テルドララ1
母星テルドララの属する太陽系の消滅を知ったのは、そこから8・7光年離れた惑星アウトララに滞在しているときだった。外交官のわたしは、宇宙領有権をめぐる交渉のためアウトララをおとずれていた。宇宙戦争の危機を話しあいで解決しようと力を尽くしていたのだ。
アウトララの調査船の報告によって、太陽系消滅の詳細がわかった。
テルドララの科学者は新兵器の開発を進めていたようだ。その実験過程で小太陽がうまれた。小太陽の核融合反応が暴走し、科学者はそれを制御できなくなった。ついには重力崩壊による超新星爆発を起こし、爆発の中心に生じたブラックホールに、テルドララはのみこまれたのだ。
対アウトララ外交の真の目的は、その母星を破壊する新兵器開発までの時間かせぎだったと、そのとき知った。わたしのこれまでの交渉はなんだったのか。テルドララが存在しなくなったいま、むなしさだけが心にのこった。
宇宙戦争の危機はふせがれ、わたしはテルドララ最後の1人となった。
にせの外交を行なった罪で、わたしはアウトララの裁判にかけられた。求刑は死刑だった。しかし、わたしの戦争回避のための努力が本物だったと証言する味方もいて、判決は惑星系外追放に減刑された。
わたしは自分のスペースシップで宇宙港を飛びたった。核融合エンジンをAドライブに入れ、アウトララの重力圏から脱出する。母星をうしなったわたしに行くあてはない。宇宙をさまよいつづけるだけだ。シップの推進剤には限りがあり、ゆるやかな死刑を宣告されたようなものだ。
しかし、希望がないわけではない。外交官に任命される前のわたしは考古民俗学の博士だった。テルドララに植民する前の、わたしの祖先が生まれた星を見つけて研究したい、そうつねづね考えていた。故郷も仲間もうしなったわたしには、もはや夢しか残っていなかった。
もっとも、そんな悠久の惑星がまだ存在していればの話だが――。
操縦席のスクリーンに、無限の闇が広がっている。鏡となったそこに映るのは、短い白い毛におおわれた、とがった耳に長い鼻づらの、見慣れたわたしの顔だ。その黒目がちの瞳があわれっぽく見返していた。