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不幸だった女子高生は異世界で溺愛されます  作者: マスカットマウス
プロローグ
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プロローグ

 机の上にいつも通り5000円札が置いてある。少し悲しい顔にしながら、手に取って安物のサイフの中に入れる。今日は学校に行く日。身支度をして学校に行くために、ドアを開いた。


「行ってきます」


 ……当然返事はない。




 私、柊 紬は、父親の一人娘。両親が離婚して父親と一緒に暮らしている。私が小学生3年生の頃に母親の不倫によって離婚をしてしまった。それからは、冷え切った生活が待っていた。無視される日々、仕事帰りの家で酒に溺れる父親、泥酔しながら物を投げたり、罵声を言われる。そんな日々が続いている。……母親はいないけどまた昔みたいな優しいお父さんに戻ってほしいと思っている。



 学校に到着して席に座っていると、横から声が聞こえてきた。


「紬ー、おはよー」


 彼女は葵。私の数少ない友人で学校で虐められて死にたくなっていた私を助けてくれたとても大切な人で友達。それからは次は私が葵ちゃんを助けると心に決めている。葵ちゃんの前では私も昔みたいに戻って話せる。


「葵ちゃん! おはよう! ねえねえ、昨日のテレビ見た? 面白かったよね! 道路で滑って転んだ後のボケが面白かったよね!」


「ね! めっちゃ分かる! あそこは私も大笑いしてたよ。でね? 今日ね、お買い物に行かない? ほら、最近一緒に遊んでないでしょ? リフレッシュをしてほしいなって思って」


 葵ちゃんは、椅子の上に座りながら笑顔で伝えてくる。……今日はバイトだ。欠勤する電話を入れても迷惑だから、遊びの約束を断るしかない。


「ごめんなさい。今日はバイトなの。……本当にごめんなさい。また後日で大丈夫?」


 悲しい顔をしながら断る。心が痛いよ。


「そっか。バイトなら仕方ないね。じゃあまた今度にしよっか。」


「誘ってくれてありがとう。都合が良い日は連絡するね!」




 授業が終わり、飲食店のバイトをする。飲食店のバイトは進学のためにお金を貯めつつ、賄いを食べるために始めた。……バイトが終わり、家に帰る。


「ただいま」


 靴をに脱ぎ、揃えてから家の中に入ってドアを開ける。……居間にお父さんがいる。近づきながら心の中で深呼吸をして話しかける。


「お父さん。今日はね、学校で友達に遊びに誘られたんだ。バイトがあって断っちゃったんだけどね。でもね、とってもいい子で」


 リモコンを手に取って勢いよく私の顔に投げつける。リモコンが顔に当たり床に落ちる。唖然とする。


 お父さんがイライラした様子で机を指さしている。


「早くリモコンを置け! ……チッ! 糞が!」


 部屋中に響くような大きな声で叫んだ。私は泣きそうになりながら、リモコンをそっと机の上に置いた。


「ごめんね。お父さん。話しかけたりしてごめんね」


 ふらふらとした足取りで、部屋の中に入る。……今日もダメだったよ。何が悪いんだろう? 私にはもう何も分からない。ただ私はお父さんとまた昔みたいに笑いあいたいだけなのに……。





 今日は学校でバイトが休みの日だ。ワクワクした気持ちを抑えながら学校に向かう。教室に入り葵を探す。……いた! 小走りで近づく。


「葵ちゃん、今日は何と! バイトが休みだから遊びに行けるよ! どこに行こっか? どこか行きたいところあるの?」


「本当!? じゃあショッピングモールに行こっか!」


 授業が終わり、学校から出て町の中を歩く。




 葵が真剣な顔をして、私の顔を覗き込んでいる。どうしたのかな?


「やっぱり、紬は凄く綺麗だよね。……いや、どちらかと言うと可愛い系だよね。」


 嬉しくなって、顔がにやけちゃう。うふふ、本当に嬉しいな。心が暖かくなってくるよ! 私も葵ちゃんを観察して良い所を探す。


「えへへ……嬉しいな。 葵ちゃんも凄く綺麗だよね。素敵なお姉さんっていう感じ。スタイルもいいし羨ましいよ!」


 他愛もない話をしながら、ショッピングモールに向かって歩く。ふと顔を前に向けると青信号が見える。話しながら歩いていると車道を猛スピードで走る車が見えた。思わず、葵ちゃんを強く前に押し出す。……ごめんね葵ちゃん。


 私も逃げようと車が走っている方向を見る。車は無慈悲にも、目の前に迫っていた。避けられない! と思った瞬間に吹き飛ばされていた。


 大きな衝撃を受けて体が道路に投げ出される。頭を強く打ちながら体が横向きで転がっていく。……体が動かない。腕がどこを向いているのか分からない。私はどうなったの? 助かるの? ……まあ、どっちでもいいか。生きていても幸せになれるかなんて分からないし。どうでもいいかな……。


「紬ちゃん? 紬ちゃん! ねえ! 大丈夫!? 今救急車呼ぶからね!」


 顔に涙が当たる。葵ちゃんが泣きながら、体を揺らしてくる。


 ……葵ちゃんは無事だよね。それだけ分かれば、もう……何も後悔することはないよ。無理やり腕を動かして、葵ちゃんの頬に手に伸ばして撫でる。意識も朦朧としている。……何も見えなくなってきた。ああ、もう力が入らない。……そうか、私は死ぬんだな。……葵ちゃんありがとう。葵ちゃんだけが支えだったよ。本当にありがとう。私の分まで幸せに生きてね。




 ……あれ? 体が動かせる。私は死んでいないの? 思い切って目を開く。──ここはどこ? 白い空間に寝ている。見たこともない。ここはどこ?ベットも何もない。思い切って立ち上がり周りを見渡す。大きな白い箱の中にいるようだ。


「柊 紬ですね。初めまして、私は女神です。」


 ……え? この人は一体何を言っているんだ?私は女神ですって。怪しいなあ。怪しすぎるよ。知らない人だし頭がおかしいのかな?


「あの……何か証拠とかあるんですか?」


「柊 紬、16歳。女子高校生。小学生3年生までは、両親と暮らしていたが母親の浮気によって離婚した。その後は父親と住んでいる。父親との仲は悪く。話しても無視、もしくは暴力と罵声が飛んでくる。学校では、いじめを受けていたが」


「分かりました! 信じます! もう言わないでください!」


 耳を両手で塞ぎながら叫ぶように答える。


「申し訳ないです。傷つけてしまったようですね」


 ふと、葵ちゃんのことを思い出した。


「……っは! 葵ちゃんはどうなったんですか! 教えてください!」


「ええ、あの方は無事ですよ。あの後は医者になり、結婚をして幸せに暮らしますのでご安心下さい」


 思わず安堵の溜息が出る。良かった……本当に良かった。なら安心だよ。私はどうなっちゃったのかな?


「……私は死んでしまったのですか? 女神様に会っているということは死後の世界ですか?」


「ええ。あなたは交通事故により亡くなってしまいました。死後の世界とはまた違いますが、そうですね……ここは転生するための場所です」


 そっか。やっぱり死んじゃったんだ。え? 転生できるの? 何で? うーん、よく分からない。


「私ってそんなに善行を繰り返してたの? 良く分からない。」


「父親と不仲になってとしても、仲を戻そうしたこと。友達を助ける勇気。いじめられていても腐らない心。随分不幸な人生を歩んできたので、異世界に転生して頂きます」


「元の世界には戻れないのですか? 申し訳ないのですが、今の世界では死んでしまったので生き返らせるのは不可能なのです。その代わり私の世界で生きて頂けないでしょうか?」


 うーん、女神様の世界かー。異世界っていうと怖そうだよね。モンスターも怖いし異世界人も怖そうだ……大丈夫かな?


「どんな世界なのでしょうか? 戦争してたり怖い世界ですか?」


「いいえ、平和な世界ですよ。800年程前は戦争をしていましたがね。科学は栄えておらず、その代わり魔法や魔道具が栄えています。他には冒険者ギルド、魔物がいたり色んな種族が住んでいて、貴族・王族も存在しますよ。……そうですね。ファンタジーな世界で伝わるでしょうか?」


 わあ! 魔法! 冒険者ギルド楽しそう!! 葵ちゃんから貸してもらった異世界系のライトノベルで見たことあるよ! うふふふ……ワクワクするなあ……私TUEEEができるのかな?できなかったとしてもまったり過ごせればいいかな。荒事は怖いからね。


「ワクワクしながら目を輝かせて──可愛いですね。ですが、気を付けて下さい。世界は平和ですが悪い人はいますから」


 可愛い!? もしかして考えていた事が表情に出てたのかな?

 日本でも悪い人は沢山いるし、異世界にもいないわけないよね。浮かれちゃってた。気をつけなきゃ。


「分かりました! 異世界に転生させて下さい!」


「転生ですね。畏まりました。いくつか能力を差し上げますね。異世界言語翻訳機能、異空間収納機能、癒しの力ですね。ひとつひとつ説明をしますね。異世界言語翻訳機能は聞いた言葉、話したい言葉が異世界言語に翻訳されます。別の言葉を覚えるのは大変なので差し上げますね。知性のある動物の言葉も理解できますよ。異空間収納機能は、文字通り異世界に物を収納する機能です。生きている生物は入れることができません。なじみのある言葉で言えばアイテムボックスですね。癒しの力は、自分と相手を怪我や腕などの欠損を治療することができます。」


 わあ……こんなに貰ってもいいのかな。何でこんなにサービスするんだろう? 何か悪いような気がする。何か手痛いしっぺ返しが来るのかな?


「何でこんなに能力をもらえるんですか? 少し怖いです」


「もちろん、異世界で良い生活を送って頂きたいためです。」


「女神様! ありがとうございます!」


 女神様が指を振ると、視界が真っ暗になった。


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