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  テルドララ8

 年老いた宿神(しゅくしん)の驚きに見開かれた目が、わたしを見下ろしている。不適合によって急死した、村長の息子から、わたしはもとの宿神の体に戻った。その脳波をもちいてスペースシップを呼ぶ。


 宿主(しゅくしゅ)から離脱した遺伝子情報体(ゲノム)のままでは、わたしは移動できない状態にあった。そんな行為をすれば、わたしの遺伝子はバラバラになってしまう。


 わたしの遺伝子は不安定になっていた。生命維持カプセルの本体(カプシド)のなかで早急に調整しないと、わたしのDNAに不具合が生じる。

 

 カルデラ湖から飛びたったスペースシップは、村をおおう森の上空にすぐ到達した。銀色の巨大な円盤がおとした影の下で、村人が驚き、騒ぎ、うろたえている。わたしは、広場の中央にシップを着陸させた。


 球体をつぶした形状の、直径24メートルのスペースシップに、宿神は動揺していた。わたしはシップのハッチを開け、宿神に乗船するように語りかけた。彼はおびえた様子で、わたしをコクピットまで運んでくれた。生命維持カプセル内のわたしの姿を見て、宿神は息をのんでいた。


 わたしは、カプセル内の本体(カプシド)に戻ってようやく安定した。宿主の選定のさい、血液の不適合に注意する必要があるとさとった。


 不適合が起きた瞬間、宿主の全身の血が凝固し、その命をうばっていた。まずは宿主候補者の血液を採取し、その血球細胞に侵入して反応を見ることにした。不適合はすぐに発生するとは限らない。被験者の血液中に3日間とどまり、凝固反応が起きなければ合格としよう。


 わたしのDNAは、本体(カプシド)のなかで安定した。わたしは、生命維持カプセルの前に立ちつくしている宿神にやどりなおした。宿主の選定方法を彼に教え、村に戻ってそれを実践してもらった。


 この方法はおおむねうまくいった。わたしは新しい宿主をえて、ふたたび部族神ウォーケンとなった。


 宿主の細胞や組織は、50歳を過ぎると劣化してくる。そのころあいで宿神に〈のりかえ〉を伝え、新しい体を探してもらうことにした。ウォーケンをあがめるこの部族では、それを〈神うつりの儀〉と呼ぶ。


 わたしは部族神として160年を過ごし、宿神が交代して4代目となった。


 この星の人類の寿命はおおむね30年~60年くらいだ。テルドララの遺伝子情報は、本体(カプシド)がそこなわれないかぎり存続する。本体(カプシド)の耐久年数は、冷凍保存していなければ180年ほどだ。


 本体(カプシド)は厳重に管理しなければならない。離脱後の本体に、別の情報体(ゲノム)が侵入すると、その体を乗っとられてしまうのだ。


 また、同じ本体(カプシド)に、複数の情報体(ゲノム)がはいりこむと大変な事態になる。テルドララの遺伝子セットが2組になり、倍加現象が起きる。DNAが無限に複製をくりかえし、その体を破壊してしまうのだ。倍加現象の生じた情報体(ゲノム)は、その本体(カプシド)がそこなわれると同時に消滅する。


 もっとも、テルドララの遺伝子情報をうけついでいるのは、いまでは、この宇宙でわたしだけなのだけれど。


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