第四章(二)
即位式の日、関係者は緊張に包まれていた。ウイルコックスは青い顔で、シャナ王子の着替えを手伝っている。純白の礼服に王子が袖を通す。
「まるで、死に装束だな」と、王子は思った。
「王子。やはりティンにやらせたほうがいいのでは」
ペテルギウスがティンを連れてきた。王子は二人を見遣った。
「何を言う。即位するのはこの僕だ」
王子は大病を患っているとはとても思えず、小さな威厳さえ湛えていた。もう、王の顔をしている。
「王子様。大聖堂の準備が整いました」
シネマーの言葉に王子は頷き、歩を進めた。
シャルル大聖堂には、民衆が厳粛に座っていた。喪服など買えないので、出来るだけ黒い服を着ようとした努力が見て取れた。
大臣たちは裏手に回り、一足先に聖餐台の下の大臣席に座る。ティンはシネマーやウイルコックスと共に裏から様子を見ていた。彼らの表情はこわばっていた。大門が開き、微かな歓声と共に王子が入場した。歩くたびに純白の衣装が揺れた。彼はまっすぐに王の棺が置かれた聖餐台に上った。
「親王の名をもって、前王に幸福のあらんことを!!」
シャナ王子のこの言葉で、聖堂内にいる者が一斉に祈りを捧げた。この瞬間、王子は王となった。
シャナ王は馬車から降り、居室へと向かった。
「シャナ王様。ご立派でした」
ティンに微笑みを返したその時、若い王はウイルコックスの腕の中に倒れた。ウイルコックスは覚悟していたようで、しっかりと彼を受け止めた。誰一人として、驚きの声を上げた者はいなかった。
「これは……今まで立っていたのが不思議なくらいです」
医師が言う。
「激しく咳き込み、大量の血を吐きましたね」
「はい……頻繁に」
ウイルコックスが応えた。医師はカルテに書き込み、そして念を押すように言った。
「皆さん、気付いていましたか」
皆、何も応えなかったが、医師もそれ以上尋ねなかった。




