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「んー……なんか違う」
桂木さんは眉間にシワを寄せ、生クリームの乗ったパンケーキを頬張りながら、机の上に開いた写真ファイルを見つめていた。
僕はイチゴがいくつも乗ったパフェをスプーンで掬い、口に運んだ。
土曜日の午後、急に彼女から連絡が来て呼び出された。ピンク色の多いポップなカフェ。僕と友達だけだったら生涯関わりはなかっただろう。一人で入るときも、場所を間違っていないか何度も確認した。
店内に入ってからも野暮ったい僕がキュートでファンシーな場所にいるという異物感に耐えきれなくて俯いてしまった。先に席に座っていた桂木さんが手を振り、名前を呼んでくれて、ようやく客として入店できた気がした。
「何が違うの?」
「分かんない。光の加減かもしれないし……」
言って彼女は説明をするが、写真の知識のない僕に専門用語は呪文にしか聞こえない。
「もっと良いカメラを使えば?」
「一眼レフはゴツくて怖いじゃん。レンズを向けられたら怖くない? あれきっと人を殺せるよ」
「じゃあ、スマホのカメラは? 僕は使ったこと無いけど結構性能いいんじゃないのか?」
「分かってないねー。これだから素人は」
彼女は態とらしく大袈裟にため息を付いた。
「現像するまでどんな写真が取れてるのか分からない。それが楽しいんじゃないの。撮影してすぐ写真が見れたら、有り難みがなくてすぐに消去しちゃうかもしれないでしょ」
彼女の中では理由が出来上がっているらしいが、僕にはあまりピンとこず、彼女なりのこだわりがあるらしいとしか理解できなかった。
「何が変わったのかなあ。あたしの腕前が上がった、は違うか……? ならキミが……?」
机に広げたファイルとトイカメラを問い質すように彼女は唸りながら睨みつけている。僕は何かアドバイスをしてあげたいとは思うものの、写真については興味もわかないので、黙ってパフェを食べる。
「あ」
彼女が何かを思いついたように顔を上げた。