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55.冷たい言葉




ーーある日の夜8時。

美那は生暖かい風に包まれながら、夏都の家からどんよりとした表情で自宅マンションに戻ってくると、エントランス手前で紺色のタイトなワンピースを着ている紗彩が待っていた。

紗彩に自宅の場所を教えていなかった分、驚きは半端ない。




「河合さん、こんな時間にどうして……」


「話があって来たの。少し外で話しましょう」




紗彩は背中を向けてついて来いと言わんばかりにすたすたと歩き出した。

それからマンションの敷地内のベンチに移動して腰をおろすと、紗彩は再び話を続けた。




「残り期限は7日よね。そのヴァスピスはまだ1点灯みたいだけど間に合うの?」紗彩は美那の手元に目線を下ろす。


「…………」



「バカね。ヴァンパイアと知った途端、手のひらを返す男なんてさっさと見限ればいいのに」


「っ!! ……河合さんがどうしてその事を知ってるの?」



「見てればわかるの。彼は人間としてのあなたと、ヴァンパイアとしてのあなたに境目をつける程度の男。今からどうあがいても許す気なんてないと思うわ」


「……そんなの、謝り続けてみないとわかんないよ」



「じゃあ、今日は謝れたの? 少しでも話を聞いてくれた?」


「それは、まだ……」



「人間にいくら情を注いでも無駄なの。期日が来れば関わった人間の記憶がきれいさっぱり整理される。先輩たちはみんなそう割り切ってやってきたのよ」


「…………」



「もしミッションが失敗してコウモリされてしまったら、思い出どころか感情すら持てなくなって生涯司令部の郵便配達員になるのよ。いまのあなたはそれに王手をかけている。自分でもわかってるでしょ?」




美那は固く口を結んだままコクンとうなずく。




「人間に感情なんて要らない。吸血してさっさとヴァンパイア界に帰ればいいだけ。人間界ではあなたは目の上のたんこぶなのよ」




紗彩は吐き捨てるようにそう言ってさっと立ち上がった。

すると、美那は爆発しそうな感情を押さえながら言った。




「じゃあ、河合さんはどうなの? ……人間界に来て何も感じなかったの?」


「……え、私?」



「仲間と一緒に校外学習計画を立てたり、レクレーションの買い出しに行ったり、レクレーションが成功するようにミーティングを重ねて意見を出し合ったり。私は人間界に来てから1日1日が宝物だった。みんなが傍にいてくれたから、協力してくれたから、お互い気を配りながら支え合ってきたから、毎日がとても幸せだった。


それなのに、ヴァンパイアだから情を注いでも無駄? 感情なんて要らない? ヴァンパイア仲間として気にかけてくれるのは嬉しいけど、私の価値観まで決めて欲しくないから」




美那は怒鳴り散らすようにそう言った後、マンションへ駆け込んで行った。

振り返れば、ヴァンパイア界でタブーとされていた情が自らの首を絞めつけていた。


取り残された紗彩は、腕を組んだまま美那の背中を眺めたままつぶやいた。




「……それなら仕方ないわね。まぁ、いいわ。こっちにも考えがあるから」




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