第一章(一)
王国建国時代から争いが絶えないこの国を、人々は『修羅の国』と呼んだ。しかし、歴代の王のなかで唯一争いを好まなかった帝王がいた。彼は人を愛し、国を愛し、妻を愛した。ただ、愛することのみで人を救った。
バークレー王国は、国王の重病のため、揺れていた。城内に王国乗っ取りを企てる不穏な動きがあるからである。
ペテルギウス大臣は会議室のいすに座っていた。空には暗雲が立ち込め、雷鳴が鳴り響いていた。険しい顔つきで、キラー大臣とイ ザヤ大臣が入って来た。
「待たせたな」
「いや」
二人もいすに座った。
「先程、毒味係が王子の食事をとって急死した」
キラー大臣の報告にペテルギウスは顔をしかめた。
「そうか」
「二人とも、城内に裏切り者がいることは知っているな」
キラーが念を押す。二人は頷いた。
「国王はもう、もつまい」
「そうだ。王が崩御されるのは時間の問題だ」
ペテルギウスは二人のやり取りを黙ってついていた。
「裏切り者はもう、王子を狙っているぞ」
「全くだ。ここで王子を失うと、我々には為す術がないというのに」
「……何が言いたい?」
ペテルギウスの問いかけにキラーは彼を見た。
「さすが、察しがいいな。身代わりの準備をすべきだと言っているのさ」
「身代わりだと!?」
「そうさ! 国内の全ての村から、我々が捜し出すのだ」
キラーがペテルギウスに迫った。
「貴様ら、いくら国家のためとはいえ、一人の民の一生を犠牲にしてもいいと思っているのか!?」
「当たり前だ! 国家が全てだ!! 貴様こそ、国家の存続をないがしろにするつもりか!? それが大臣のすることか!?」
「ペテルギウス。ここは我々に協力してくれ。さもなくば、君の家族……奥さんと小さい息子さんがいたね。命の保証はないよ」
イザヤ大臣は穏やかな口調でそう言った。
「貴様、脅しているつもりか」
「すまないねえ。ペテルギウス。我々のこの計画を知った以上、君も共犯さ。これは脅しじゃない。被害は君だけじゃすまない。さあ、どうする?」
ペテルギウスは、苦々しい表情で、彼らの手を取った。