にこの地方を宛がったのだ。
大臣の独断の行動なので、使いを行かせることはできない。それぞれが信じられる少数の側近を連れて、内々に事を進めるのだ。
ウイグ村は貧しい村だ。バークレー王国の多くの村がそうであったように、王の税金の無駄遣いの所為で、村人は皆飢えている。
ウイグ村の少年ティンは、病気の母と暮らしていた。医者には、不治の病だと言われたが、それでも母のため働いた。
しかし、村全体が貧しいため、給金はさほどもらえず、医者の薬も痛み止め程度しかなく、残りのお金を食費にしていた。
ペテルギウスは旅人を装い、側近のシネマーと村長の家を探していた。日は暮れかかり、寒さも厳しくなった頃、ペテルギウスは痩せ細り、粗末な服を着た少年に出会った。
「そこの君、村長さんの家を知らんかね」
「はい?」
振り向いたその顔に二人は息を呑んだ。痩せこけてはいるが、眉目秀麗なその顔立ちは、シャナ王子のそれと瓜二つだったのだ。
「村長さんの家なら、僕が案内しましょう」
少年の名はティンといい、王子と同じ一〇歳だと、村長の家へ行く間に聞き出した。
「ほう、薬草を探しているのですか。何分貧しい村なので、何もお構いできませんが、泊まって行ってください」
キラーが用意した建前を口にし、胸が痛んだ。今日の自分の食糧を確保することも儘ならぬのに、出された少しの野菜が浮かんだだけのスープに、ペテルギウスは涙を流した。
「どうしました?」
「これは、あなたの食事ではないのですか?」
この問いに村長は微笑み、言った。
「お召し上がりください」
「いただきます」
ペテルギウスとシネマーは手を合わせ、深く頭を下げてスプーンをつかんだ。