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名もなき墓所に眠る  作者: 中村小波
第二部 陰謀
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第一章(後)

 村長の家へ着くと、他の村人に歓迎された。チェンはいつのまにかいなくなっていた。


 講堂で、宴会用のテーブルを囲み、ティンは切り出した。


「何か不備はありませんか? 善処いたします」


 他のどの村でもそうであったが、明らかに、王が国民に使う口調ではなかった。


「何もありません。もう十分です」


 村人は口々にティンに礼を言い、村の近況報告をした。ティンは何も言わずに微笑して聞いていた。


 日が暮れかけた頃、ティンはおもむろに立ち上がった。


「そろそろ帰ります」


「泊まって行かれてはいかがですか」


 村人の申し出に、ティンは首を横に振る。


「お言葉ですが、長居すると、帰りたくなくなるので」


 その言葉は村長の心に響いた。このまま気付かない振りをするつもりだったが、どうしても言わずにはいられなかった。


「そうですか」


 村人は残念そうに、見送りのため先に出て行く。ティンが扉に差し掛かった時、村長が呼び止めた。


「ティン」


 ティンは目を見開き、足を止めたが、振り返らない。呼んではならない名前だった。


「どういう事情で、王になったかは知らないが、おまえのおかげで、暮らしは随分良くなった。飢えに苦しむことのもなくなった。だけど、もう十分だ。帰ってきてくれないか」


 ティンは言葉につまったが、振り向いて言った。


「その言葉で、ここに来た甲斐がありました。末永くお元気で」


 ティンは出て行った。





 一方、軍国エウレカでは――。


 エウレカ王は地図を前にして唸っていた。エウレカは軍部に力を注ぎ、狭小な国土を守ってきた。そして、東側に位置する広大な国が、バークレー王国である。


 エウレカ王としては、王が代替わりし、ますます活気溢れるこの国と、どうしても外交を結んでおきたかった。


「お父様」


 娘のイエニエが入って来た。いつもと様子が違い、思い詰めているのがわかった。


「どうした」


 イエニエはうつむき加減で話し始めた。


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