7
……あれ? ベットの中でいつの間にか寝ていた。──あ! 夜に私の部屋でシャルさんと会う約束をしていたんだ! 周りが明るい! 寝てて気づかなかったよ! 慌てて外に出る。クレアさんが椅子に座っている。
「クレアさん! シャルさんどこにいるか分かる?」
「あ、起きたんだ姫。シャルは自分の部屋にいるよ。一緒に行く?」
そう。私は一人で寝てるんだよね。一人で寝るのに苦労したよ。父様と母様が出した策は私付きのメイドさんをドアの前に待機させることだった。そんなことしなくてもいいと思うけど。
「ううん。自分一人で行くね! 教えてくれてありがとう!」
廊下を走ってシャルさんの部屋に向かう。
「転ばないようにねー!」
シャルさんの部屋の前について静かにドアを開けた。
「シャルさん起きてる……?」
「おはようございます。はい。起きていますよ。どうされました姫様? 」
優しい笑顔で頭を撫でてくれる。良かった……シャルさんいるよ!
「おはようシャルさん! 昨日は大丈夫だった? 何かされてない? されていたら父様と母様に怒るから!」
「いいえ、何もありませんでしたよ。ご安心ください」
ほっとしたよ……。シャルさんから直接聞かないとやっぱり安心できないよね。
「それでね? 昨日の夜に部屋に来てってシャルさんに伝えたけど私寝ちゃってて起きれなかったんだ。ごめんね。許してね? ここでシャルさんの傷跡を治してみたいんだ」
「ええ。姫様もお疲れでしたので本日の夜にお伺いしようと思っていました。……ええと、私の傷跡を治すのですか? 昨日、魔法では治すことができないとお伝えしたのですが」
うんうん。シャルさんが教えてくれたからね。
「うん。覚えているよ。魔法だと傷が治せないんだよね。 実は私も能力を持ってるんだ」
「まさか……。癒しの力ですか? 癒しの力をお持ちなんですか? それであれば傷跡も傷も身体の異常も治すことができますよ。
そうなんだ……この能力が貰えてよかったな。何で治せるのか分からないからちょっと怖いけどね。
「うん。癒しの力の能力を持っているよ。それでね。シャルさんの傷跡を治したいんだ。大好きなメイドさんに傷跡があるのは嫌だからね。シャルさんが一緒にお風呂に入ってくれないのももしかしたら傷跡の事を気にしてたのかなって思って」
「ありがとうございます。お優しい姫様。ご家族と入っていらっしゃるのでメイドの私は控えているだけですよ。姫様がよろしければ今度一緒にお風呂に入りますか? 癒しの力はエドウィン様とセレスティア様にお伝えしましたか?」
シャルさんも遠慮せずにお風呂一緒に入ればいいのに。……そっか。当たり前だよね。私が能力を持っていることはシャルさんしか知らないからね。魔法だけの予定だったのに能力も使うと話が変わっちゃうよね。魔力を使うから私じゃどこまで使っていいのか分からないよね。
「今度一緒に入ろうよ! 能力の事は父様と母様には伝えてないよ。今から一緒に伝えに行きたいけど大丈夫?」
「畏まりました。姫様、もうすぐ朝ご飯のお時間ですので、そこでお伝えしましょうか」
手をつなぎながら食堂に向かう。うう……ちょっと不安になってきた。能力を使う許可を貰えるかなあ……。
「うん! 丁度いい時間だもんね。10歳までは魔法だけの約束だから、能力を使う許可は貰えるかな?」
「姫様、今は駄目でも数十年後には許可を貰えますと思いますので、ご安心ください。」
「私は今がいいよ……シャルさんの傷跡を数十年見続けなきゃいけないのは嫌だよ」
せっかく治せる力があるのにそれを使えないのはもどかしくて仕方がないよ。シャルさんみたいな綺麗な女性に傷跡は似合わないよ。料理もお菓子も紅茶も淹れるの上手なのに……。たまにからかってくるけど楽しいからいいよね!
「姫様? そのようなお顔をしないでください。私も悲しくなってしまいます。体の傷は油断でつきました。傷跡を見ることで油断を無くす。気を引き締める。という効果もあるのですよ?」
私そんな顔をしていたんだね……。体の傷を見ることで気が引き締まるというのも確かにありそうだね。私には分からないけど……。
「でもシャルさん。今は冒険者じゃないよね? 綺麗な女性に傷跡は似合わないよ! 絶対に治してあげるからね!」
「ふふふ……。ありがとうございます。その時は宜しくお願い致しますね」
少しソワソワしながら食堂の中に入り椅子に座る。椅子は二段になっていて片足ずつ乗って椅子に腰かける。まだ小さいから時間がかかっても仕方ないよね。うー……。緊張するよ。最近魔法を使いたいお願いをして次は能力を使いたいって言うのは気が引けるよ。大好きな家族に迷惑かけちゃうよ。どうしよう……。でもシャルさんの傷跡は絶対に治したい。うううー!
「どうした? ツムギ。早く魔法の練習がしたくて落ち着かないのか? ご飯はしっかりと食べた方がいいぞ」
「ううん、違うの。あのね、お父様とお母様にお願いがあるの」
「わ、私もなの? なあにツムギ?」
「あのね? 私の能力を使ってシャルさんの傷跡を治したいの!」
父様と母様の顔を見ながら恐る恐るお願いをする。
「……能力でってどういうこと? まさか癒しの力が使えるの?」
「うん! それでね? シャルさんが冒険者時代の傷跡が治っていないの。だから私の能力で治したいの」
「俺はいいと思うが……。魔力が心配だな。魔力を使いすぎると体が重くなって何もやる気が起きないという状態になるんだ。寝てご飯食べれば治るが……」
「私も賛成よ。恐らく傷跡によって消費する魔力量が多くなったり少なくなったりすると思うのよ。なので、ご飯を食べたら一度シャルは一人で私の部屋に来てくれる?傷跡を見たいの。どこから治していくかを決めたいの」
嬉しい! 治してもいいんだって! 自分でも顔が笑顔になっているのが分かるよ。
「うん! 分かった! ありがとう!」
「畏まりました。お食事のお片付けが終わった後に、セレスティア様のお部屋にお伺いしますね」
「ただし、条件が二つあるわ。一つ目は、毎日少しずつ癒しの力で治すことよ。少しでも体に異常があったらすぐに辞めること。二つ目は、夜に魔法の練習はしないことよ。能力と魔法を両方使用して魔力不足になったら大変だからよ。夜に無意識に魔法を使えたらそれは別よ。この二つの条件を守れるかしら?」
条件ってそれだけなの……? 本当にそれだけでいいんだ。もっと厳しくてもいいと思うけどそれを言ったら条件が追加されそうだから何も言わないようにしよう。
「うん、守るよ! ありがとう! 大好き!」
「それにしても癒しの力か……。流石だツムギ! 世界一可愛くて優しくて我が儘も言わないし、癒しの力もある……。最高だ!」
あはは……。とは言ってもこの能力は女神様からの貰い物だからそんなに大きな顔はできないね。とは言っても皆の為ならありがたく有効活用させてもらうよ。皆が笑顔になってくれるのは嬉しいし!