表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき墓所に眠る  作者: 中村小波
第一部 光と影
13/34

第四章(二)

 即位式の日、関係者は緊張に包まれていた。ウイルコックスは青い顔で、シャナ王子の着替えを手伝っている。純白の礼服に王子が袖を通す。


「まるで、死に装束だな」と、王子は思った。


「王子。やはりティンにやらせたほうがいいのでは」


 ペテルギウスがティンを連れてきた。王子は二人を見遣った。


「何を言う。即位するのはこの僕だ」


 王子は大病を患っているとはとても思えず、小さな威厳さえ湛えていた。もう、王の顔をしている。


「王子様。大聖堂の準備が整いました」


 シネマーの言葉に王子は頷き、歩を進めた。





 シャルル大聖堂には、民衆が厳粛に座っていた。喪服など買えないので、出来るだけ黒い服を着ようとした努力が見て取れた。


 大臣たちは裏手に回り、一足先に聖餐台の下の大臣席に座る。ティンはシネマーやウイルコックスと共に裏から様子を見ていた。彼らの表情はこわばっていた。大門が開き、微かな歓声と共に王子が入場した。歩くたびに純白の衣装が揺れた。彼はまっすぐに王の(ひつぎ)が置かれた聖餐台に上った。


「親王の名をもって、前王に幸福のあらんことを!!」


 シャナ王子のこの言葉で、聖堂内にいる者が一斉に祈りを捧げた。この瞬間、王子は王となった。





 シャナ王は馬車から降り、居室へと向かった。


「シャナ王様。ご立派でした」


 ティンに微笑みを返したその時、若い王はウイルコックスの腕の中に倒れた。ウイルコックスは覚悟していたようで、しっかりと彼を受け止めた。誰一人として、驚きの声を上げた者はいなかった。





「これは……今まで立っていたのが不思議なくらいです」


 医師が言う。


「激しく咳き込み、大量の血を吐きましたね」

「はい……頻繁に」


 ウイルコックスが応えた。医師はカルテに書き込み、そして念を押すように言った。


「皆さん、気付いていましたか」


 皆、何も応えなかったが、医師もそれ以上尋ねなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ