表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

Chapter,1-2:指先との違い

 真っ暗なトンネルを上昇する円形の床にヤマト達は居た。

 部屋内を照らしていた光は、天井や壁が展開すると床に着床し、アッパーライトの役割を担っている。

 遥か頭上の白い光が次第に大きくなってゆく。

 恐らくこのまま地上に繋がっているのだろう。

「よぉ、新入り」

 と、赤い炎をイメージした兜、鎧を纏い、真っ赤な大剣を肩に担ぐ男が、頭上に向けた視線はそのままに声を掛けて来た。

「あ、はい」

「ここはメチャゲーみてぇに甘い世界じゃねぇ。指先の戦いとは違うって事を肝に銘じておけ」

「あ、はい……」

 ここまで来ても状況が整理できない仙の耳には、このたくましい男の言葉の半分も聞こえていなかったが、「指先の戦いとは違う」と言う言葉だけがやけに耳に付いた。

 ここで、社交性のある人間なら、「それはどう言う事だ?」とか言葉を返すのだろうが、今朝まで一日に誰とも話さない日が多かった仙にとっては、むしろ喋り過ぎで精神的に疲労感が募っていた。

 ただでさえ混乱しているのに、これ以上訳も分からない人間に絡まれるのは勘弁して欲しい。

 そんな仙の心情を知ってか知らずか、男は喋り続けた。

「俺も、高村と一緒でよぉ。ワクワクすんだ。ムーの魅力に気付いた時から俺はこの世界の虜だ。手に汗握る緊張感、充実感、生きるか死ぬか……シンプルな世界」

 黒髪のその男は、鼻の穴を膨らませ目を輝かせながらに語った。

 そこへ皮肉を込めて、鼻で笑った高村。

新川しんかわ、俺をお前と一緒にするなぁ。俺はただ寿命が尽きた瞬間の敗北者の絶望の顔が見たいだけだぁ。それに、ここで寿命を稼ぎ続ければ何でも手に入る。テメェみたいに、いちいちロマンチストのような戦いの美学なんて求めていねぇっつの」

 斜に構えた高村は、無表情の彩壬アヤミを見つめながら「お前はどうなんだぁ? この世界に何を求めてる? 金か? ……男かぁ?」と下卑た笑みを見せ訊ねた。

 彩壬は、表情一つ変えずに、目だけを高村の方へ向けると、ゆっくりと目蓋を閉じた。

 答えは返ってこない。

「なんだよ。シカトかよ」

「アイツ、だいぶ高村さんの事ナメテますよね?」

 短い金髪の男が高村に話しかける。

「あぁ。いつかアイツが寿命を失った時、弱みにつけ込んで犯してやる」

「ああ言う女程、ベッドの上では従順かも知れないっすよ」

 高村の舎弟であろうその男は、卑しい笑みを彩壬に向けた。


 一同を乗せた床が地上に到達した。

 仙の目の前に広がっていたのは、歴史の教科書や、古代ローマを題材にした映画のシーンで見るような、朽ち果ててはいるが、石造りで臼状の広い闘技場だった。

 誰も居ない階段状の客席の向こう側には鉛色の空が見える。


 仙達と同時に舞台の反対方向に現れた相手ギルド。

 互いの円形の床を包む形で、薄緑色の光の壁が空へと伸びており、内側に金色の文字が滑る様にして表示された。


 ――『相手ギルドネーム:どちらかと言うとM団』


 ――『相手ギルドランク:SR』


「つまらんネームはともかく、俺達と同ランクか」

 と松村が眼鏡を中指で押し上げながら言った。


 ――『Are you ready?』(アーユーレディー)

 と、重低音の男の声が床から聞こえた。

 一同が腰を屈め、戦闘体勢を取る。

 仙だけがあたふたと狼狽していたが、事態は待ってはくれない。

 ――『DUEL!!』(デュエル)

 の掛け声で、光の壁が消えた。と、同時に、一同が一気に飛び出した。


 双方向から、武具に身を包んだプレイヤーが今、まさに激突する。


「あ、え、どうしよ、どうしよ」

 一人残された仙の目の前で、バトルアニメさながらの戦闘が繰り広げられた。


 先陣を切る高村、彩壬、新川の三人が、向かい来る敵軍に突っ込み、相手を吹き飛ばした。


 ――『1Chain!!』(ワンチェイン)

 ――『2Chain!!』(トゥチェイン)

 ――『3Chain!!』(スリーチェイン)

 と、仙が立ちすくむ円盤の床から声が響いた。

「それぞれが連続で与えた攻撃回数によって、チェインが連携し、戦闘力が微増していくんだ」

 その声に仙が振り返ると、長身のライフル銃を構えた松村が後方から戦況を観察していた。

「自分が与えた攻撃力が、相手の寿命を削り、0にすると相手を倒す事ができる。連続で倒せばコンボが成立し、戦闘力は格段に上がる。逆に仲間が倒されると、それまでの上乗せされたチェインもコンボも消滅し、戦闘力が初期値に戻るがね」


 彩壬が、振り下ろした円盤の刃が、岩の鎧を纏う男を切り裂いた。


 ――『17Chain!!』(セブンティーンチェイン)


 流血も無い、鎧が破壊されてもいない。

 仙の目に映ったのは、相手の体の廻りに微かに見えた青い光の膜にノイズが走った光景だった。

「あれは……? バリア?」

 と無意識に呟いた仙。

「あれが、寿命壁じゅみょうへきさ。目には見えないくらい小さいが、あの一撃の瞬間に、砕け散った寿命壁が彩壬さんの武器に吸収され即座に寿命に加算される仕組みってワケ」


 親切にシステムを解説してくれる松村だが、全く戦いに加戦していない事に疑問に思った仙。

「あの……」

「何?」

「良いんですか? 行かなくて」

「あぁ、良いの良いの。ココが俺の持ち場だからさ」

 と、手をひらひらと否定する仕草をしながら、所々が機械仕掛けになっているライフルの柄を地面に打ち付けた。

「俺スナイパーだから。ココがベストポジションなの」

 そう言いながらライフルを構える。


「うぅぅらぁぁああッ!!」

 高村のがなり声と共に、人骨をモチーフにした剣が、メタルに輝く騎士の男に突き刺さる。

 剣先に青白いノイズが走り、寿命壁に大きなヒビが入った。

「なんだぁ? もうおしまいってかぁ?」

 男の後頭部を掴み、骨の鎧で殺傷能力が上がった肘部を突き上げた。

 その瞬間、仙の耳にはガラスが粉々に砕け散ったかの様な音が聞こえた。


 それが何を意味しているのか?

 松村に教えて貰わなくても分かる。

 ――寿命が尽きたのだ。

「次の一撃でアイツは退場だ」

 松村が補足するかの様に言った。


 もう後が無い事。

 そして、何よりも圧倒的な力の差を前に男の表情が凍りつき、血の気が無くなってゆく。

 その顔を拝めるこの瞬間こそが、高村にとって至福の時なのだ。

「た……助けて……」

 蚊の鳴くような声で唇を震わせながらに懇願する男の胸を蹴り、仰向けに倒れた所を更に踏みつける。

「あぁ? 何だってぇ? 良く聞こえねぇなぁ」

「頼む……俺、もう最後なんだ……」

「そっかぁ。最後なのかぁ、お前。これで負けたら全身が血花火になって死ぬんだよなぁ。ありゃ痛ぇぞぉ。この世界で寿命壁が受けたダメージが一気に押し寄せるんだからなぁ」

 そう言う高村の表情に一切の同情の色は無い、ただ楽しんでいるだけだ。

「来月には、娘が生まれるんだ……だから……頼むッ!!」

 すると、ゆっくりと目蓋を閉じた高村。

「だったら一つだけ選択肢をやる」

「ホントか!?」

 男の目に光が戻ったが、次に発せられた高村の言葉に愕然とする。

「その娘……俺にくれ」

「…………はぁ?」

「安心しな立派な性奴隷に育ててやるさ」

 卑しい笑みを浮かべる高村に男は立場を忘れ激昂した。

「ふざけるなッ!!」

「あっそう」

 一瞬にして氷の様に冷たい表情を見せ、高村は男の胸に剣を突き刺した。

 今度は、寿命壁が砕ける事は無かった。

 しっかりと人体を武器が貫き、同時に男の体が真っ白な光に包まれた。

 次第に膨らみを増すその光は次の瞬間、衝撃波と共に吹き飛んだ。


 ――『1combo』(ワンコンボ)


 男が消え去った地面をじっと見つめる高村。

「へへ」と薄ら笑いをし、むくりと体勢を起こすと、仲間に指示を発した。

「そろそろ仕上げるぞぉ。よろしくぅ」


「待ってたぜ、その言葉ッ!!」

 意気揚々と声を上げた新川の周りには五人の鎧を纏う相手ギルドメンバーがいた。

 突然、新川の体から紅蓮の炎が噴出した。

「全てを焦がし尽くすッ!!」

 背中の大剣を引き抜き構えると、刀身が真っ赤に輝き炎を纏った。

 大気が熱さで歪み、相手ギルドメンバーが耐え切れずに距離を取る。

 彼等の行動を鼻で笑った新川。

「それで距離を取ったつもりか? もう既にお前等は、俺の炎の中にいると言うのに」

 その言葉に振り返る一同が突然怖気づいた。

 そう、既に炎の輪に囚われていたのだ。

 その中の一人が抜け出そうとし、炎を飛び越えようとしたが、無駄だった。

 炎の輪が空に伸び、壁を作り遮る。

「クソッ」

「一気に叩くぞ」

 と新川撃破を目標に掲げた。が……。

「業火円龍陣ッ!!」(ごうかえんりゅうじん)

 炎の大剣を振り回し、大地に突き刺すと、地面がひび割れ、地の底から灼熱の龍が一気に天まで駆け上った。

 炎の輪と龍の胴体は同寸。

 つまり逃げ道は無い。

 遥か上空で五つの青い光りが砕け散ったかと思うと、白い閃光に変わった。


 ――『7combo』(セブンコンボ)


 天に昇る真っ赤な龍を前に、口をポカンと開けていた仙。

「どうだカッコいいだろ?」

 松村の言葉に仙は頷いた。

「お前も、頑張れば使えるかもよ。必殺技をさ」

 そう言いつつも、どこか険しい表情の松村。

「しかし、気のなるのは、相手ギルドの大将クラスが全く動いていない事だ。自分のギルドが傷つき、仲間がヤラレ、チェインやコンボの差が広がっているって言うのによ。正真正銘のマゾギルドか?」


 先陣にいる高村のその先で胸の前で腕を組む相手ギルド三人。

 妙に落ち着き、笑みさえ見える。

 もしかして、高村でも勝てない程の力の持ち主なのだろうか?

 それとも単なるマゾなのか?

 この時の仙には知る由もなかった。





 つづく

一旦ここまでとなります。


どうでしょうか?

もし続きが気になる方は、コメントなど応援頂けると、プロットを再構築して連載をしてみようかなと思います。


よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ