2-1 Side C
このまま、ここで朽ち果てていくのだと思っていた――
深い深い地の底に広がる大空洞、明かりの届かぬ闇の中に、クロードは一人座していた。部屋の中央に浮かぶ人の頭ほどの黒い球体に、クロードは魔力の鎖で繋がれている。球体、ダンジョンコアは、クロードの魔力を吸い続けることによって、地下に広がる巨大空間、ダンジョンの崩壊を辛うじて防いでいた。コアに繋がれている限り、クロードの肉体が死を迎えることはない。だが、クロードは、自身が人としての意識をほとんど失っていることを自覚していた。自らの死すら、どこか他人事のようであった。
――もうすぐ、全てが終わる。
コアは、繋がれたクロードにダンジョン内の様子を具に伝えて来る。クロードは、ダンジョン内に人の気配が絶えて久しいことを知っていた。ならば、自身の務めは終わり。最早、守るべきものの居ない地に固執することはない。
意識が消えゆくと共に枯渇し始めたクロードの魔力。徐々に崩落の始まったダンジョンは、まず最下層に在るクロードとコアを圧し潰す。そのはずであった。
だがその日、クロードは視た。
ダンジョン内に突如現れた複数の気配。もう二度と現れないと思っていたヒトの反応に、クロードの意識が急激に呼び覚まされる。と、同時に、コアを通してではない人の気配に、長い間閉じられたままだったクロードの目が開いた。
「っ!」
クロードの碧い瞳が、コアルームの遥か上空、天井付近に現れた小さな点のような人影を捉える。クロードの目には、それが意識のないまま落ちて来る少女だと分かった。
――守らねば。
人でなくなりかけていたクロードの胸に、たった一つの思いが渦巻く。クロードは、瞬時にありったけの魔力をコアに注ぎ込んだ。ダンジョンの崩壊を防ぐため、この地に迷い込んだ者達を地上に返すために。
魔力核、自身の魔力生成の源が軋む音を聞いたクロードは、魔力を失うと同時に魔力の鎖を断ち切った。そのまま、落下する少女の元へと跳躍する。一瞬で詰めた距離、抱きかかえた身体の軽さを感じながら地に足をつけたクロードは、異変に気付き、上空を見上げる。
(……やはり、無理だったか)
コアが魔力の供給を失い、ダンジョンが崩壊を始めた。コアルームの天井がパラパラと剥がれ落ちてくる。
(すまない……)
自身の力が及ばなかったことを詫び、クロードは少女を地に横たえた。未だ意識の無い少女の青ざめた顔。引き結ばれた唇は色を失っている。幼子のようなその顔を見つめながら、クロードは少女の上に覆いかぶさった。目の前の黒髪をそっと撫で、全身で少女を包み込む。
やがて、轟音と共に天井が抜け落ち、巨大な瓦礫が二人へと降り注いだ。
(許して欲しい……)
守るから。必ず、守ってみせるから。