第四章(六)
シャルル大聖堂で戴冠式が行われていた最中、ウイルコックスは城の地下にいた。ここには、シャナ王が秘密裏に埋葬されている。
墓標の前にたたずんでいた時、ウイルコックスは話し声を聞いた。
「王子は病気のようだったから、殺すまでもないと思っていたのに。大臣どもめ、替え玉を使いやがった」
「なあに、殺すまでさ」
ウイルコックスは声のする方へ駆け出した。城に仕えている顔見知りが数人いた。
「ウイルコックス!?」
彼らは驚き慌てた。
「おまえら……」
「頼む! 後生だから黙っててくれ!!」
「面白いな。詳しく聞かせろ」
「え!?」
彼らは素っ頓狂な声を出した。
「俺も、混ぜてくれないか」
仲間と顔を見合わせ、リーダー格の男が代表して聞いた。
「何故だ? お前は誰よりも、王子に忠誠を誓っていたじゃないか」
ウイルコックスは皮肉に笑った。
「だからだよ。シャナさまが闇へと消えてしまったのが、許せないんだ!」
死んだことさえ隠され、こんな地下に埋葬される王子が哀れでならない。生きていたという事実さえも、隠蔽されたような気がした。
「憎いんだよ。ちゃっかり殿下の後釜に座りやがった、あのティンの野郎も! 何事もなかったようにふるまう大臣どもも!!」
少し間を開けて、リーダーの男は言った。
「いいだろう」
ウイルコックスを加えた新生反王国派が、今ここで結束した。
※
時を同じくして、晩餐会でティンが軍国エウレカの王に挨拶していた。
「本日はお越しいただき、まことにありがとうございました」
エウレカ王は食事の手を止め、立ち上がって握手を求めた。
「いや、こちらこそ。いいものを見せていただきました」
策略家として有名なエウレカ王は、人の良さそうな目でティンを凝視した。
「いえ、そんな、恐縮です」
「謙遜することはない。娘のイエニエも驚いて声も出なかったくらいだ」
エウレカ王は娘の肩を軽くたたいた。イエニエは慌てて立ち上がった。漆黒の波打つ髪が揺れる。
「ええ。本当にすばらしかったですわ」
イエニエはティンを前にして、少し恥じらいながら言った。
「ありがとうございます」
ティンは微笑し素直に礼を言った。王国建国一〇〇〇年の記念式典で一度会った少女だということを彼は気付かなった。イエニエもまた気付かなかった。
新しい王を迎え、バークレー王国は希望に燃えていた。しかし、ゆっくりと、それでいて確実に、ティン暗殺の魔の手を忍び寄る。




