第三章(二)
ウイルコックスによる訓練が始まって、一ヶ月が過ぎた頃、ついにティンが表へ出る時がやって来た。ペテルギウスが厳粛に説明する。
「月に一度、シャルル大聖堂で礼拝が行われる。王子と市民の数少ない交流の場なのだが、ティンに代行してもらいたい」
「はい」
説明によると、礼拝は大司教の説教の後、お祈りをするという、ごく簡単なものだった。
「ティン」
馬車に乗り込もうとする、ペテルギウスに呼び止められた。複雑な表情だった。
「いや、何でもない」
「行って参ります」
ティンは馬車に乗り込んだ。
「私が付いていますから」とシネマーが後に続いた。ペテルギウスは心配そうに、その様子を見送った。
代役を立てるということは、それだけこの礼拝が危険だということだ。ティンは馬車の中で考えた。ペテルギウスの表情を思い出す。
「ティン。外を見てごらん」
シネマーの声に顔を上げた。見ると、とてつもなく大きな庭園の中心に、シャルル大聖堂がそびえ立っていた。ドーム型でステンドグラスが見て取れた。
馬車が止まり、白い道を踏みしめる。侍従に促され、大聖堂へ歩き出したその時、シネマーは右側に見える建物の屋上に、明らかにティンを狙っている人影を認めた。
「ティン!!」
呼びかけた時にはもう遅かった。放たれた数本の矢が、ティンの背中に突き刺さった。背に強烈な痛みを感じ、ティンは前方に倒れ伏す。これが身代わりなんだと、その時彼は悟ったに違いない。
侍従が慌てて矢を抜こうとするが、シネマーがそれを制す。
「やめろ! 出血する!!」
シネマーはティンを抱きかかえた。ティンは既に意識を失っている。
「馬車を出せ! 速く城へ!!」
城門をくぐり、シネマーがティンを抱えて馬車から飛び出した。城の入り口でキラー大臣とイザヤ大臣にぶつかった。
「どうしたシネマー。それは身代わりではないか」
キラー大臣の言葉に、シネマーは一瞬凍り付いた。その時、ペテルギウスが二人の大臣を押しのけた。
「シネマー! 速く!!」
ペテルギウスは大臣らを一瞥して中に入る。シネマーもそれに続いた。