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出逢い ①

 「痛っっった!!!」彫刻刀で指を切ってしまった。零れた血が木に染みて、また1つ失敗作が増えた。もういいや、諦めて帰ろ。

諦めが良いのか悪いのか、簡単に怪我けがの手当だけしてそそくさと帰宅準備をする。


「先生!美術室の鍵カギ、先生の机に戻しときますねー」


「あぁ...」先生の半分聞いていて半分聞いていない感じは、後からカギを何処どこにやったか聞かれるやつだ。至極面倒くさい。明日学校休んでやろうか...?


「じゃあ先生さよならー」


ローファーに履き替え、自転車にまたがる。所々点滅して消えかかっている街灯と自転車のライトを頼りに夜道を駆け抜ける。まだぼんやりと生ぬるい初秋しょしゅうの風が気持ちいい。


 途中の信号で、同じ美術部員の少年に会った。同級生だけどほとんど喋ったことないし、何時も一人で淡々と絵を描いているから私から話しかけることもなく、部員の1人という認識しかしていなかった。だから、“会った”というより“見かけた”の方が正しい表現だろう。信号で彼を抜く時、一瞬顔を見ようとして、目が合った気がした。何か、変な物でもついていただろうか。其れとも私が自転車に乗っているのが珍しかっただろうか。そういえば去年は自転車登校してなかったっけ。夜ってのもあるけど雰囲気ちょっと不気味だな。


何処の窓からも光が漏れていない暗い家。両親は、朝はいるけど夜は日を跨いで帰ってくることが殆どで夜ご飯は大抵1人だ。


「ただいま」誰もいないからささやく程度でも気にする人は居ない。今晩の御飯は肉じゃがだ。


リュックを置きつつリモコンに手を掛ける。

某テレビ放送局(N〇K)では、あまり聞くことの無かったニュース番組が放送されていた。『7月14日、本日のニュースです。・・・・・・・・・2つ目のニュースです。先日、柳丘高校の女子生徒が1名行方不明になり、現在失踪事件として捜索中です。1週間程で、殺人も視野に入れるとのことです。次のニュースです。 ・・・・』私の学校だ。何年生なのだろう。学年も名前も顔も出ないから分からない。恐らく知らない人だからそこまで興味は無いが、少し心配だ。まあ例え死体だろうと何だろうと直ぐ見つかるだろうけど...私は、溜めりしていたアニメを見ながら明日の予習と小学生の頃からの習慣で日記をつけていた。


「終わったー......」ふと、時計を見ると25時だ。最悪だぁ、24時迄には寝ようと思ったのに...


「さっさとお風呂入って寝よう。」








「おはよう、瑠璃。今日は随分と早いのね。日直なの?」


「おはよう、別に何もないよ。只ちょっと寝つきが悪くてね...ってあれ、お父さんは?」


「嗚呼、急患が来たらしくてね...今帰って来てる途中らしいわ。深夜まで手術って、医者も中々多忙よね。」私が住んでいる双葉元町ふたばもとまちは市内でも数少ない山に囲まれた町で、いくら低いと言っても山は山、基本的に如何いかにも都会な梅塚うめづか区と違って病院や交番等は1つしかない。けれど、何故かは分からないが総合病院が存在する。そして、其の総合病院で外科医として働いている父は最近、3次救急(心肺停止等の二次では対処出来ない重症急患が運ばれる部署)に移動してからというもの、深夜帰宅など当たり前の多忙を極めている。


「でもさ、帰ってきたって3、4時間後にはまた出勤でしょ?態々(わざわざ)20分もかけて病院に行く位ならあっちに一泊してもいいんじゃないかなって思うんだけど...どうなんだろう。」


「んーーそうねぇ...私は医者じゃないから何とも言えないけどあの人深夜に帰ってくるから朝なんて寝てて顔見れないじゃない。それなら帰れるときに帰って顔見れた方がいいんじゃない?家族仲的にも精神的にも」


「なるほど...そーゆーもんなのかな」昔から家に帰って来ても速攻ベッドに行っていてあまり話す機会が無かったし、父の印象なんてずっと“やつれた人”だったから話しかけても疲れさせちゃうだけだと思っていた。それが誤解なら其れでいいが、もし考えが当たっていたら其れも其れで悲しいからあまり正解を聞く気にはなれなかった。.........でも、もしも其の考えを覆す事が可能ならば、また幼い記憶の中の大好きな父に会えるのなら、話してみるのもいいのかもしれない。母の話を聞いて、今迄無関心だった父に、不覚にもそう思った。

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