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Chapter,1-1:チュートリアル

 タップしていた指を、恐る恐る離す。

 そして、ふと顔を上げた時、ヤマトは目を疑った。

 今、ヤマトが立っている場所……二十畳程の円形の床、金属の様だ。丸みの帯びた壁が天井に続く。ドーム型の様な空間。勿論全てが金属だ。

 天井からは、昼白色の光が眩しくない程に部屋内を照らし、プレートが組み合わされた様な壁や床の目地には、青い光が走っている。

 そこが、たった数秒前まで立っていたコンビニの前で無い事は一目瞭然だ。


「なんだ、新入りか?」

 濁声の主の方へ振り返ると、そこには何人かの男女が立っていた。

「おいおい、勘弁してくれよ。マッチング機能がイカレてんじゃねぇの?」

 落胆混じりに肩をすぼめる先ほどの男が言った。

 だらしなくパーマがかったセミロングヘアーのその男。鋭くも、ハの字の目は笑ってもいない。

 卑しい笑みを浮かべ始めた。


 それぞれの男女の目が同じ事を言っているかの様に思えた。

 ヤマトは、そう言われる理由も筋合いも無く、また、現在の置かれている状況が掴めずに固まっていた。


「アンタ始めてでしょ?」

 何の感情も感じられない程の冷たい口調で、目の前の若い女が言った。

 ベージュの透けたワンピースを着こなす長い黒髪の女の子は、正直、ヤマトのタイプだった。

 かと言って、自分から積極的になれる訳も無いし、今まで山のように一目惚れは経験している。

 その全てが発展しなかった……と言うよりも行動を起こさなかったのだから当たり前ではあるが。

「は、始めてって?」とヤマトが質問で返すと、女の子はため息混じりに「ほら、やっぱり。見れば分かるけど」と淡白に答えた。


「最近、新人がマッチングされんの多いっすよね? 高村さん」

 と、短い金髪の男が、濁声の男に近づく。

 どうやら、濁声の男の名前は高村と言うのだろう。

「あぁ、ったくよぉ。戦力にもなりゃしねぇよ」と、ヤマトの足先から頭までを舐めるように見つめる。


「まぁまぁ、みんなも最初は新人だったんだし。仲良く行きましょうよ」

 そう言って、ヤマトの肩を優しく叩いた男。

 インテリ眼鏡にソリッドショートヘアをした、仕事が如何にも出来そうな若者だ。

「俺は、松村です。松村まつむら 義彦よしひこ。ちなみにレアランクです」

「レアランク?」

「この世界ではね、みんなの固体性能によって、ランク分けされててね。君のような新人は、みんなノーマルランクから始まって、成績によって、N+(ノーマルプラス)、レア、R+(レアプラス)、SRスーパーレア、SR+(スーパーレアプラス)、SSRダブルスーパーレア、SSR+(ダブルスーパーレアプラス)、LRレジェンドレア、LR+(レジェンドレアプラス)、URアルティメットレア、UR+(アルティメットレアプラス)、GRゴッドレアと言う風になっているんだよ。まぁ、SSRなんて人はまだ見た事も会った事も無いけどね」

「なんか、メチャゲーのゲームみたいですね」

「そう、まさにその通り」

 と、嬉しそうに話す松村。


「て言うか、アンタ自分がどこに来たか理解してんの?」

 と先ほどの女の子が訊ねてきた。

「え、さ、さぁ……」

 その言葉に女の子は呆れた表情を浮かべた。

「呆れた。アンタ……天然記念物級の馬鹿ね。国宝級かも」

「まぁまぁ、そうカリカリしないの。あ、因みに彩壬あやみさんはSRクラスだから」

「あやみさん……」

 ヤマトは、目の前の彼女の名前が彩壬だと知り、少し親近感が湧いた気がした。

 そんなヤマトの姿を目の当たりにし、彩壬は怪訝そうに「え? 何かキモイ」と身震いの真似をした。


「新入りぃ。名前は?」

 高村の問いに「新堂 仙」と答える。

「そうか。新堂君、ムーにようこそ」

 と、不適な笑みを湛えた。

「ムー?」

「あぁ、お前ぇ、アプリ起動しただろ? MUのアプリをよぉ。ここがムー」

 と、両手を大きく掲げた。

「あんまし時間はねぇから、ざっくりと説明してやるよ。ここに来たからには、お前には夢を掴むチャンスが与えられたって事さ。だが、良い事ばかりじゃねぇ、対価に見合うリスクもある。まぁ、死にたくなけりゃ生き残れって事だ。意地でもな。そうすりゃ最高に楽しい世界が待ってる」

「死にたくないって……?」

 その言葉がヤマトの脳内に反響した。

 この世界は、まず何なのか? そして、ここに居る人間は? なぜ、死に繋がるのか?

 そんな疑問が急速にヤマトの中で膨らみ、爆発した。

「ちょ、ちょっと待てよ。一体ココはどこなんだ? アンタ等は何者だ? 何で死ぬんだよ? はぁ? 意味分かんねっつの!!」

 ヤマトの怒号の後、静寂が広がった。

 何故だか冷ややかな視線が突き刺さった。

 チッと口を鳴らした高村。

「たくよぉ、もっと細かく言わねぇと分かんねぇの?」

 高村が面倒くさそうにした時、部屋内にアップテンポなBGMが鳴り響いた。


 すると、今までじっとしていた者達が、四方八方に別れ、それぞれが壁に向き合った。

 何が始まるのか?

 そう思った時、高村が「彩壬ぃ、コイツのおもりヨロシクぅ」と言い放ち、空いている壁に向かった。

「はぁ!? 嫌なんですけど。無理なんですけど」

 と、言うが誰も返事は返って来ず、大きな溜息のあと、嫌そうに「こっち」とヤマトに来るように促した。


 アヤミとヤマトが並んで壁に向かった。

「携帯出して」と、言われ、ポケットからスマートフォンを取り出す。

「壁に長方形の穴があるでしょ。そこにスマホを押し込むの。やって」

 アヤミに言われるがままにスマートフォンを、まるで専用の挿入口の様な穴に押し込んだ。

 すると、目の前に立体ホログラフの画面が展開された。

「おわっ!? 何コレ?」

 そこには、自分の顔、名前、さっき松村が言っていた事であろうランクなど、意味不明な数値が投影されている。

 アヤミは自分のホログラフを展開しながらも、ヤマトのホログラフを覗き込んだ。

「あら、残念ね。あんた残りの寿命……あと5年だったんだ」

 また唐突に飛び出した理解不能の言葉。

「俺の残りの寿命?」

「そう。あんた、あと5年で死んでたの。だけどココで頑張ればもっと長生きできるかも」

「それって、どう言う事だよ……」

 すると、ストレスが頂点に達したのか、アヤミが鋭い目付きに変わった。

「アンタ質問バッカね。もうハッキリ言うわ。ココは、言ってみれば、ゲームの中の世界みたいなモノ。それもソーシャルゲームのね。ここでは、私達の寿命が投資できるの。メチャゲーみたいにガチャを引いたり。これから私達は、その寿命の奪い合いを別のギルドとするの。勝てば寿命が増える。その寿命が一定に達すれば色々な使い道があるけど、それはアンタがその時を迎えた時にでも説明する。とにかく、今は、生き残って、寿命稼ぐ事だけを考えて。どうやらアンタもオタクみたいだしネットゲーム廃人なんでしょ? だったら、分かるはず」

「待てよ、俺はオタクじゃないし!!」

「良いから、早く装備しなさい。初めはゴミみたいなのしかないけど、頑張って良いのを当てる事ね」


 ☆     ☆


 装備が終わったメンバーが壁からスマートフォンを引き抜くと、武器へと姿が変化した。

 それぞれ多種様々な装備を身に付けている。

 黄金に輝くヘルメットを被った者や、大砲を担ぐ者、重装甲装備の物も居れば、サイバースーツに身を包んだスタイリッシュな者もいる。

 高村は、禍々しい程の妖気に包まれた人間の物とは思えないような巨大な生き物の頭蓋骨をあしらったアーマーにその関連の装備を纏っている。


 アヤミはと言うと、際どい露出の天女の様な羽衣を身に付け、手には円盤の刃が握られている。

 ヤマトは真剣にカメラを持って来なかった事を後悔した。

「う、美しスグル」と小声で呟いた。


 肝心のヤマトはと言うと、お鍋のヘルメット、ダンボールの鎧にガムテープの靴、錆びた金属バット……。

 恐らく、無くても差し支え無さそうな装備だ。

「まぁ、最初はみんなそうだったし……」

 と、スナイパーをモチーフにした装備を纏った松村がフォローしてくれた。


 部屋の中心に浮かび上がるホログラフには、『ステージ:大闘技場』と表示され、大きなコロシアムのような画像が映し出されている。

 恐らくこれから向かうであろう場所だろう。

「大闘技場は、トラップもモンスターも出ないシンプルな場所だぁ。初っ端から大乱闘が予想される。いつもの順番でチェインを稼いで全員の能力を底上げしてから一気にコンボを狙うぞぉ」

 高村の指示に一同が「了解」と答える。


「よし、良いぜぇ」

 と高村が答えると、ドーム型の天井が花開くように展開し、床が上昇を始めた。

 これからどうなるのか?

 殺し合いが起こるのか?

 生きた心地のしないまま、狼狽し続けるヤマトを尻目に、口笛を吹く高村が興奮気味に叫んだ。

「ぶち殺したるでぇッ!!」





 つづく

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