表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読心令嬢が地の底で吐露する真実  作者: リコピン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/50

7-7

「クロード!」


食堂の窓を突き破り、中へと転がりこんで来たのは、レジーナが待ち望んだ彼だった。クロードの姿を認めると同時、レジーナはシリルにグイとその身を引き寄せられる。


「へぇ?すごいね、英雄さん。魔力もなしに、どうやって僕の結界破ったの?」


突き破ったガラスの破片をパラパラと落としながら、クロードが立ち上がる。彼がその右手に握るもの、掌からはみ出して見えるのは真っ赤な魔石だった。


「ふーん、なるほどねぇ。魔石の魔力で結界を破ったんだ。それでよく、拳が壊れなかったね」


感心したように呟くシリルの声を聞きながら、レジーナは必死にその身をよじろうとする。シリルに触れられた場所から、知りたくもない彼のおぞましい心の内が伝わってきた。


クロードの登場にも、シリルに焦りはない。ただ淡々と、目的を達することだけを考え続けている。


不意に、クロードの姿が消えた。と、思う間もなく、目の前に迫る彼の巨体。彼が振り上げた大きな拳が、叩きつけるようにして振り下ろされる。


「っ!うっわぁ、びっくりした!」


振り下ろされた拳は、シリルの頭上で止められた。不可視の防壁、シリルが張ったのであろう結界に、クロードの手が彼に届くことはない。


背後で、シリルが笑う気配が感じられた。


「流石の英雄さんでも、僕の本気の結界は破れないんじゃないかなぁ?」


「……」


黙したままのクロードと視線が合う。レジーナの視界に、血に濡れた彼の拳が映った。


「まあ、こっちの用はすぐに終わるからさ。そこでちょっと待っててよ」


そう告げたシリルが、魔法詠唱を始める。転移魔法に近い文言。けれど、先程の彼の言葉から、それが転移魔法などではないことは明らかだった。


「っ!お願い、クロード!シリルを止めて!」


レジーナは、動けない身体で叫ぶ。


無言で頷いたクロードが、再び拳を振り上げ、シリルの結界に向かって振り下ろした。ドンという衝撃、彼が手にしていた魔石が粉々に砕け、宙に舞う。それを気にした様子もなく、クロードは新たな魔石を取り出し、二度、三度と同じ動作を繰り返した。


宙に、緋が舞う。今度は魔石ではない。彼の拳から流れる血が舞っているのだ。レジーナの口から抑えきれない悲鳴がもれた。


「っ!ごめんなさい、ごめんなさい、クロード!だけど、お願い……!」


シリルを止めて欲しい。レジーナの願いに、クロードはひたすらに拳を振るい続けた。その瞳が、真っすぐにレジーナを見つめている。


(クロード……!)


無力な自分がクロードに無理を強いることに、レジーナは涙した。悔しくて、情けない。血を流す彼をまっすぐに見上げるレジーナの背後から、シリルの呟くような声が聞こえた。


「……英雄さん、頑張るねぇ」


いつの間にか、シリルが詠唱を終えている。流れ込んで来た彼の思考に、レジーナはゾッとした。


(っ!そんな!?何てことを……!)


狂気じみた彼の心の闇に引きずられ、レジーナは恐慌状態に陥る。鼓動が速い、息が上手く吸えない。


ああ、でも――!


「クロード、指輪を!」


涙でグチャグチャになりながら、レジーナは何とかその言葉を口にする。


「シリルの指輪を取って!」


クロードが、僅かに頷くのが見えた。彼の拳が、また結界を叩く。伝わる衝撃に、レジーナの背後でシリルが笑った。


「ハハ!結界にヒビが入ってる!ホント、凄いんだね、英雄さんって」


――だけど、もう遅い……


伝わって来た彼の声に、レジーナは叫んだ。


「シリル!お願い止めて!止めなさいっ!」


「止めないよ。止めるわけない」


その言葉と同時、レジーナの足元から眩い光が溢れだした。


(これ……!?)


あの時と同じだ。レジーナをこの地に運んで来た光。眩しさに、何も見えなくなる。


「レジーナ……!」


光の向こうで、クロードが呼んでいる。だけど眩しくて、レジーナはそれ以上、目を開けていられなかった。


諦めと共にレジーナが目を閉じた時、不意に、動かぬ身体が強い力で引き寄せられた。そのまま、ぶつかるようにして、熱い身体に抱きしめられる。


「レジーナ……!」


クロードの押し殺した声。周りの光が収束していくのを感じたレジーナは、薄らと目を開き、頭上を見上げた。そこに、不安に揺れる碧い瞳があった。


「クロード……」


彼の名を呼んだレジーナは、それから、ゆっくりと背後を振り返る。先程まで、自分が立っていた場所。光の消えたそこには――






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ